第141話 老人の目的

「さあ、好きに食べてくれ!」


続々と料理が運ばれてくる中、老人は得意げにそう言う。この場に案内したのも老人だし、もしかするとここにはよく来ているのかもしれない。


「うまっ」


実際食べてみると、かなり美味しい。こんなことならカラゼスに任せず、俺もメニューを見て好きなのを頼んでおけばよかったかもしれない。


「さて、警戒が解けたところで、もう1回警戒させることを言うのもなんだが…」


「…ん?」


俺はご飯を食べながら俺の方を向いて言いにくそうに話す老人に目線を向ける。


「儂と戦ってはくれんか?」


「んぐっ!?」


思わず食べているものを吹き出しそうになるほど唐突で意味不明なお願いだった。確かにそのセリフは俺を警戒させるのに十分なセリフだ。


「兄貴!ギュランタさんは凄い強いんですよ!」


「そ、そうか」


この口ぶりからすると、カラゼスもこの老人と戦ったことがあるのか?まさか、護衛対象と戦うとはな。


「何のために?」


1番の疑問はそこだ。この老人が俺と戦いたい理由が分からない。ただの戦闘狂には見えないし。


「それを話す前に儂がこの国に来た理由を話そうかのう」


そう前置きした老人の話は長くなると思った。しかし、その理由は一言で済んだ。


「弟子を探しに来たんだ」


「…それだけ?」


「ああ」


さすがにそれだけではよく話が分からないので、詳しく話すように言うと、分かりやすく説明してくれた。


「儂がやっている道場に弟子として入るに相応しい実力の者を他国に探しに来ているのだ」


「なるほど」


そこでやっと老人が他国からわざわざこの国に来たという理由が分かった。ちなみに、カラゼスらに護衛を頼んだのも、若い冒険者をよく見るためだそうだ。そんなカラゼスらが俺を強いと絶賛するので、俺の事が気になっていたらしい。

一応理由分かったのだが、それと同時に疑問も浮かんでくる。



「何でわざわざ他国まで探しに来てるんだ?その国にもうお眼鏡に適う者は居ないのか?」


俺がそう聞くと、老人は目線を逸らして声を小さくして言いにくそうに話す。


「…儂の道場が厳しいや時代遅れと言われて他の道場に行ってしまうのだ」


「ああ…」


要するに、国内では悪い噂が立っているせいで才能ある弟子が来ないから他国まで探しに来ているってわけか。


「どういったところで時代遅れと言われているんだ?」


俺はそれが気になった。別に厳しいとかの情報では何とも思わない。強くなるために教えを乞いているのだから、厳しいと文句を言うのはそもそもおかしい。


「…他の道場ではもう攻撃中心の教えばかりなのだ。だが、儂の道場では防御中心で教えておる。それが時代遅れと言われておるのだ」


「確かにな」


武を新しく学ぼうとする若者がいきなり防御中心で学びたいとは思わない気がする。血気盛んな若者はより強い攻撃方を学びたいというだろうな。

だが、今の俺がどっちかの道場に必ず入らないといけないという前提で考えたら、防御中心の道場に入るだろう。攻撃は自分でも何とかなる。だが、防御に関してはそうも言ってられないしな。


「それで弟子になるためのテストとして戦ってほしいのか」


「そうなるのう。もちろん、戦ったら絶対弟子になれとは言わんから安心しておくれ」


戦うだけなら全然アリな気がする。この老人の使う防御の方法も気になるしな。



「ちなみに、カラゼスらは弟子としてのテストが受かったんか?」


「残念ながら無理だったのう」


「落ちてしまいました」


まじか。カラゼスらの強さでも落ちるのか。同年代で考えるとカラゼスらは頭1つ抜けているぞ。それはもうDランクになっていることからそれは明らかだ。平均的にDランクになるまでは順当にいっても2年はかかるのに。

もしかすると、弟子が中々入らないのはこの老人のテストが厳しく、合格者が少ないからもあるのかもな。


「分かった。そのテストを受けよう。戦うのは今日でいいのか?」


「そうか!もちろん、この後でよいぞ!」


こうして、俺はこの老人と戦うことになった。難関と言われたら合格したくなってくる。

それはともかく、頼んだ食事は全て美味しく頂いた。

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