第123話 堪忍袋の緒
「ぐあっ…!」
また騎士の1人がオーガの攻撃によって倒れた。勇者らの4人はそれを当たり前のように無視している。
(何かがおかしい…)
俺は未だにオーガの様子を観察している。どれだけ見ても戦闘の様子は全く変わらない。勇者とシアが当たりもしない攻撃をし、ルイが弱い光魔法を使い、聖女?が魔力を無駄に使う。
俺が今すぐにオーガの元へ行けば、残り1人の騎士はこれ以上無駄にダメージを負うことは無いかもしれない。だが、俺にはオーガの様子が不思議でならない。
「「はあっ!わあー…!」」
(これだよ)
首を斬りに来た勇者とシアをオーガは振り払う。この行動が謎なのだ。オーガならあんな馬鹿みたいにジャンプする2人を殺そうと思えば殺せるだろう。なのに、振り払うだけで何もしないのだ。
「…勇者様方、お逃げ下さい…」
そして、最後の1人の騎士が勇者を庇って攻撃をもろに食らって倒れた。
「ガアッ……!」
(こいつっ!)
その瞬間、オーガが分かりやすくニヤッと不気味笑った。ここで俺はオーガが何で勇者達に攻撃しようとしなかったのか気付いた。
オーガは足でまといの勇者達を残すことで先に強い騎士達を倒したかったのか。Bランクの魔物であるオーガはそこまで考えるほどの知能があるってのかよ!
「ガァァァ!!!」
オーガは手に持った木を投げ捨て、また馬鹿の一つ覚えのように向かってくる勇者もシアに拳を振り抜こうとする。もう庇ってくれる騎士達は居ないからどちらかはダメージを負うだろう。…このままなら。
「無属性付与!」
俺はオーガの後ろの茂みから身体強化と闇身体強化を全力でかけ、大鎌に無属性魔法を付与して飛び出した。
「はあっ!」
「ガァッ!!」
そして、俺はそのままオーガに気付かれることなく、オーガの右の膝裏を斬り付けた。騎士達を全て倒して油断していたのか、オーガは無防備に斬られた。
突然脚を攻撃されたことでオーガは右膝を地面に付ける。そして、ジャンプしていた勇者とシアはオーガの頭上を無様に通過する。
「ガアァァッッ!!」
オーガの視線が俺に集中する。どうやら、伏兵が居たことにお怒りのようだ。
また、近くで見るとオーガの体にはかなりの数の生傷がある。血が垂れていることから、それらの傷は騎士達が足を引っ張られながらも頑張って付けた傷なのだろう。
「「ヌル!?」」
「ちょっと!邪魔するんじゃないわよ!」
「誰かは存じ上げませんが、勇者様方の邪魔はしないでください!」
4人が俺に声をかけてきたが、そんなのを聞いている余裕は無いから無視する。
オーガはもう立ち上がって俺を殴ろうと拳を振り下ろしてきている。
ドゴンっ!
「当たったら死ぬかもな」
俺がオーガの拳を避けると、その拳はその勢いのまま地面に当たり、地面は大きく凹む。よく騎士達はこんな攻撃を何発も食らって耐えたものだ。
「ガァァァ……」
「……」
しかし、オーガの攻撃速度はそのデカい図体のせいか早くはない。だから安全に躱したらその隙に攻撃できる。ヒットアンドアウェイなら着実にダメージを与えられそうだ。
しかし、この場においてその考えは甘かった。俺はオーガの攻撃を躱そうと動きだす瞬間にそれは起こった。
「邪魔よ!」
「は…?」
いきなり背中がどんっと押されたのだ。押したのは勇者だ。
「ガァ…」
そして、それを見てオーガはニヤッと笑った。勇者らに足を引っ張らせて、俺も騎士と同じように倒す気か?というか、俺は勇者らのせいで負けるのか?そんなくだらない理由で負けるためにジャルスは自分の危険を承知で俺を送り出してくれたのでは無い。
この瞬間、俺の堪忍袋の緒が切れたのを感じた。だが、今はそれどころではない。
「守れ!シールド!」
俺は慌てて無属性魔法のバリアを数枚作り出す。それらはオーガの拳で一瞬で割られるが、俺が体勢を立て直すまでの時間稼ぎと多少の威力軽減はしてくれた。
「うっ…!」
俺は大鎌で何とかオーガの拳をガードすることができた。とは言っても、俺は後方まで吹っ飛ばされたけど。
「きゃっ!」
また、オーガの顔にジャンプした勇者もオーガに叩き落とされたようで吹っ飛んだ俺の前まで転がってきた。
ちなみに、シアとルイは俺が登場してから動いておらず、戦闘には加わっていないようだ。
「あんた!さっきから邪魔なのよ!」
「勇者様!今すぐに回復します!そこの貴方もどなたかは存じ上げませんが、勇者方の邪魔はしないでください!」
どうやら、俺は聖女?とルイがすぐ後ろにいるところまで吹っ飛ばされたようだ。
うん、ちょうどいいな。
「ちょっと聞いて…がっ…」
「邪魔はお前だ」
俺は目の前の勇者の後頭部を大鎌の峰で殴った。勇者は静かにばたんと倒れる。
「あ、あなた!勇者様に何をして…!」
「お前もだ」
詰め寄って来た聖女?の腹を殴り、こいつも勇者と同じく気絶させた。
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