第144話 合否
「とりあえず、ほら回復ポーション」
「…あざっす」
老人は俺にいつの間にか手に持っていた回復ポーションを投げ渡してきた。俺はそれ手に取り、寝転んだまま飲み干す。これで魔法による怪我は無くなった。
ところで、闇魔法と氷魔法での怪我の度合いはほとんど同じだった。闇魔法の方がスキルレベルも高く、魔力は何倍も使っているのにだ。何でだ?
「よっと」
考えても答えは出ないので、とりあえず俺は上体を起こし、手は後ろについてダラっとする。
「ところでお前は魔族だったのか?」
「いや、人族だぞ。ステータスオープン」
俺は老人に隠蔽を無しのステータスを見せた。相変わらず魔族と間違えられるな。まあ、俺も同じようなステータスの者を見たら真っ先にそう聞くし、仕方ないけどさ。
「魔法職と物理職のどちらのステータスも全て揃っておるだと………」
老人は目をギュッと閉じたり、顔を上にあげてたりしながら何度も目線を逸らしてはステータスを眺める。
「ところで、どこでステータスを隠蔽してるって気付いたんだ?」
「最初の攻撃の時点でだ」
「はあ?!」
さすがにそれは予想外過ぎておもわず大声が出てしまった。
「看破による警戒度と攻撃の強さがあっていなかったからのう。それでステータスかスキルを隠しているに気付いたのだ。もちろん、これは普通の看破持ちにはできない芸当だ。儂の経験があってこそなせる技だ」
「なるほどな」
老人の対人経験が凄まじく、この看破の内容ならこのくらいの実力と分かるようになってるんだな。隠蔽などのステータスを隠すスキルが無い場合に敵として現れたら最悪だな。
「ところでテストの結果はどうなんだ?」
魔力を使ってからはかなり頑張ったと思う。現に全身に闘力を纏うだけでなく、さらに手まで使わせた。ただ、物理職にあるはずのない魔力を使うのは邪道とされたらアウトだ。
「もちろん合格だ。まあ、魔力を使う前から及第点ではあったがな」
「え!?そうなの?!」
魔力を使う前に不合格と言われたから完全に不合格だと思っていた。
「あ、言った通り実力的には不合格だぞ。ただ、闘力を飛ばして攻撃できるスキルがあって加点されたことでギリギリ合格になったぞ」
「いや…それはもう不合格でいいわ」
実力的には不合格だが、たまたま良いスキルを取得してから合格というのは1番不本意だ。そんなのまぐれで合格したのと大差は無いように感じてしまう。
「だが、魔力を使い始めてからの動きは迷いもなく良かった。闘力と魔力の組み合わせ方、魔法の出し方も素晴らしい。今まで何十年の間でテストした者の中で最も良いとすら思ったぞ」
「それは良かったぜ」
老人はそう大絶賛してくれる。そう言って貰えると全力を出したかいがあったってもんだ。
「儂の弟子になってくれんか?いや、頼む。なってくれ」
「……」
老人は頭を深く下げて俺にそう懇願してきた。
「…理由を話してくれ。いくら俺に才能があったとしてもそこまでするとは思えない」
老人は当初は無理して誘うつもりはなさそうだった。それが魔力を使ったからって変わるか?もちろん、変わる者もいるだろうが、この老人はあまり地位を気にしている様子は無かった。それなら別に魔力があろうとそこまではしない気がする。
「…今いる儂の孫のためだ。孫はお主の完全な下位互換のようなステータスなのだ。それでも儂に追い付こうとどれだけ馬鹿にされようが頑張っておるのだ…。お主が近くで特訓することで孫の目指す先が多少なりとも見えてくるはずなんだ」
「下位互換?」
下位互換という言葉が凄く気になったが、孫とはいえステータスの詳しい内容は勝手に人に教えられないと言われた。どうしても知りたかったら、自分のステータスを見せる代わりに本人に見せてもらえと言われた。
「それで弟子になってくれるか?」
弟子になるのをアリかナシかで本気で考えてみた。いや、考える必要すら無かった。普通にアリだ。俺の今の全力の魔法ですらも耐えうるあの防御術はかなり魅力的だ。ちょうどレベル上げにも行き詰まっていたのでこれは良い提案だと思う。
だが、1つ問題がある。
「俺にはもう闘力を他に割くほどの容量が無いんだ」
今さっき全力を出すために身体強化、無属性魔法、無属性付与、この3つを使ったらすぐに闘力が尽きた。俺が闘力ポーション無しでこの3つを全力で使って戦える時間は10分程だろう。そこに追加で防御に闘力を使ったら俺の戦闘可能時間が5分以下になってしまう可能性すらある。
「その心配は無用だ。そもそもお主の闘力の使い方には無駄が多過ぎる。素人はよく誤解するが、闘力操作は闘力をより早く、より多く込められるようにするためのスキルでは無い。より効率的に闘力を扱うためのスキルなのだ。これは魔力操作にも当てはまる。儂らならそれらの技術を教えることも可能だ」
それは知らなかった…。そして、知ったところで自分ではそれをこなせるかと言われると難しい。これはどうするか決まったな。
「俺を弟子にしてください」
「良かろう!これからは儂のことは師匠と呼べ!」
こうして、俺はもっと強くなるために老人改め、師匠の弟子となった。
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