第146話 忠告

「ところでカラゼス達は大丈夫かな?」


俺達は師匠のおかげで暗殺者を追い返すことができた。だが、その暗殺者がカラゼス達の元へ行かないか心配だ。


「我々の仲間と思われないようにするために違う方向に向かせたし、大丈夫だろう。それにここに来るまでが遅かったから、恐らく伝令が見た情報しか伝わっておらん。それだけであやつらを狙わないだろう。今後下手に儂らと関わるよりは余程安全だ」


「ならいいけど」


欲を言えば、街を出る前に暗殺者らを全員殺れればいいんだが、どこに本拠地があるかも分からっていないからそれは不可能だ。今のベストの行動が王都を去るしかないのだな。


「さて、これから走って道場まで向かうわけだが、その道中でも指導をしていくぞ」


「分かった」


薄々気付いていたが、走って隣の国まで行くつもりのようだ。まあ、俺も15歳になって町から出た時は走ったし、結局馬車で行くよりも早くからな。


「まずは軽くでいいから身体強化をしてみろ」


「ああ」


俺は少し半透明のモヤが溢れるくらいの軽い身体強化をする。


「ではモヤをそれ以上増やさないように身体強化を強くしてみろ」


「え?わ、わかった」


今までそんなことを考えて身体強化をしたことがなかった。だが、とりあえず言われた通りにやってみる。


「うぇ?何だこれ?」


想像以上に上手くいかない。モヤの量を維持したままだと多少は強くできるが、ギリギリ強くなったのを感覚で気付ける程度だ。


「身体強化の見えるモヤのような闘力は体から全て漏れ出ていて無駄になっておる。それを少なくすればするほど闘力は温存できる」


とはいえ、師匠でさえ見えるモヤの量を1/4に抑えるのが限界らしい。そもそも、身体強化を強くするほど多く漏れ出るのが当たり前らしい。それを闘力操作で無理やり抑えることで身体強化を効率よくするらしい。

ただ、例えモヤの量を半分に押えただけでもかなりの温存になるそうだ。


「とりあえずは今の量をキープしながら走るぞ。それに慣れたらどんどん強くしていく」


「はい」


身体強化を強くするほど闘力が漏れ出ようとする力も強くなるため、初めは弱い強化で漏れを押えて慣れていくそうだ。

そして、最終的には当たり前のように無意識でモヤを抑えられるようにするそうだ。


「ちなみに、対人戦ではかなり有効な手段ともなるぞ」


「…強化の度合いを騙せるのか」


身体強化はモヤの大きさで大体の強化度合いが分かる。だが、モヤを抑えることで相手に侮らせることができるってことか。


「お主はさらに魔力での強化でも同じことをするから大変だぞ」


「あ、そっか」


身体属性強化でも俺は同じことをしないといけないのだ。身体属性強化の方はモヤに属性ごとの色が付いて目立つので、そのモヤを減らせるのはかなり良い。人前でも使いやすくなる。


「では、そろそろ走るぞ」


「おっす」


走り出した師匠に置いてかれないように俺も走る。師匠は俺の強化度合いを分かった上でその速度でギリギリ着いてこれる速度で走ってくれた。ただ、道を走らないため、木や岩を避けるのに少しでも大回りになると、差が開いてしまう。だから先を見ながら状況を予測しながら必死で走らなければいけなかった。ただ、暗くなってきてからは先が見えずらく更に大変になった。



「今日はここまでだな」


「あー疲れた」


1、2時間ほどで完全に真っ暗になって今日は走るのが終わりとなった。師匠は野営に慣れているのか、速攻で野営のための様々な準備を完了した。


「明日は朝から走るから今日以上に大変だからな」


「…頑張る」


師匠は夜ご飯を食べながらそう言ってきた。確かに今日の何倍も走ると思うと、かなりキツそうだな。だが、弟子になると言った以上どんなにキツくても頑張るしかない。


「…それと、これはお主のポリシーなのかもしれんが、あくまで忠告として聞いてくれ」


「うん」


師匠は少し言いにくそうにそう前置きをしてから話し出す。


「人前で魔力を使って戦わないのはあまり好ましくない。もちろん、咄嗟に使わないことで危険になるというのもあるが、今回儂が言いたいのはそういうことでは無い。

魔力を使わない戦闘に慣れてしまう可能性があると言いたいのだ。今はまだ魔力を使った戦闘の方に体が慣れているが、逆になる可能性は大いにある。お主はまだまだ強くなるだろう。それに伴って魔力を使う必要があるタイミングはさらに少なくなるであろう。そうなった時にお主の感覚はどっちが本来の戦闘方法と認識するかは分からん。

ただ、お主が人前で使いたくないと警戒するのも十分わかる。だからこれは師匠からではなく、そこら辺におるジジイからの一意見として考えてくれ」


「………忠告ありがとう」


師匠は全力を出していないのが魔力を使いたいとする俺の動きのぎこちなさから分かった。

だが、師匠は逆に魔力を使った時の動きがぎこちなくことを心配してくれているのだ。そうなってしまうと、全力を出したくても上手く出せなくなる。


「お主は今日は色々と疲れただろう。今日の見張りは儂がやるからゆっくりテントで休め」


「ありがとう」


俺は師匠に甘えることにして、ご飯を食べ終えたらテントで休ませてもらった。寝るまでの間、師匠の忠告が頭の中でぐるぐると回り続けた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る