第124話 邪魔

「ヌル…何で……?」


後ろのルイが声をかけてくるが、ルイの方を向いている余裕は無い。オーガは注意深く俺を観察している。俺が背を向けたら一気に襲いかかってくるだろう。


「ヌル!ガーネット様とカトリベス様に何をしているのよ!?理由によっては…」


「邪魔だから2人を連れて森を出ろ」


詰め寄ってきたシアの言葉を遮って俺はオーガの方へとゆっくり向かっていく。

本当は倒れている騎士達も連れて行って欲しいが、こいつらにそんなことを頼んでも無駄だ。まだオーガが倒れている騎士を人質に取ろうとはしていないから放置で問題ないだろう。


「わ、私も手伝うわ!」

「ル、ルイも協力する!」


「斬れ、スラッシュ」


2人は気絶した2人を置いて俺と共に戦おうと、先を歩く俺の方へ1本踏み出した。しかし、俺は前を向いたまま気配察知を頼りに無属性魔法の斬撃を2人の2歩前くらいで地面に放つ。斬撃が当たった地面には深い線ができる。


「手伝う?協力する?はっ…足を引っ張るの間違いだろ。お前達にできるのは俺の邪魔をしないために少しでも遠くに離れることだ」


こいつらと共に戦ったら俺が2人を庇ってやられるだろう。まあ、2人を完全に無視したら囮くらいの役には立ってくれるが、ルイ父さん達の約束があるからそれはできない。


「その地面の線よりもこっちに来たらその時はお前達も敵と思うからな」


味方や置物と思っているから変に動かれたり、邪魔をされたら戸惑うし、厄介に思う。だったら、最初から邪魔をする敵と思えば問題ない。まあ、敵が増えたと仮定するのも厄介だが、敵だとしてもこいつらならそこまでの脅威では無いだろ。

一応これでも守ろうとする義理は果たしたからシア父さん達も勘弁して欲しい。



「さて、行くぞ!」


忠告が効いたのか、一向に動こうとしない後ろの2人を置いて俺はオーガへと向かって行く。


「ガァ!」


「よっ!」


俺はオーガの拳をスライディングしながら股をくぐることで避ける。股をくぐる途中で大鎌を振って脚を攻撃したが、薄皮くらいしか斬ることはできなかった。やはり、ついで程度の攻撃では意味無いか。


「雷身体強化。おらっ!どうした!」


「ガアァァァ!!」


俺は付与魔法を解き、身体強化の属性を変え、オーガの周りをうろちょろしながら少しずつ森の奥へと移動していく。その間も意識が俺から逸れないように嫌がらせ程度の攻撃は続ける。




「さて、ここまで来ればいいか」


「ガァ…!!」


俺とオーガはさっきの場所から300m以上は離れた。ここまで離れれば倒れた騎士ももう居ない。それに、鬱陶しい勇者達に足を引っ張られることも無い。

何よりここなら人目も無いから自由に戦える。


「闇身体強化、闇付与」


もう逃げ回る必要は無いから敏捷は必要ない。だから強化を攻撃特化に変える。


「轟け…」


そして、俺は詠唱をしながらオーガへと向かい、さっきの勇者やシアと同じように顔の方へジャンプする。


「ガアァ…!」


それを見てオーガは笑みを浮かべる。無駄な攻撃を続けていたので、大方最初の膝裏の攻撃はまぐれで、俺もアイツらのような馬鹿な雑魚とでも思ったのだろう。

それからオーガは空中の俺を殴ろうと大きく腕を引く。だが、そんな悠長なことをしている暇はあるのか?


「サンダーランス!」


「グガアアアア!?!!」


俺はオーガが拳を振り始めるよりも前に雷の槍を放つ。放った雷の槍は狙い通りオーガの右目に突き刺さった。さすがに脳まで貫通はできなかったが、片目は潰れた。そして、オーガは突然の痛みで目を押えて仰け反っているため、首がガラ空きだ。


「はあっ!!!」


そのまま俺はオーガの首を大鎌で斬り付けから地面に着地する。


「…あいつらは本気で何がしたかったんだ」


俺の大鎌でもオーガの首は切断することはできず、首の1/4を斬ることしかできなかった。

斬れ味特化の無属性付与をしていないとはいえ、全力強化の俺でもこの程度しか傷を付けられないのに、勇者とシアは首を斬ったところでこれ以上の傷は付けられないだろ。つまり、あんなにぴょんぴょんして首を斬ったところで意味がなかったのだ。


「ガア…」


「手で塞いでも意味無いぞ」


オーガは首から垂れ続ける血を止めるため手で傷を押えたが、その血が止まることはなかった。

その傷は闇付与をした大鎌で斬ったので、当分傷は塞がらず血は止まらない。

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