第138話 勇者の必殺技
「そ、そんなことは言われなくてもします!」
聖女は俺にそう言うと、勇者を回復させ始めた。俺はさっきの一撃で終わらせようと本気で蹴ったわけでもないので、勇者は回復されてすぐに立ち上がる。
きょろきょろ
立ち上がった勇者は何かを探すように顔を色んな場所に向ける。
「探し物はこれだろ」
俺は勇者が探しているであろう剣の柄を勇者の方へ蹴飛ばした。一応安全には気を使って地面を滑るように蹴った。
「ん?」
「あんた!?」
「聖剣を足蹴にするとは神様への冒涜ですよ!」
聖剣というのはよく存じないが、勇者の剣を蹴った時に足先にピリッとした変な違和感と弾かれるような感触があった。
「その剣って勇者専用だったりするんか?」
「そうよ!」
「聖剣は勇者にしか扱えない神器です!」
なるほど。だから俺が触れた瞬間に変な感触があったのか。持とうとしたらもっとこの抵抗は強くなるのかもしれないな。勇者では無い俺が握ったらどうなるのか少し気になるな。
「許さない…!」
勇者はそう言うと、聖剣とやらを両手に持って上に掲げる。そう、俺はそれを見たかったんだ。聖剣を足蹴にした甲斐があったかもしれない。
「待っててやるからゆっくり準備しろよ」
「言われなくても!!」
勇者の持つ聖剣が白く輝くのを見ながら大鎌を抜き、俺は勇者にそう言う。勇者は待ってもらうのが当たり前のように準備をする。
(しかし、隙だらけだよな…)
勇者は両腕を上げているため、胴体ががら空きだ。どう考えても実戦向きでは無い。
(何をするかは知らんが、見せてみろ)
この準備段階は勇者と発エンカウントの時にも見た事がある。だが、その時はシアの両親に止められて最終的にどうなるのかは見れなかった。
正直、俺はこの技なら子オーガにも効いたと思っているのだ。この無防備な長いチャージ時間も騎士達が肉壁となってくれたら稼げるだろう。
「聖なる剣よ。我の力に呼応し、唸れ!」
前準備が終わったのかやっと勇者は詠唱を始める。その詠唱もゆっくり言うため、かなり長く感じる。詠唱を始めると、勇者の身体強化が消えた。もしかすると、これは闘力を使ったスキルで、身体強化をする分の闘力が無くなったから身体強化が消えたのかもしれないな。
「ホーリーストライク!」
勇者はそう言い切ると共に、掲げた剣を俺に振り下ろす。すると、そこから放たれた長さ2m程の白く輝く斬撃は地面を削りながら俺に迫ってくる。
別に勇者の斬撃の速度は俺の無属性魔法のスラッシュよりもやや遅いので避けれ無くはない。だが、それではつまらないし、何よりシアの家に傷ができる。
「はあっ!」
俺はさっきからやっている身体強化だけでなく、闇身体強化も軽くかけて大鎌を振り、その斬撃を受け止めた。
「お、重いなっ!」
勇者の斬撃は危険感知の反応の大きさから子オーガのパンチよりやや弱いくらいの威力だと思ったから俺は勇者の斬撃を受け止めた。しかし、その斬撃は思っていたよりもずっと強かった。今の強化では押されないようにするのが精一杯だ。放たれるのをわざわざ待ったのに、このまま斬撃の自然消滅を待つのは少し格好がつかない。それに今なら斬撃が白く輝いているから俺の姿は目立たない。ならばと、俺は闇身体強化を全力でかける。
「らあっ!」
俺は力一杯大鎌を振り切ることで、白く輝く斬撃を真っ二つに割った。割られた斬撃はすぐに粒のように細かくなって消えていった。それを見て俺はすぐに闇身体強化を解く。これにより、俺が纏う薄紫のオーラのようなものも消える。賢者のルイの近くで身体属性強化はあまり使いたくないからな。
「うそ……」
「ゆ、勇者様の聖なる攻撃が……」
俺に今の一撃が破られて勇者と聖女は腰を抜かして固まっている。この調子なら他に隠し玉は無さそうだ。
それと、闘力を使い切ったであろう勇者が腰を抜かすのはまだ分かるが、聖女は何で腰を抜かしてんだ。お前は回復しかしてないだろ。
俺はそんな2人を見ながら、大鎌を持ったまま勇者と聖女の方へ歩いていく。
「……」
「「ひっ……!」」
俺は勇者と聖女の前で立ち止まる。そんな俺を2人は軽く震えながら見上げる。
「さっき言ったけど、俺は学校に行く気もお前らのパーティに入る気も無い。それが分かったらさっさとそこをどけ」
「「………」」
2人は涙目で小刻みに震えながら這うように左右に別れて俺に道を開けた。必殺技を破られたくらいでこうなるなら最初から余計な事を言わなければいいのにな。
「もう2度と今回のような面倒事を俺に押し付けるなよ」
「わ、わかった…」
「うん…」
そして、シアとルイの横を通る時に小声でそう言うと、俺は門から屋敷の外に出て、宿に向かって帰った。
しかし、俺の予想通り勇者のあの一撃だけは子オーガに致命傷は厳しいかもしれないが、大ダメージを与えられただろう。まあ、それは当てることができたらの話だけど。
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