第125話 嫌な予感
「ガア!!!」
「どうした?混乱したのか?」
オーガは首を右手で押さえながらもう片手で俺を殴ってくる。その行動はあまりにも無謀だ。
「よっ!」
俺はオーガの拳をジャンプして避けると、オーガの腕を蹴って再び首の方へ向かう。
「ガア!?!」
しかし、さっきの傷がトラウマになったのか、過剰に頭部周りを防ごうとする。別に勝負を急ぐ必要は無いので、俺はオーガの肩を斬って地面に降りる。
「やあっ!」
「グガァ!?」
俺は降りてすぐに目の前にある足首を斬り付ける。すると、体勢を崩したのですぐに今度は下がってきた腹を斬る。
「ガアッ!?」
オーガは腹を押えながら数歩後退る。もうオーガの目にはさっきまでの獰猛さは無く、怯えているようにすら見える。
オーガに作戦を練るほどの知能があったのはびっくりしたが、中途半端に知能があるお掛けで逆に行動を読みやすい。
「ガァ……ガァァァーーー!!!」
「あっ!」
オーガは足の傷のせいか不格好な四足方向になりながら森の奥へと逃げて行った。
ここで俺は少し悩んだ。別に森の奥に行ってくれるなら一旦オーガという脅威は去るので、目標は達成になる。だが、傷が治ったら再びこの森の浅い場所に降り、最終的には森から出ててくるだろう。それなら手負いの今のうちに殺った方がいいな。
「待てっ!」
俺はオーガを追って森の奥へと進む。
「グガァ!グガアッ!」
「うるさい!」
「グガァ!」
オーガは鳴き続けながら森の奥へと進み続ける。それは俺が攻撃しても変わらなかった。
オーガの知能ならこの状況では逃げても無駄だと分かると思うんだがな。
「っ!!」
そう考えた途端に俺は嫌な予感がして立ち止まる。特にスキルがどうかでは無いが、直感的に何かを見落としている気がする。
このオーガの深い傷を負ってからの一連の行動がどうしても短絡的に感じる。傷…傷といえばこのオーガには生傷はそれなりにあったが、古傷はなかったな。
「っ!大きさは!?」
俺は無様な勇者達に注目がいってしまい、このオーガの具体的な大きさの把握をしていなかった。目算にはなるが、逃げていくオーガの大きさを確認する。
「3.5mくらい…」
目の前のオーガはオーガとしては最小に近かった。俺は最悪のケースが思い浮かび、急いでオーガとは反対方向に走り出す。
「っ!?」
方向転換して走り出した瞬間に危機感知が反応したので、俺は大きく横に飛び退ける。
ドカンっ!
俺のいた場所に俺の体よりも大きい岩が飛んで来た。気配察知でも薄々分かっているが、俺は恐る恐る後ろを確認する。
「最悪だ…」
後ろにはさっきの逃げたオーガを庇うように立っているもう1体のオーガが居た。そのオーガは逃げたオーガよりも3、4周りも大きく、離れて見ても分かるくらい体には古傷がある。正しく歴戦のオーガだろう。
「親がいやがった…」
あれが母親か父親かなんて知らんし、そもそもオーガの生殖方法なんて知らないが、多分逃げ出したオーガの親のようなものだろう。
「ガアアアアア!!!!」
「…怒ってるな」
俺が子オーガを傷付けたと分かっているのか、親オーガは傍から見ても分かるくらい憤怒している。また、そんな憤怒の咆哮から感じるプレッシャーも子オーガとは全然違うな。だが、そのプレッシャーに怯んだりはしていない。
「逃がしてはくれないよな……」
2体目が現れたので予定通り逃げたいのだが、この親オーガが逃がしてくれるとは思えない。このまま逃げたら俺がオーガを連れて森の外に出てしまう。そうなればオーガは護衛の冒険者や騎士に殺られるだろうが、ほぼ確実に生徒の死傷者は出るな。
今にして考えれば俺が子オーガを追わなかったら、親オーガが復讐のために森の外に来ていた可能性もあったな。
「やるしかないか」
俺は逃げることを諦めて大鎌を構える。別に勝算がない訳でもないしな。
「凍てつけ!」
俺は詠唱をしながらオーガらの元へ走り出す。だが、親オーガは全く動かない。
「アイスランス!」
「ガアッ!」
俺はオーガらの攻撃が届くほど近寄らず、横に回り込んでから魔法を放つ。すると、親オーガは慌てたように動く。
「やっぱりそうするよな…!」
「グガア…」
親オーガの腕には氷の槍が突き刺さった。別に至近距離でもないので、親オーガなら魔法を避けることは出来たはずだ。だが、俺が子オーガを狙って魔法を放ったから避けれなかった。
「さっき子オーガがやってたのを見て参考にさせてもらっただけだから卑怯とは言うなよ?」
この手法は子オーガが勇者達と騎士にやっていた事だ。だからそれを俺が真似したからって卑怯とは言わせない。これは試合では無いので、どんな手を使ってでも最後に生き残れば勝ちなんだ。
そして、俺は子オーガと違って油断はしない。さて、お前は騎士のように自分がやられるまで子オーガを最後まで守り切るか?
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