第132話 苦悩

「あ、見えてきた」


ぼんやりと歩いていると、俺が森に入る前と代わり映えしない森の外にいる集団が見えてきた。まあ、俺が森に入ってから時間にして1時間も経ってないのだからそんなもんか。

ちなみに、シアとルイ達はまだ戻ってきてはいないようだ。


「ただいま」


そっと自然にジャルスの後ろにやってきて声をかけた。


「あ、帰ってきたんですね…って!大丈夫ですか!?」


「「っ?!」」


振り向いて俺を見たジャルスはギョッとしながら俺の体の心配をする。女の2人は顔を青白くさせて2、3歩も後退る。

そういえば、身体を綺麗にするのを忘れていたな。普通は治療する時は身体を生活魔法で綺麗にするもんだと思うんだが、ルイはしなかったようだ。今回は親オーガの血もそうだが、右腕と顔周りには自分の血もあるな。


「とりあえず、綺麗にしてもらってもいいか?」


「頼んでもいい?」


「「は、はい」」


それから女の2人に生活魔法を何度かかけてもらって俺の汚れは落ちた。汚れが落ちて分かったが、今回だけで俺の防具はそれなりに傷付いたな。まあ、それは仕方ないか。


「その調子を見るにオーガに勝ってきたんですね?」


「………」


周りに聞こえないように言ったジャルスのその質問に俺は即座に答えられなかった。俺は子オーガには勝ったと言えるが、親オーガには勝っていない。

結局、最終的に生きている方が勝ちではあると思う。しかし、後10秒…いや5秒親オーガが長く生きていたら俺は死んでいた。俺の魔法で吹っ飛んだ親オーガが後1m手前でも死んでいた。今の俺が生きているのはただ運が良かったに過ぎない。殺し合いには勝ったが、勝負には負けたというのが1番しっくりくる。

もちろん、シアとルイの介入が無かったらまた話は全然変わるが、俺が自分の意思で助けたのだからその結果について言い訳はしない。まあ、助けたこと自体には後悔はするし、言い訳もしたいけど。



「……俺は勝っていない。すぐに詳しい状況は分かるだろう」


そもそも勇者らは子オーガしか居ないと思っている。親オーガについては見てもいないしな。その子オーガも勇者らが倒したってことにしたので、勝っていないと言うのが正しい。

しかし、俺を信じて送り出してくれたジャルスに嘘を言い、しかもその嘘は負けたという信じてくれたジャルスを裏切る言葉に少し胸が苦しくなる。


「そうですか。でもさっきの姿を見れば大変だったのは分かります。お疲れ様でした」


「ああ…」


俺の表情から勘違いしたのか、ジャルスは慰めの言葉をかけてくれた。その優しさが逆に辛い。

ジャルスには本当のことを言おうかと思ったが、結局それは俺の自己満足にしかならない。しかも、普通に考えたら痛い嘘を言ってる奴になる。それに、この場では誰が聞いているか分からないから余計なことは言わない方がいい。下手なことを言って勇者に嘘がバレるのが1番だるい。




「あ、前方が騒がしくなってきましたね」


「ああ」


それからジャルスに休んでいてくださいと言われ、地面に座って休んでいたが、前方の方が騒がしくなってきた。

前の方は馬車などの視界を遮るものもあり、見えないが、状況はどんどん伝言ゲームのような形で伝わってくる。


「どうやら、勇者達がオーガの首を持ってやってきたそうです」


「そうか」


わざわざマジックポーチの中のオーガの首を掲げながら戻ってきたそうだ。シアとルイは勇者に嘘を吹き込むのに成功したらしい。

それにしても、勇者がみんなに見せて自慢したいほど俺のプレゼントを喜んでくれて俺は嬉しいよ。


「私達も見に行ってもいいですか?」


「ああ、行ってこい」


それから後方の見えない者が前まで行ってオーガの首を見る流れになった。勇者も騎士を使って人の整理を行って後方の者も見えやすいようにしてくれているらしい。

ジャルスも例に漏れずに見に行った。まあ、普通に生きていればBランクの魔物の生首なんてなかなか見れないからな。

ちなみに、俺はさっきまで動いていたのも見ているから今更勇者に持たれたのを見たいとは思えない。



「オーガの首から下も置いてありましたが、武器の傷が深く入っていて凄かったです」


「そうか」


戻ってきたジャルスは俺にオーガの様子を説明してくれた。勇者はわざわざ首から下もマジックポーチから取り出してみんなに見せていたようだ。

まあ、あの子オーガに勇者が付けた傷なんて1つも無いんだけどな。



「それから2時間後にここを出発するそうです」


「了解」


表向きの理由はオーガを倒してきてお疲れの勇者が回復するまで2時間待ってから帰宅を開始するらしい。どうせ勇者らは移動中馬車に乗っているだけだからそんなのは待つ必要は無い。本当の理由は意識を取り戻したばかりだったり、まだ気絶している勇者の護衛の騎士の回復を待つためだろう。

せっかく与えられた2時間なんだし、俺もゆっくり休ませてもらうとする。

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