第150話 弱点
「やっと使うか」
「なんと!!!」
師匠の少し呆れたような安心したような顔と、先生の驚愕の表情が視界の片隅に写った。
「それって…!」
また、姉弟子は俺が魔力を使い始めたのを気付いたような反応をする。やはり、基本的に魔物を狩る専門の冒険者と違い、対人戦を基本とし、腕を磨いている者にならこうもあっさりバレてしまうのか。道場などが盛んなこの街の近くでは魔力は使わない方が身のためかもしれない。
それはとりあえず置いておくとして。
「行くよ!」
俺は姉弟子に向かって行った。今度はスピードを乗せて正面から姉弟子を大鎌で斬り付けた。
ぶよんっ!
「………」
しかし、それでも効果は無かった。刃を当てて押したり引いたりしても変化は無い。
これでは一件無敵に見えるが、無敵ということは無いだろう。だって、最初に先生に負けたのか扉から転がってきたし…あっそうか。
「はあっ!」
「うっ…」
俺は大鎌の峰で姉弟子の脇腹を押し込むようなイメージで殴った。すると、姉弟子は少し苦しそうな声を出してから反撃してきた。俺はそれを後ろに飛んで躱す。
「それが弱点か」
俺は姉弟子には聞こえない程度の声でそう言う。
柔らかいから斬るような攻撃には強かった。しかし、柔らかいことで攻撃の威力が強くなるほど姉弟子の闘装?は凹んでしまう。身体にピッタリ纏っているのに凹んだら、自分の闘装?に殴られたような感触があるだろう。まあ、それでも打撃の威力が軽減していることに変わりは無いけど。
「しっ!」
そこから俺は雷身体強化によって増したスピードを活かしてヒットアンドアウェイで姉弟子の攻撃には当たらず、一方的に攻撃を仕掛けた。
そして、それを繰り返すと姉弟子の動きに変化が現れた。
「うぐっ…ぐ…」
姉弟子は反応速度が落ちてきた…と言うよりも動きにキレがなくなってきた。やはり、傷を付けなくても雷付与の雷が効いているな。
師匠の闘装は一定以下の攻撃無効というイメージだが、姉弟子の闘装?は攻撃のショック吸収といったイメージだ。姉弟子のは吸収だから弱い雷効果しかない雷付与の効果も繰り返されるとだんだん効いてくるのだ。まあ、雷が効くのには他にも理由がありそうだけど…。
ただそのイメージだけ聞くと、師匠の闘装の方が優秀に聞こえるが、師匠のよりも姉弟子の闘装?の方が優れている点も多々ある。その1つに姉弟子は俺が何度攻撃しようと1度も闘装?を作り直していないというのがある。師匠の闘装と違い、受けられるダメージ上限がないことで、自ら解除するまでは壊れないのだ。
ただ、俺の予想が当たっていたら、姉弟子の闘装?には致命的な弱点があると思うけど。それを今から試す。
「轟け!」
俺の魔法の詠唱が始まると、姉弟子は慌てて俺の近くから離れようとする。しかし、雷付与の攻撃を喰らい続けたことでダッシュで逃げれていない。
「サンダーボール!」
「あがっ!」
俺の魔法は姉弟子の腕に当たった。闘装?があるのに姉弟子は今の一撃だけで全身に大ダメージを受けたようで、膝を付いて動かない。もちろん、今の魔法に特別多く魔力を込めたりはしていない。むしろ、いつもよりも弱めにしてすらいる。
「ぐっぐぅ…」
姉弟子はそれでも立ち上がろうとするが、さっき以上に身体上手く動かせないようで立ち上がれない。
「轟け、サンダーランス」
そんな姉弟子の目の前に雷の大槍を出す。もちろん、追い打ちで放つつもりでは無い。いつもならすぐにトドメをさせると示すために首元に大鎌を置くのだが、今回それをしてもトドメにはならない。だから、雷の大槍を首元に置くのだ。
「そこまで!勝者、ヌルヴィス」
師匠がそう宣言したので、俺は魔法を消した。
そして、姉弟子も闘装?を解除した。
バシャンっ
姉弟子が闘装?を解除すると、それはまるでというか、まんま水のように下に落ちて床を濡らす。
「やっぱり水魔法だったか」
「当たり」
魔力感知はできないが、見た目の色と斬った時の感触でこの闘装は魔力、しかも水魔法でできているのではと感じた。それを確かめるために雷付与を使ったというのはあった。
水は雷をよく通す。だから普通なら身体に傷を付けないとそこまで効かないはずの雷付与でもかなり効いてしまったんだ。
姉弟子のは闘力を使った闘装ではなく、魔力を使った魔装だったのだ。
魔力を持っているのはわかったが、それならあの俺以上に感じる攻撃力は何なんだ?
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