第149話 顔合わせ

「かっかっか!」


「ん?」


少女が消えた道場の方を向いて師匠は凄く嬉しそうに笑っていた。笑い終えると、俺の前を通って道場の方へ行く。それを俺は着いて来いという意味で受け取り、師匠の後ろを歩き、俺も道場の方へ進む。


「婆さん!帰ったぞ!」


「爺さんや!今回は随分遅かったじゃないですか!」


「爺様!」


広い道場の中には犬耳の年配の女性と、さっきの少女の2人だけが居た。


「後ろに居るのが遅かった理由と思っていいんですかい?」


「ああ、新たな弟子だ。テストで儂の手を使わせるくらいのモノを持っておるぞ」


師匠はそう言うと、2人の女性は大きく目を見開いた。


「お主にも紹介するぞ。お前の第二の師匠であり、儂の妻のパウレアだ」


「私のことは先生とでも呼んでくれればいいですよ」


「これからよろしくお願いします!先生!」


俺はそう言ってから先生の方に頭を下げる。


「そして、これが儂の孫でお主の姉弟子となるラウレーナだ。歳は今年で17だからお主の一個上だな」


「よろしく」


「よろしくお願いします」


姉弟子はツリ目の鋭い目で俺を観察するように見ながら挨拶をした。俺もそれに応えるように挨拶を返す。


「さて、婆さん達にこいつの実力を見せるために早速だが、孫と模擬戦をしてもらうかのう」


「ほう」


師匠の提案に先生が面白そうみたいな反応をして俺と姉弟子を見る。そして、姉弟子は俺を睨むかのように横目で見ている。

この模擬戦をするのは決定事項のようで、俺達の意見は聞かないで、姉弟子も俺から離れて両腕を構える。

その間に師匠は道場の扉の鍵を厳重に閉めていた。


「お主は好きに武器を使って良い。そして、どこまで使うかは好きにせい。その代わり、温存して負けたら10日は雑用しかさせんからな。

レーナは最初から全力を出していけよ」


「分かった」


「分かりました」


俺にだけ何が言いたいかを理解できた。要するに、師匠は魔力を使うかどうかは好きにしろ。ただ、使わずに負けたら許さないということか。


「両者準備は良いか?」


「はい」


「ああ」


俺は大鎌を持っているが、姉弟子は武器を持たず素手のまま構えている。


「始め!」


始めの合図で姉弟子は水色の闘装?を纏う。モヤを少なくしているのか、モヤは見えないが、身体強化もしているはずだ。

対して、俺は身体強化を全力でかける。


「ふっ!」


まず、姉弟子が向かってきた。身体強化はしていると思うが、スピードはそこまで速くない。今の俺の方が速いくらいだ。


「っ!?」


しかし、姉弟子が近寄って来た瞬間に危険感知が反応した。


「やっ!」


姉弟子が放った拳を大鎌で防ぐ。拳と大鎌がぶつかったと思えない甲高い金属音を発しながら俺は足を引きずりながら後ろに吹っ飛ぶ。


(移動速度と攻撃速度がこんなに違うのか…)


多分だが、攻撃のために拳を振るなどは敏捷ではなく、攻撃のステータスに関係するのだろう。そのため、攻撃は移動なんかよりもはるかに速かった。最初は様子を見ようと考えてたのは甘かったとしか言えない。

ダメだな。多分、護衛したジャルスの取り巻きや勇者らなど最近出会った少女はろくなのがいなかったからか無意識で侮っていたかもしれない。それには師匠から俺の下位互換と聞いていたのも侮ってしまった原因かもしれないな。

それらは一旦全て忘れよう。そもそも相手は姉弟子だ。油断できる相手のわけが無い。危険感知が無かったら今の一撃で終わっていた可能性もある。


「撃て!アタック!」


俺は試しに向かって来ている姉弟子に無属性魔法を放つ。少し目を見開いて驚いた様子をした姉弟子だったが、無属性魔法にはお構い無しに向かってくる。そして、俺の無属性魔法を片腕で払うように弾く。


「ふっ!」


無属性魔法を弾くために少しスピードが遅くなった瞬間に俺は姉弟子の後ろに回り込む。スピードでは俺の方が速いのだ。


「はあっ!」


そして、俺は大鎌を全力で姉弟子の背中目掛けて振る。これで俺の攻撃が効くか確かめるつもりだ。多少でも闘装?に傷が付いてくれればと。

しかし、結果は全く予想と違った。


ぶよよんっ


「……は?」


俺の大鎌はぶよぶよとした水色の闘装?に防がれた。混乱しながらも、俺は一旦距離を取る。


(何だあれ?)


闘装というのはあんなに柔らかくできるようなものなのか?そもそも師匠の闘装しか俺は知らないからどうなのか分からない。水色という明らかな違いのせいか?


「まあ、何にしても…」


ヒビができるかで見極めるつもりだったのだが、結果的には全く効いていない判定でいいだろう。


「雷身体強化、雷付与」


このままではダメージを与えられないと悟ったので、俺は魔力を使い始めた。

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