第127話 油断はしていなかった

「ガアッ!」


「はあっ!」


俺は親オーガの迫ってくる拳を横から大鎌で斬り付けることで横にそらさせる。オーガの拳は勢いよく地面に叩き付けられる。


「凍てつけ!」


そして、そこで一瞬攻撃が止まった隙に俺は魔法の詠唱を始める。ついでに少し下がって子オーガが視界に入るようにする。


「ヒガッ?!」


子オーガは怯えたように俺の視界から逃れるために木の影へ隠れる。余っ程俺に一方的にやられたのがトラウマになっているようだ。この調子なら子オーガの参戦はなさそうだ。


「ガア」


そんな子オーガを俺から隠すために親オーガが俺の前に現れる。俺は自ら親オーガに迫って大鎌を全力で振る。大鎌を避ければ魔法を避ける暇は無い。もう魔法を避ける余裕は与えない。


「アイスボム!」


「ガア!」


しかし、親オーガは魔法よりも大鎌を選んだ。俺の大鎌を腹に受ける代わりに仰け反って顔付近に放たれた魔法を避ける。子オーガがちゃんと親オーガの影に隠れた時にちょこちょこ移動するので、もう子オーガを狙って親オーガに魔法を当てるのは無理だ。子オーガは常に気配感知の範囲外にいるしな。

それにしても、魔法よりも愛用の大鎌の方がマシと思われたのに少し不愉快だが、後からその選択を後悔させてやる。

その後も同じような択を親オーガに選ばせ続けた。



「ガア…?!」


それからも親オーガが大鎌を選び、魔法を4回ほど避けると、親オーガは片膝を地面につける。


「やっとかよ」


それを見て俺はやっとかと少し安堵した。俺が魔法を放つ瞬間に振る大鎌は常に最初と同じく腹に狙い続けた。多少は狙いとはズレてしまうが、大体同じ場所に4回も斬ってやっと膝をつく程度か。そのついた膝もバランスを崩したと言われても違和感が無いほど一瞬ですぐに立ち上がったしな。しかし、その一瞬でポーション類を飲めたからいいか。


「どうした?もう来ないのか?」


「……」


親オーガの脳内に敗北が浮かんできたのか、動きが止まった。まあ、親オーガは体は魔法で傷だらけで、腹の深い傷からは止めどなく血が流れている。その一方、俺はほぼ無傷と言っても良い。


「こっちから行くぞ!」


親オーガから向かって来ないのなら俺から行くしかない。俺はわざと子オーガの方に行く素振りをとる。すると、親オーガは慌てて俺の前にやってくる。


「はあっ!」


「ガアッ!!」


やはり、親オーガの反応速度なども落ちており、俺の大鎌の攻撃を腕でガードする。もう避ける余裕は無いようだ。

このままなら親オーガにも勝てると思った。しかし、何が起こるかは最後まで分からないので、油断はしていなかった。そう…油断はしていなかったんだ。


「ガア?」


「ん?」


親オーガが急に俺から視線をズラして斜め前の遠くを見る。心做しか鼻がピクピク上下に動いている気がする。だが、俺はそんな親オーガに構わず攻撃を仕掛けに行く。


「グガアァァァ!!」


「ガアッ!」


しかし、その瞬間に親オーガが咆哮し、子オーガがそれに応えて鳴く。そして、子オーガは急に走り出した。

俺は攻撃を中止して子オーガの動きを観察する。子オーガが恐怖を克服し、戦闘に混ざったら面倒になる。


「は?」


しかし、俺の心配を他所に子オーガは俺に向かわずにさっき親オーガが見ていた方に走っていく。その際も親オーガは子オーガと俺の対角線上に陣取って子オーガを俺から隠している。

子オーガを逃がしたのかと思ったが、それにしては行動が急だ。まさか、子オーガを1人で森の外に出すつもりかと慌てたが、それは違うとすぐに気付かされた。


「「キャアー!!!」」


「お前ら!?なんでそこにいやがる!」


子オーガが向かった先から悲鳴が聞こえてきた。その声はシアとルイのものだった。俺と違って声変わりしていない昔とほとんど同じ声なので間違えるはずがない。


「守れ!シールド!」


俺は盾の魔法を使い、空中に土台を3つ作り、そこを蹴ってジグザグに立体的な動きで翻弄し、親オーガの頭上を通り、子オーガを追う。


「あ、ああ…」

「た、助け…」


親オーガを追い越して俺が見たのは勇者と聖女を背負ったまま腰が抜けて座ったシアとルイを子オーガが殴ろうとしているところだった。


「ガアッ!!!」


そして、俺には親オーガがジャンプして迫って来ている。もう魔法の盾は無いので、このままなら俺は親オーガに殴られる。だが、親オーガの対処をしたら子オーガにシアとルイが殴れ、殺される。きっと俺の囮にしたいから1人くらいは生かされるかもしれないが、どっちかは殺される可能性が高い。というか、意識のある2人は囮として面倒なので殺されるだろう。オーガらにとって俺の中の彼女らの優先順位なんて知らないから気絶している2人を囮にする気がする。オーガらが知っているのは俺が彼女らを守るように現れたくらいだからな。


つまり、ここで俺は自分か、シアとルイかを選ばなければならない。

もちろん、俺は自分を選び、親オーガを撃墜しようとする。その際、手に持つルイ父さんから貰った大鎌が目に入る。それと同時にシアとルイの両親からの「ピンチの時は助けてやってほしい」と言って深く頭を下げて懇願してきた様子が脳裏に浮かんでしまう。


「クソがっ!闇れ!」


俺はシアとルイ達の方を向き、ストックしている闇魔法の槍を子オーガの首の傷を狙って放つ。そして、放つと同時に俺は親オーガに殴られ、勢いよく地面に叩き付けられた。

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