第130話 事後処理 前編

「ん…あ?」


「「ヌルっ!」」


俺が目を覚まして上半身を起こすと、左右からシアとルイがそれぞれ抱き着いてきた。

俺はとりあえず、気を失う前の記憶を思い出そうとする。もう全く身体の痛さや魔力欠乏による気持ち悪さも無いので、すぐに思い出せた。どうやら2人は高いポーションを使ってくれたのかもな。


「どいて」


「「あっ…」」


俺は左右の2人を退けて立ち上がり、俺の横に倒れた親オーガを見る。


「……こんな体で」


俺の横にいる親オーガの内臓はほとんどなかった。もちろん、俺の魔法で消し飛んだのもあるが、這っている時にこぼれ落ちたのを自分の体で潰していたのだ。親オーガがやってたであろう血のべったりと付いている道には親オーガの臓器の破片とある。

もちろん、親オーガはそのことを自覚していたのだろうが、それでも俺を殺すために俺の元まで移動し続けていた。家族を殺された執念はこんなにも強いのか。

俺は親オーガに刺さっている大刀とそこらに転がっている鞘と大鎌を回収して目を覚ました場所に戻ってくる。



「さて。俺を回復してくれたのには感謝する。だが、お前らは何でこの場に来た?」


親オーガの様子を見終わり、武器も回収したので、ずっと気になっていたことをシアとルイに質問をする。


「…心配でヌルとオーガの向かった方に行ったら傷だらけのオーガが逃げて行ったからもう戦いは終わったと思って」


「そもそも前提がおかしいな。心配で俺のところに来る意味が分からん。心配なら足を引っ張らないように言われた通りに森を出ろよ」


ルイ達は子オーガが逃げている姿を見て、わーい!勝ったー!という軽い気持ちで来たそうだ。

こんなことなら護衛の騎士が全員気絶する前にこいつらの助けに入るべきだったか。そうすればそんな悪くしかならない行動を止めてくれたはずだ。いや…そうしたらそもそも騎士に守られた勇者と聖女?を気絶させられなかったな。そうなると、結局騎士達が子オーガにやられるのを待つだけか。

そういえばその勇者と聖女?はどこだ?…あ、近くの木に寄っかかって座らせられてるな。まだ気絶しているようでよかった。結構力を入れて殴った甲斐があったな。



「助けに行こうとしたのにそんな言い方しなくてもいいじゃん」


「は?助けに?お前らが俺を?笑わせるな。助けに来て何ができる?子オーガにすら騎士が居たのに手も足も出ない雑魚共が。実際にお前らが来て今さっきどうなったか覚えてないのか?」


シアが不満げに反論するが、そんなこと俺は許さない。お前らを守るために俺は親オーガに殴られた。そもそもあれがなかったらここまで追い詰められなかった。


「オーガは仕方ない。あんな強い魔物と戦ったのは初めて。今までDランクまでの魔物しか戦ってなかった」


「そ、そうよ!急にあんな魔物が現れたのが悪いのよ!それにもっと強い2体目なんて知らなかった!」


「はあ?」


その開き直りとも取れる発言に怒鳴りそうになったが、そんな気持ちを落ち着けて冷静に怒りながら詰めていく。


「強い魔物は初めてか。それは分かった。なら何で騎士の言うことを聞いて戦わなかった?騎士でもお前らよりも魔物に詳しいぞ?今のお前らで勝てるかの判断くらいしてくれただろう。

それを抜きにしてもあの戦闘初心者みたいな戦い方はなんだ?頭しか狙わない前衛、低レベルなお粗末な光魔法しか使わない魔法使い、騎士の回復をしないだけでなく戦闘中に生活魔法を使う回復使い。こんなの成り立てのFランク冒険者でもしないぞ」


「だってステータス的にはオーガでも問題なかったのよ。それに今まではあの戦い方で勝ててたし」


「…上級魔法が1番取得するのが珍しいから。聖女には今まで回復される場面は無かった」


つまり、オーガと戦うのを選んだのはステータスの数値では勝てる相手だったから。ステータスの数値だけで勝ち負けが決まれば分かりやすくて楽でいい。

そして、前衛のあの戦い方は今までの雑魚の魔物や学校の生徒達にはあれで勝てたからだそうだ。また、光魔法は取得する人が少なくレアだから使っていたと。そして、今まで回復される場面がなかったから回復を騎士達に使えないと。

そんな言い訳がまかり通るならこの世で魔物に殺される死者は出ないな。そんな世界は都合良くない。普通はできないなら死ぬだけだ。今回こいつらはたまたま運が良かっただけだ。


「今までその戦い方はダメだとか誰かに言われたことは無いのか?」


「「……」」


2人は俺から視線を逸らす。何度も誰かに言われたことがあるようだ。ならそれを聞かなかったお前らの責任だ。

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