第134話 向かった先とシア、ルイのこれまで

「どうぞ」


「ありがとう」


俺は目的の場所にやってくると、門番に顔パスで中に通された。ただ、再びの訪問に期間が空いたからか、門番の1人は俺の後ろについて来ている。


「ただいま、奥様をお呼びします」


そして、メイドに家の主を呼んでもらった。一応中に入る前に本人確認をしてもらう為だ。


「あら、ヌルいらっしゃい。あがってちょうだい。ちょうど4人揃っているわ」


「お邪魔するね」


俺がやって来たのはシアの家だ。まずは距離的に少し近いシアの家から行き、その後にルイの家にも行こうと思っていたが、タイミングよくルイの両親もここにいるそうだ。それならちょうど良い。

ちなみに、まだシア本人は帰ってきてないようだが、用があるのはその両親だから居なくていい。



「「「いらっしゃい」」」


案内されて部屋に入ると、中では3人が寛いでいた。俺も無理やり席に座らされると、4人は座ったまま姿勢を正した。


「わざわざ今日という日にやってきたことと、その真新しい傷の多い装備、極めつけにその顔を見ると何を言いたいかは分かる。

だが、俺達はヌルも家族と思っている。そんな間柄で遠慮は不要だ。遠慮なく言いたいことは何でも言ってくれ。全てちゃんと受け止めるから」


シア父さんがそう言ってきた。ここに来て言うことは考えていたつもりだった。そして、それを言ったらここを出て2度とここには来ないつもりだった。

ただ、その優しい言葉と信頼できる大人の前という安心感で考えていた言葉は出そうと思っても出なかった。その代わりに出た言葉はシアとルイにも言えなかった本音だった。



「…何だあのシアとルイの体たらくは!お互い離れ離れになっても頑張ろうと約束したじゃんか!その約束を大事と思っていたのは俺だけだったのかよっ!!」


俺は喚くようにそう言った。その言葉が出て何でシアとルイに対して勇者や聖女以上に内心ではイラついていたのかを自覚した。

俺は昔から一緒だった大事な幼なじみに裏切られたと感じ、俺のその気持ちは一方通行の勘違いだったと言われてたようでイラついていたのだ。



「…2人はその約束を忘れた訳でも大事にしてなかった訳でもない。もちろん、ヌルのことを大切に思っていたぞ」


「じゃあ、あのゴミ同然の戦い方はなんだよ!あれならステータスを貰って3年後の13歳の俺の方がまだ強いぞ!おとぎ話に出てくるような有名な強い職業であのザマなんだぞ!

4人もあれでよしとしてたのかよ!」


ルイ父さんの発言に俺は食ってかかる。あの2人の体たらくにその両親である4人の責任は無いのは薄々分かってる。しかし、気持ちが押えきれずについ言葉が口から出てしまう。


「ここに来てからの2人の話を聞いてくれ」


「……」


それから4人はここに来てからの2人に起こったことを話していく。


「まず、ここに来て待っていたのは王族や貴族からの特別扱いだった」


2人は職業から王族や貴族らもへりくだる態度を取られていたそうだ。ちなみに、そんな中で唯一へりくだらなかったのは勇者だったらしい。


「そして、次にやってきたのは何をしても褒められる環境だ」


2人は本当に何をしても褒められたらしい。もちろん、礼儀作法なんかは指摘されはしたそうだ。ただ、それも「こうやった方がより美しくなります…。そうです!流石です!」などの褒める言葉だったそうだ。また、戦闘訓練はさらに酷く、剣を振る、詠唱を行う、そんな1つの動作ですら「完璧!こんな使い手は見たことがない!」と最大限の賞賛をされたらしい。


「その後に学校に入ったらそのステータスだけで同級生や下級生には敵無しだ」


剣聖や賢者は元々のステータスの数値も高く、高レベルなスキルもあるため、同じ1レベルばかりな同級生達に完勝し続けていたようだ。

ちなみに、学校に通うような裕福な子供はレベル上げなんてしないからほとんどが1レベルだそうだ。


「また、学校の上の役員の奴らが勇者らを怪我をさせないために上級生とは戦わせなかった」


「はあ?」


上級生になると、今回のような演習に参加してレベルが上がっている者や戦闘にそれなりに慣れた者が存在する。そんな者と戦わせたら怪我をしてしまうので勇者らは上級生との戦闘の機会は避けられていたようだ。

学校側が勇者らの怪我を避けたかったのは貴族、特に勇者の家に睨まれたくなかったかららしい。


「こうして常に褒められ、常に勝ち続け、調子に乗った2人が出来上がった」


「何で家で特訓をしなかったんだ?」


ここまでの話は分かったが、家で特訓してもらえばその奢りも簡単に直せるだろう。


「…俺達親ごときが剣聖と賢者に怪我をさせるなって言われたんだ」


勇者の家の当主、つまり公爵家からそうお達しがあったそうだ。それを破ればどうなるかすら分からないらしい。特訓などを行って怪我をさせたのがバレたら自分達はもちろんのこと、俺や俺の両親のような出身地の村に居る俺達にまで危険が及ぶ可能性があったそうだ。

だから4人は娘に手ほどきをしたくてもできなかった。

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