第128話 助けた代償

「ガア…!!ガアア?!!!」


「んぐっ……」


俺はオーガの悲痛な叫び声で意識を取り戻した。記憶が殴られ、すぐに地面にぶつかったところまでしかない。そこで意識を失ったようだ。とりあえず、命はあるようだ。


「んっと……」


とりあえず俺は立ち上がった。頭から血が流れているようで、顎からぽたぽたと血が垂れている。頭も若干ふらふらするが、それは今はいいだろう。それ以上に重症の箇所があるしな。


「右手の感覚が無いな」


どうやら、俺は親オーガの拳に大鎌を持った右手を前に出して受け止めたようだ。そのおかげで身体は大丈夫だったが、だらーっと力無く垂れている右手を動かせない。ついでにそんな右手で持っていた大鎌も手放してしまったようで、殴られたであろう位置に落ちている。


「あ、私達…」

「ご、ごめ…」


「構ってる暇は無い。さっさと失せろ。次は何があっても絶対に庇わない」


俺はいつの間にか子オーガから離れて俺のそばに居るシアとルイの話を遮る。どうせ、ここに来た言い訳や謝罪でもしようとしたんだと思うが、そんなの聞いている余裕は無い。もう子オーガを抱えた親オーガは俺達…いや、俺を睨んでいる。

俺は2人を無視しながらマジックポーチから大刀を取り出す。武器を何も持っていないのはこの状況で1番ダメだ。



「どうやら、子オーガは殺せたようだな」


俺は取り出した大刀の鞘を投げ捨てながらそう呟く。俺の魔法は狙い通り、子オーガの首の傷に当たり、首を貫いたようだ。子オーガはもう死んだようで親オーガの腕の中でぐたっとしている。


「ガア…」


「闇付与」


親オーガは子オーガを地面に置くと、目線は俺に向けたまま立ち上がる。本当は右腕を治すために中級の回復ポーションを数本飲みたいのだが、大刀を置いてマジックポーチに手を伸ばすなんて明らかな隙を見せたら親オーガは俺に突撃してくるだろう。

でも、この状態でもできることはある。俺は睨み合っている間に武器を手放して切れてしまった闇付与を大刀にかける。ちなみに、気絶時間がかなり短かったからか、身体強化類は切れていなかった。


「グガアアアアッッッッ!!!!!」


闇付与をかけ終わってすぐ、親オーガは俺に過去最高ボリュームの咆哮をしながら突撃してくる。

俺は大刀を構えてそれを迎え撃とうとする。


「ちょっ!おいっ!」


親オーガは今まで通り勢いそのままに俺に殴るかと思ったが、走ったまま片腕を引き、背中を半分見せながらタックルしてきた。突然の巨体によるタックルを避けるのは無理と判断し、俺は左手だけで持った大刀を前に突き出した。


「ガアッ!」


「うっ…!」


親オーガは大刀が刺さったのに勢いを止めずにタックルをしてくる。片腕だけでは力不足だったようで、伸ばしていた左腕が曲がり、親オーガの背中が俺の身体に激突する。それでも親オーガの勢いは止まらず、俺を貼り付けたまま進んでいく。


「うらあああ!!」


しかし、俺も痛みで怯むだけではない。親オーガに押されながらも大刀をもっと深く刺していく。大刀は肩付近から下斜めに刺さっているので、より深く刺さないと致命傷にはならない。


「っ!?」


そんな中、急に危険感知が反応した。俺は驚いて振り返ると、後ろに親オーガと同じくらいの大きさの岩があった。あそこにぶつけられたら意識が飛ぶ可能性が高い。そうなったら死んだも同然だ。


「暗がれ!ダークボム!」


俺は慌てて岩に向かって魔法を放つ。それにより、岩は砕け、岩に叩き付けられることは無くなったが、その判断は早計だった。


「グガア!!!」


「かっは…」


親オーガは俺の意識が後ろに逸れた隙に身体の向きを変え、俺を地面に押し潰すように叩きつける。

俺はその行動を全く予測していなかった。まだ岩ならすぐに砕けるが、硬い地面に俺を叩き付けると、一緒に大刀も深く刺さることになる。


「死んでも俺を殺す気か…!」


つまり、親オーガは子供を殺された復讐に自分が死んでも確実に俺を殺す気のようだ。そのため、自分が負傷しようと、俺に大ダメージを与えるつもりのようだ。


「ぐっ…!」


そして、今のポジションは非常にまずい俺の上に親オーガが乗っている形だ。このままでは一方的に殴られる。抜け出そうにも、親オーガが重くて抜け出せない。また、俺だけ抜け出しても武器が親オーガに刺さったままになる。武器無しで親オーガの相手をするのも無理だ。


「うおぉぉぉ!!」


「ガア!!」


俺が全力で逃げようとすると、親オーガは俺が逃げられない体勢を探すために動くため、攻撃は飛んでこない。その少しの間に対抗策を全力で考え、思い付いた。



「暗がれ!」


「ガアッ!」


俺が魔法の詠唱を始めると、親オーガは慌てて殴ってきた。俺はその隙に左に向くことで潰れた右腕でその拳を受ける。意識が遠のくほど痛いが、右腕ならこれからの戦闘に影響は無い。


「ダークバーン!」


そして、俺は痛みに耐えながら闇の広範囲魔法を俺諸共放った。

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