第133話 街へ帰る
「点呼を取るぞー!」
「もう2時間経った」
緊急事態がおきて時間は経っていないし、場所も離れている訳でもないので寝てはいないが、力を抜いて休んでいたら待ち時間の2時間なんてあっという間に感じた。
わざわざ護衛の点呼なんかまで取らないから結局俺はまだ休憩時間だったりする。とは言ってもそろそろ移動する準備くらいは始めておく。遅れたら周りから文句言われそうだからな
「出発するぞ!」
点呼が終わり、出発するのは号令があってから30分近く経ってからだった。ただの点呼だけでもそんだけ時間がかかるとはな。
「今度は俺達が先頭か」
「そうです」
また、帰りは行きとは逆順で進んでいく。つまり、最後尾だった俺達は1番先頭になるということだ。
「また我々は後ろの方に行きますか?」
「それがいいだろう」
わざわざ1番前に出て損な役回りをする必要は無い。先頭グループとはいえ、後方に入ればやることもほとんどない。
しかし、あんなに魔物を倒したがっていたジャルスからそう言い出したのは意外だった。森の中の演習を頑張ってレベルがそれなりに上がったのかもな。
「もう何も起こりませんよね?」
「それを言うと何か起こりそうに感じるから余計なことは言うな。…さすがに何も無いとは思うけど」
ジャルスが不穏なことを言うから街に帰るまで不安に感じてきた。
しかし、俺の不安は取り越し苦労で、魔物もほとんど出ず、平和に街まで帰ることができた。
街に帰ったらそのまま学校に行き、最初に集まっていたグラウンドに集合した。そして、行きと同じくまた偉そうな教師が壇上に上がって話し出す。
「お前ら。まずは誰も欠けずに戻ってきたのを褒めておく。1人くらいは欠けると思ったんだけどな」
「…よく飽きないな」
「ぷふっ…」
教師は相変わらずジャルスのことを毛嫌いしているようで、わざわざジャルスらの方を見てそんなことを言ってくる。
毎回皮肉を考えるのは案外大変だと思うのだが、よくもこんなにすらすらと出るものだ。暇な時に考えておいてメモでもしているのか?
ジャルスも俺の小声のつぶやきに笑いそうになるのをこらえる。ジャルスがこの演習で気持ちが前向きになったようでよかった。
「帰る前に討伐証明は提出してから帰れよ」
教師の話で有意義だったのはこの言葉くらいだった。他はほとんど今後の動きには関係なかった。
無駄に長い話を聞き終えると、俺達は討伐証明を提出しに向かう。提出所は創造通り大混雑していた。無駄に長い話のせいで1番遅れたせいで。相変わらず少ないくせに提出窓口は俺らよりも貴族達の方が多かった。
とはいえ、提出するだけなので、1時間も経たずに提出を終えることができた。ちなみに、ちゃんとリスクヘッジのために俺が持っていた討伐証明は渡してある。
こっそり勇者よりも大きなオーガの耳を提出したらどうなるか気になったが、さすがに辞めておいた。
「今回は本当にありがとうございました」
「「ありがとうございました」」
討伐証明を提出し終わり、そろそろ解散となった時、3人がそう言って俺に頭を下げてきた。
「正直、自分の力だけで何とかなるから護衛なんていらないと思っていました。ですが、今回ヌルヴィスさんに沢山助けられました。感謝してもしきれません」
「別に貰った依頼料分の仕事をやっただけだ」
依頼を受けたのだからその依頼を遂行できるように頑張るのは当たり前だ。
「また何かあったらいつでも依頼を受けてやるから頼んでいいぞ。あ、何ヶ月も拘束されるような依頼は出来れば避けてほしいけどな」
「分かりました」
ジャルス達の依頼なら低額でもまた受けたいと思えるほどジャルス達の態度は良く、指示にも従ってくれた。こんなに素直に動いてくれるなら次もぜひ依頼を受けてたいという気持ちになる。
「…もし次に御一緒する機会がありましたら、俺の身の上話を聞いてください」
「聞くだけなら聞いてやるから心の準備ができたらいつでも話してくれ」
聞いたとして、何か手伝えるとは限らないが、話してジャルスが楽になるのならいつでも聞く。
「じゃあ、またな」
「「「ありがとうございました」」」
俺が学校を去ろうとすると、3人は再び感謝を伝え、頭を深く下げる。それは俺から3人が見えなくなるまで続いた。
「気分が良くなったところであんまり行きたくないけど、行くかー」
俺は校門を出ると、自分の予約している宿ではなく、別の場所に向かって歩き出した。気分はあまり乗らないが、こういうのは早めに済ませた方がいいからな。
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