獣人国修行編
第148話 到着
「そういえば、ここはもう獣人国ガルダルクだぞ」
「え!もう?!」
走り始めて今日で10日目だが、もう獣人国ガルダルクに入っていたのか。ずっと森の中を走っていたから全く気が付かなかった。
「スピードが上がったからのう」
「なるほど」
俺は今、全力の半分ほどの強化で走っている。だからその分スピードは最初よりもかなり速くなっている。ただ、出力を強めた分、今ではモヤを半分ほどを抑えるのが精一杯だ。
「とは言っても首都まではどこかに寄るつもりは無いから当分気にせんで良いぞ」
「それもそうか」
獣人国というのだから獣人が多いのだろうが、そもそも誰とも会わなければ関係ない。森の中を爆走している途中で誰かに会うとは考えられないしな。
「ちなみに、明後日辺りで首都まで残り半分くらいの距離になるぞ。最低でも首都に着くまでに全力を出してもモヤを抑えられるようになっておけよ。そうしないと道場に着いても何も教えられんぞ」
「ああ!」
俺は改めてやる気を入れ、師匠において行かれ無いように必死に着いて行った。
「思っていたよりも早く全力を出してもモヤを抑えられるようになったのう。元から闘力と魔力操作のスキルを取得していたのが良かったのか、はたまたセンスが良かったのか」
「もちろん、センスが良かったんだぞ」
なんと、俺は首都まで3/4ほど来たところで全力の身体強化を行ってもモヤの量を少なくできるようになった。とは言っても少なくできる量は1/5程だが、それでも全力を出してもできることには変わりない。師匠もここまで出来れば後は慣れと言っているくらいだ。ちなみに、この短期間で魔力操作と闘力操作のスキルレベルが3にあがった。
「では、次は闘力による強化と魔力による強化を同時にやってできるかだのう」
「おおう…」
俺は走り出してから1度も身体強化と身体属性強化を同時に行っていない。
「ちょうど昼の休憩に良い。やってみろ」
「ああ!」
俺は言われた通りにそれぞれの強化を同時に行ってモヤを減らそうとする。もちろん、強化はそれぞれ半分程の強さで行う。
「お、おお…おおお?!」
片方ならもう慣れたと言っても、モヤを抑えることが同時になると何倍も難しくなる。
感覚的には片方の時は目の前で両手でギュッと抑えられていたものが、同時になったことで体の左右それぞれで片手ずつ抑えている感じだ。
一応抑えられる量自体は減っているが、できなくはない。ただ、それだけに集中しないといけない。とても実践的とは言えない。
「よし、走るぞ」
「ちょっ!?」
そんな俺を見て師匠は普通にまた走り出そうとする。俺は仕方なく強化を少し弱めようとする。
「できているんだから強化は少しも弱めるなよ」
「はあ!?」
師匠はそう言って走り出してしまった。こんな自分がどこにいるかも分からないような森で置いてかれる訳には行かないので俺も走り出す。
「あっ!」
しかし、走った瞬間モヤを抑えるのが途切れそうになってしまった。慌てて抑えるのに集中する。
「あだっ!」
すると、今度は先を見るのが疎かになって木にぶつかった。
「何をふざけておる!早く行くぞ」
「このじじいが…」
俺は本人には聞こえないようにボソッと悪態をつく。この師匠に弟子ができない理由はスパルタ過ぎるからじゃないのか?
「儂の孫ならこの程度簡単にやるぞ」
孫は闘力と魔力の2つを持っていないだろと文句を言いそうになったが、それをぐっと飲み込む。人それぞれできること、得意なことは違うのだからそれを言っても何も始まらない。
ただ、誰かは同じくらいのスパルタでもできるのに、ここで待ってくれというのも、もう少し強化を弱めさせてと言うのも何か負けた気がして嫌だ。
「すぐに追い越してやるから先に走ってろ!」
「期待しておくぞ」
その日は何度も木や岩にぶつかることになったが、俺はそれでも止まることなく走り続けた。途中から避けるのは諦めて木や岩をぶっ壊しながら進んで怒られた。
この日からは身体強化と身体属性強化を同時に行うようになった。
「着いたぞ。ここが首都ガルダルクだ」
「おお!」
最終的に王都を出てから18日で獣人国の首都へと辿り着いた。首都だけあって立派な外壁がある。
「では、行くぞ」
「あ、ああ」
他国のため中に入るのに緊張したが、師匠が弟子を連れて来たの一言で何も確認されずに通された。
街はやはりというか、当たり前だけど獣人ばかりだった。人族である俺の方がジロジロと見られるという初めてのことを体験した。
「さて、ここが儂の道場だ」
「でか…」
弟子が居ないとか言っていたので、寂れている道場を想像していたが、王都のギルドよりも全然大きい。大通りの横に大きな修練場となる道場の本館があり、奥に居住スペースがあるそうだ。
バンッ!!
「ん?!」
いきなり道場の扉が開いて犬耳でピンク髪の獣人少女が出て…いや、吹っ飛んで来た。少女は道の中央まで転がるが、道にいる人間はそれを見ても驚きも、心配そうにもしない。全く気にしていないか、笑っているかの二択だ。まるで、ただいつも通りの日常の一コマのような扱いだ。
その少女は師匠と同じくダボッとした道着や浴衣と呼ばれる物を着ていたが、そこから少し見えている腕や脚には真新しい痣が何ヶ所もある。
「まだ昼過ぎだが、もう寝る時間かい!」
「もう一本!」
その少女は道場の中から聞こえた声に応えると、水色の闘装?を纏って道場の中に突っ込んで行った。少女にはすぐ近くにいる俺と師匠のことは全く目に入っていなかった。
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