第145話 師匠の戦い方

「弟子になったけど、今日から何か教えてくれるのか?」


弟子入りするのは初めてなので、これからどうするのか全く分からない。


「いや、今から儂の道場に帰るぞ」


「俺はそこで寝泊まりすればいいのか?」


「そうだ」


それから宿の予約をキャンセルし、前金を返してもらわないといけないな。


「ちなみに道場ってどこにあるんだ?」


「隣の獣国ガルダルクの首都であるガルダルクだ」


「へぇ?」


ちょっと待て。少し移動するような言い方だったのに何で隣国まで行くことになっているんだ?


「それだったら行くのは明日とかの方が良くないか?普通にもう日が暮れ始めてるしさ。それに出ていく前に挨拶したい人だっているし」


シアとルイには当分会いたくないが、その両親にはマジックポーチを貰ったお礼と旅立つ話をしたい。


「もう王都に戻ることなく旅立つ。これは決定事項だ。それにその方がお主に都合が良い」


「それって?」


俺の疑問は無視して師匠は手招きをして少し遠くから見ていたカラゼスらを呼ぶ。


「ここから先の森の奥に入り、遠回りして街に帰れ。王都までの護衛だけでなく、ヌルヴィスを紹介してくれてありがとのう。報酬には色を付けておいたからギルドから貰う時は期待して良い。

さあ、行け」


「は、はい!」


師匠の力強い最後の「行け」という言葉でカラゼスらは師匠が指差している街とは反対方向へと走って行った。


「さて、儂らはこっちだ。念の為これを飲んでおけ」


「え?」


そして、師匠は俺を連れて街へ一直線に歩いていく。状況が全く分からない俺はとりあえず言われた通りに闘力ポーションと魔力ポーションを飲んでおく。



「それにしてもお主は何か恨まれることをしたのか?」


「何で?」


20分ほど歩いてから師匠が急にそう言ってくるが、本気で分からなかった。


「闘装」


「………っ!」


師匠が等々に闘装をしてから数秒後に危険察知が反応した。


カンっ!


しかし、俺が回避する前に危険察知元は師匠が俺の方に伸ばした腕に弾かれた。弾かれた物は俺の横に落ちる。


「矢?」


「正確には毒矢だのう」


俺のこめかみ辺りを狙って放たれたのは毒矢だったそうだ。危険察知が反応するまで全く気が付かなかった…。


「この技は暗殺者だのう。街を出た時には追っては居らんかったが、ちょうどお主が寝転んだ時に儂の察知に反応したのだ。何か暗殺者に狙われるようなことをしたのか?」


「あっ…1回襲ってきた暗殺者を返り討ちにした」


「かっかっかっ!十中八九それだな」


師匠は普通に笑っているが、今はそんな呑気な状況なのか?今回は前回と違って確実に殺しに来ている。俺だけだったらもう命は無い可能性すらあるぞ。

また、今回の暗殺者は前の失敗した暗殺の依頼主が俺のことを再依頼したのか、暗殺者側が暗殺依頼達成率100%にしたいとかなのかもしれない。


「調度良い機会だ。儂の本来の戦い方ってものを見せてやる」


師匠はそう言うと、身体強化をしてからさっきと同じように歩く。俺もそれに置いてかれないように身体強化してから横を歩く。


「まず、目で見えない相手からの遠距離攻撃は無視する。魔法にしろ、弓にしろそんなに遠くからでは儂にダメージは与えられん」


「お、おう…」


宣言通り、師匠は四方八方からやってくる魔法や弓を俺を庇って体で受けている。しかし、傷どころか闘装にヒビすら入ってない。


「そうすると、大体近くにやってくる」


「っ!!」


師匠が話し終わったところで、3m程近くまで4人の暗殺者が来たことでやっと俺は気配感知をすることができた。


暗殺者は前後左右からそれぞれやってきたのだが、まず暗殺者らの初撃を俺の頭を押して俺を座らせることで全て師匠が代わりに受けた。もちろんダメージは0だ。

次に、師匠は右の暗殺者の頭を右拳で殴り、前の暗殺者の顎を膝蹴りした。師匠の異常さに気付いた暗殺者が逃げ出す前に師匠はノールックで残りの左と後ろの暗殺者の首を掴むと、べキッという嫌な音が鳴った。


「そいつらはこうやって格闘術で殺る」


「お、おう…」


目や気配感知で師匠の動き自体は分かったが、実際にやられる立場だったら避けられる気がしない。防御もできるか怪しい上にできたとしても意味が無い気がする。闘装は硬いので、攻撃としても効力を発揮するのか…。


「暗殺者は防御力が低いのう」


いくら暗殺者の防御力が低めとはいえ、首を握り折るのは普通なら出来ないと思う。


「最後に魔法や弓を使ってきた奴と今のを見て逃げ出した奴を…」


師匠はそこまで言うと、立ち位置を変えながら四方を見渡す。そして、俺に視線を戻してから続きを話す。


「諦める」


「え!?」


対処法と言えないその行為に俺は素で驚いてしまう。


「儂は攻撃と防御は高いんだが、敏捷はそれらの1/3も無いのだ。だから敏捷特化の暗殺者相手に追いかけっこしても敵わないから追うだけ無駄だ。それに、儂なら魔法にしても弓にしても、蓄えを含めて魔力と矢が尽きるまで耐えられるから問題無い。まあ、目で見える範囲に来たらもちろん殺るがな」


「なるほど…」


師匠のこの戦い方は自分の長所と短所を分かった上での戦い方なのか。


「もう儂の感知内にすら居なくなったから今は襲ってくることは無い。だが、このまま街に居たら隙を狙っていずれは襲ってくるだろう。だから街に戻らずこのまま儂と共に旅立つんだ」


「…分かった」


確かに俺が街いると、延々と狙われ続けるだろう。下手すると、カラゼスらも巻き込まれるかもしれない。それなら完全にほとぼりが冷めるまで違う国に行った方が良いだろう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る