第142話 老人の防御術

「さて、ここまでくればいいかのう」


ご飯食べ終えると、早速街から出て人が居ないような森までやってきた。


「随分と遠くまで来たな」


老人の後ろをついて行ったのだが、街から出て1時間近くも歩いたぞ。


「ここなら周りに気にせず戦えるだろう。冒険者というのは自分の手札が他人にバレるのを嫌がるらしいからのう」


「気遣いどうも」


確かにいつ敵になるかも分からない同じ冒険者相手に手打ちを見せたくは無い。


「さあ、いつでもいいぞ」


「は?」


老人の言葉に俺は呆気に取られる。それは老人が棒立ちでいるからでは無い。まあ、棒立ちなのも気になるが、そんなことを気にしている場合では無い。


「いや、武器と防具は無いのか?」


老人の着ているのはダボッとした明らかに防御力には関係無い普通の服で、他に装備は何もしていない。


「あるにはあるが、使う気はないぞ。だって必要無いからのう」


「ほう…」


完全に舐められている。もちろん、俺がこの老人よりも強いとは思えないが、そのぼんやりとした顔を驚きで染めてやる。


「それなら遠慮なくいかせてもらうぞ!」


俺は身体強化を使うと、大鎌を抜いて老人に向かって走り出す。


「ふっ…」


近寄った俺が大鎌を振る素振りをしても老人はピクリとも動かない。俺はここでわざと攻撃を遅らせて、さらに2歩進むことで老人の後ろに回り込む。


「はあっ!」


そして、老人の後ろから大鎌を斜めに振り、老人の肩付近を斬りにいく。しかし、それでもまだ老人は動かない。


ガキンッ!


「なっ!」


「ほう…?…ん?」


俺の大鎌は老人の肩に当たると硬い物に当たったかのような感触と共に軽く弾かれた。

老人の肩をよく見ると、そこだけ白く濁った何かを纏っている。これの似た物には見覚えがある。


「…闘力か」


「よく分かったのう」


それは俺の無属性魔法のシールドによく似ていた。ただ、俺の無属性魔法の盾は半透明なのとか、身体に纏うようになっているのとか違うところは数多くある。なにより、詠唱はしていなかった。



「やあっ!ふっ!」


ガキンッ!ガキンッ!


何度大鎌を振っても当たる場所に闘力を纏うことで防がれる。


「ならっ!」


打撃が効かないならと、俺は老人の腕を持って老人の体を浮かして地面に叩きつけようとする。


「儂と体術で戦おうなど50年早い」


「あっ!」


老人は掴まれた手を掴んでいる俺の手に巻き付けるように動かすと、簡単に俺の手を解く。そして、綺麗に着地する。

しかし、そこから老人は俺を攻撃しようとはしない。あくまでテストってことかよ。


「撃て!」


「ほう!」


俺は再び老人に大鎌を振りながら詠唱を始める。これに老人は戦いが始まって初めて感心したような顔をする。


「アタック!」


そして、無属性魔法を放つと同時に大鎌を老人に振り下ろす。


「ちっ…複数纏えるのかよ」


しかし、老人は2箇所に闘力を纏うことでいとも簡単に対処する。毎回箇所を変えて1箇所にしか纏わないのは最低限の力しか使っていなかったからかよ。

それからは無属性魔法を使いながら老人に攻撃していたが、成果は全く無かった。



「待て」


「ん?」


老人が手のひらを俺に向けてきて突然戦いを止めた。まだ俺の闘力は半分も余ってるぞ。


「この際、ステータスを隠していたことはどうでもよいが…」


「っ!?」


ステータスを隠していたことがなんでバレてるんだ?あっ!もしかすると、無属性魔法を完全に隠蔽して隠していたせいで、看破に無いものを使ったからか?

隠蔽がバレたことに内心動揺している俺に老人は続けて言う。


「なぜ本気を出さない!」


老人は俺を叱るような言い方で続ける。


「本来の全力の戦い方と違うのは見て分かるぞ。ここで本当は違うことがしたい、ここは本当ならこう動けるなどと一瞬無意識に考えることで、全ての行動がワンテンポ遅れていることで見て取れる!

儂がテストした者の情報を話すようなクズに見えるのか!何のために人目の無い場所に来たと思っておるのだ!この程度なら期待外れもいいとこだぞ!当然テストは不合格だ」


今日初めてあった老人のことを信じられるかと言われと微妙な話だ。しかし、俺はそのことよりも自分の中にあった傲りに気が付いたことの衝撃が大きかった。

正直、俺なら合格するだろうと内心では思っていたのだろう。その結果がこのザマだ。危ない、このままだったら勇者と同じように自分の実力を過大評価するような人間になっていたかもしれない。物理職だけなら俺はカラゼスらの少し上ぐらい実力しかないというのを自覚しないとな。



「絶対に今日の事を言わないと約束できるか?」


「愚問だ。墓まで持っていくつもりである」


俺は真剣な顔でそう言う老人を信用することにした。武に関してどれだけ紳士だったかはこれまでの戦いの実力を見て分かる。それは信用に値するだろう。何より、こんな不甲斐ない結果で終わりにしたくは無い。

俺の全力はこんなもんではない!


「闇身体強化」


俺は魔力での身体強化を行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る