第131話 事後処理 後編

「だって…」


「もう言い訳は聞き飽きた」


勇者と聖女?の方を向いてまだ言い訳を離そうとするシアの言葉を遮った。どれだけ俺が話しても言い訳しか出てこなそうだ。それならいくら話しても話は平行線で終わりがない。


「…ヌルのあの魔法は何?」


「はあ…」


やっぱり見ていたか。特に賢者のルイの目を誤魔化すのは無理か。


「それについては話すつもりは無い」


「話して欲しい。え、どこ行くの?」


俺は魔法については話すつもりは無い。こいつらに黙っていてくれと言ったところで、約束を守れるとは思えない。近付くなという簡単な約束すらも守れなかったしな。こいつらのせいで俺が冒険者をできないなんてなったら最悪だ。


俺はこれで話は終わりというアピールも兼ねて、2人から離れて子オーガの方に歩いて行く。そして、子オーガの角を大鎌で根元から切り落とし、角をマジックポーチに入れる。それから子オーガの首を完全に斬り落とす。その時に俺の魔法が当たった箇所は削ぎ落としておく。ルイも闇魔法は使えなさそうだから闇魔法の痕跡は残さない方がいいだろう。

さらに、親オーガを俺のマジックポーチの中にしまう。


「あっちの小さい方のオーガはお前らにやる。だからマジックポーチぐらいあるだろうからそれに入れろ。

そして、勇者と聖女の目が覚めたら、勇者が覚醒してオーガを倒したってことにしておけ。勇者と聖女は覚醒で疲れて気絶したってな。

それから、俺はその覚醒の余波で気絶したことにでもしろ。特に聖女には俺に気絶させられたのは気のせいって言っとけ

そうすれば一番問題無く終わる。分かったか?」


「わ、わかったわよ」


「ん」


これで勇者と聖女?に絡まれることは無いだろう。特に勇者は貴族という地位があるので、気絶させたことがバレたら面倒くさい。

どうせ食べれないオーガには角くらいしか価値が無いからそれを渡して穏便に済むならそれでいい。

ただ、使い道が無かろうと、親オーガに関しては全身を貰う。



「ちょ、ちょっと!どこ行くのよ!」


「森を出る。お前らもさっきの場所に戻っておけよ。そろそろ騎士達も目が覚めるだろ」


俺が確認した限りでは騎士達は死んでいなかったので、そろそろ1人ぐらい目が覚めてもおかしくない。だから俺は目が覚めた騎士に見つかる前に森を出ないといけない。さっさと森を出ようと歩き出す。


「あっ」


しかし、ここで重要なことを思い出し、足を止めて振り向く。すると、俺についてこようとしているのか、急いで子オーガをマジックポーチに入れている2人が目に入る。


「あの約束は俺の勝ちでいいよな?」


約束とは再会する時にどっちが強くなっているかの話だ。誰の目で見ても俺の勝ちでいいと思う。これで違うと言い出したらどうしてくれようか。

ちなみに、約束で勝った者は負けた方に1つ言うことを聞かせられる。


「いいよな?」


「…いいわよ」

「…ん」


何も答えない2人に俺は念押しして俺の勝ちだと認めさせる。これで2人に強制的に1つ言うことを聞かせられる。


「約束の命令をする。お前らは2度と俺に関わるな。俺も関わらない」


「「なっ!?」」


俺はそれだけ言って森を出るべき再び歩き出した。


「ちょっと待ってよ!」


「待って…!」


後ろで何か聞こえるが、それは無視だ。

足を引っ張られたが、瀕死だったところを回復してくれた恩があるから子オーガは渡した。勇者達に箔が付くからポーション代くらいにはなるはずだ。これで貸し借りは無しになる。

だからもう2度と俺に関わって欲しくない。

2人の追跡を許さないために集合地点まで最短距離ではなく、少し遠回りして森を歩く。



「助けたのは間違いだったのか…?」


俺は森を1人で歩きながらそう呟く。2人を助けなかったら俺は死の瀬戸際まで行くことは無かった。もう一度あの選択の場面に戻ったらストックの魔法を子オーガに放って助けない。子オーガは無視し、俺を殴ろうとする親オーガの対処をする。それでシアとルイが死んでも自己責任だ。もちろん、約束を守れなかったことになるので、シアとルイの両親には全力で謝る。


しかし、だからと言って今後は誰も助けない…とはどうしても思えない。なぜなら、刹那の伊吹らを赤化ベアから助けたことには全く後悔はないからだ。

俺は今後似たような場面に遭遇したらどうするべきなのかを考えながら歩いた。

今回のように選択を間違えないために…いや、どちらを選んで、その後どんな結末になっても俺が後悔しないために自分なりの応えを見つける必要がある。

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