第135話 お詫び

「今の話を聞いても俺はあの2人の怠慢が悪いとしか思えない」


確かに機会は少なくされていたが、自分の実力が実際にどの程度なのかを知る機会はあったと思う。それをせずに驕っていたのは2人の責任だ。


「それに関しては何も言い返せない」


4人もそれは分かっているそうだ。だが、自分達がそれを教える役目をしてやれなかったことは悔やんでいるようだ。


「今回の演習で何があったか話してくれないかしら?」


「まだ話してなかったな」


俺の感情をぶつけただけで、実際に何が起こったのかは知らせてなかった。俺はオーガの元に行ってからを全て話した。話していくうちに4人の顔色はどんどん青白くなっていった。


「そ、そんなに酷かったとは……」


シア父さんが頭を抱えた。どうやら、4人は俺がシアとルイの戦いを見たり、軽く邪魔をされた程度だと思っていたそうだ。

それが蓋を空けてみたら足を引っ張る所の問題ではなく、俺は実際にシアとルイを助けて死にかけた。

4人はすぐに俺に娘達の行いを謝ってきた。しかし、それはシアとルイが悪いだけで、4人には責任が無いと謝罪は受け取らなかった。



「今までの約束は忘れてください。もうルイとシアのことは助けなくて…いえ、助けないでください。それで2人が死んでもそれは2人の責任でヌルは全く悪くないです。私達もそんなことでヌルを責める気持ちはこれっぽっちも持たないです」


普段は温厚で優しい言葉しかかけないルイ母さんが謝罪の代わりにそう言うと、他の3人も大きく頷いた。

本当はここにはもうシアとルイのことを助けないと宣言するために来たのだが、逆に助けるなと言われてしまった。


「今回の詫びになるか分からないが、せめての気持ちとしてこれを貰ってくれ」


「俺からも同じくこれを受け取ってくれ。中身は入っているが、それも好きに使ってくれて構わない」


「え?!ちょっ!?」


シアとルイの父さん達が渡してきたのは腰に着いている普段から使っているマジックポーチだった。これも父さんから貰ったやつと同じくらいの容量はある。


「いや、要らないから!今回はこの武器の約束のためにやったことだから」


「だめだ。貰ってもらわないと俺達の気持ちが収まらない」


「そうだぞ。俺達のためだと思って使ってくれ」


報酬は前に貰っているからと断ったが、それでも渡そうとしてくる。




「分かった。これは渡さない」


「ほう…」


要らない、渡すの攻防を繰り返し、やっとその結論に落ち着いてくれた。


「同じサイズのものがそう何個もあっても使い道に少し困るだろう。だからサイズが大きいやつと小さいやつを新しく渡す」


「それがいいな」


「そうね」


「そうですね」


「え!?」


確かに同じサイズのマジックポーチが3つになるよりも、小、中、大のサイズの違う3つの方が使いやすくはあるが、問題はそこじゃない。

しかし、その後何度断ろうと4人は折れることはなく、受け取ると約束させられた。



「じゃあ、また2週間後に宿でね」


「分かったよ…」


その後、もう夕方近いので今日はもう帰宅することになり、ドアの前で4人が見送りに来てくれた。その時にも受け取りの約束を念押しされた。受け取り拒否しても絶対に渡すという執念を感じる。


「じゃあ、また」


俺は4人にそう言って挨拶をし、門から出ようと思った。しかし、その脚は門と屋敷の中間くらいで止まった。



「何で揃ってここに来たんだよ…」


俺は門から新たに入ってきた4人に聞こえないようにそう呟いた。ここはシアの家なのでシアが帰ってくるのは予想できる。しかし、何故か4人揃って来ているのだ。


「ちょうどよく居てくれて助かったわ。来るのを待つ手間が省けたわ」


やって来たのは勇者、聖女、シア、ルイの4人だ。つい止まってしまったが、何も無かったかのように再び歩き出して通り過ぎようとしたが、話しかけられた。もう少し早く家を出ておけば、出くわすわさなかったのにな…。


また、なぜここに4人で来たのかと思えば、そもそも俺を呼ぶつもりだったらしい。そのためにたまたまここに集まったそうだ。それなら早く家を出ようが関係なかったか。


「記憶が定かじゃないけど、確かオーガの時に来てくれたわよね?役に立っていたかは別として」


「そうだが、何だ?」


言い方が上からで気に食わないが、一応返答はしておく。


「勇者様にそんな口の利き方は…!」


「いいわよ。教養の無い冒険者にそんなこと求めてないわ。それはこれから必死で覚えてもらえばいいわ」


「礼儀に関しては気にしないでくれるとありがたいん?これから?」


言葉遣いについて文句を言おうとした聖女の発言を止めて勇者は話し始めた。そして、勇者は続けてとんでもないことを言い出した。


「わたくしのお金で学校に通わせてあげるわ。だから、わたくし達のパーティに入りなさい。シアとルイ曰く、動きは悪くなかったらしいし、勝てないと決まっているオーガの元にわたくし達のために来た勇気はわたくしも凄いと思うわよ。そこを買ってあげたのよ」


「は?」


本気で何を言っているか理解するのに苦労した。

簡単に言うと、見込みがありそうだから私達のパーティに入れてあげるということらしい。一体どういう思考回路でそうなったんだ。全く意味がわからない。

それからお金を出すのはお前じゃなくてお前の家だろ。



「ちょっとごめんね」


「え?」


俺が何か答える前に俺の横をシア母さんが通り過ぎて行った。そして、シア母さんは先頭にいる勇者と聖女の後ろの俯いたシアとルイの前に行った。


「顔を上げなさい」


シア母さんが2人にそう言うと、2人はゆっくり顔を上げる。


「ぐぅっ!」

「べっ!」


なんと、顔を上げたシアとルイの顔面をシア母さんは自分に身体強化を軽くかけてから片拳ずつで殴り飛ばした。威力が強かったのか、2人は勢いよく吹っ飛び、外壁にぶつかって止まった。

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