第122話 気遣い
「てんやわんやだな」
「そうですね」
集合地点では怪我している生徒と学生と騎士、また混乱や狂乱している学生と騎士などで溢れ返っていた。先生と思われる人達はそれらの者の対処で忙しいようだ。現に俺達と一緒に来た学生もここに着いた途端に先生達の元へ向かった。そんな状況のため、まだ詳しく状況が分かっている者は意外と少ないのかもしれない。
また、オーガを殺れるであろう高ランクと思われる冒険者もこの場にはいるが、ビビっている護衛対象が傍から離さないのでこの場に留まっている。
「グガアァァァ!!!!!」
「「「ひぃいやっ!!!」」」
そして、時々聞こえてくるオーガの叫び声に全員がビクッと震える。こんなに混乱していたら、もしここにオーガが来たりでもしたら魔法の同士討ちすら起こりかねないぞ…。
「……この場にオーガが来たら、何が起こるか分かったもんじゃないです。だからオーガがここに来る前にどうにか倒したいですよね?」
「ん?ああ…」
青年が俺の目を見て急にそう話してきた。青年もどうやら俺と似たようなことを考えていたようだ。
「それにまだオーガが何体かも分かっていません。詳しい状況が分からないのは危険ですよね」
確かにオーガが1体だけとは限らない。そして、そもそもが混乱している1人からしか状況も聞いていないので、詳しい状況は分かっていない。
だが、急にどうした?
「これからの指示は依頼していた護衛とは違う内容ので断っても構いません。ヌルヴィスさん、俺達の護衛を一旦やめてオーガの偵察に行ってくれませんか?」
「青年…いや、ジャルス…」
俺はここで真剣な目をしたジャルスが何を言いたいのかを理解する。
「周りにこんなに人が居るんですからそれこそオーガが来ない限り大丈夫ですよ。だから遠慮せずに行ってください」
偵察に行くのはここに居る全員のためならそれなりにメリットはあるが、ジャルスからしたら俺にオーガの元に行かせることにメリットはほとんどない。正確な情報は重要だが、だからって護衛をやめてまでする程では無い。また、俺がオーガに殺されたらジャルス達の護衛は誰も居なくなってしまう。
それなのに、わざわざそんなことを言ったということは、あんな自分を嘲笑っていたこの周りにいるヤツらの身でも案じているのか?
そして、俺ならオーガに負けないと思ってくれているのか。
「いいんだな?」
「はい。あ、もしオーガが複数体いたり、他の脅威があったらすぐに戻ってきてください。あくまで偵察ですから。でも、もしオーガが1体だけだとしたらその時は任せます」
最終確認をしたが、ジャルスの意思は変わっていなかった。
「すまん、ありがとう」
俺は一言感謝を口にし、轟音のする森の方へ走っていく。
「倒れた騎士が現れ始めたな」
轟音の近くまで来ると、倒れた騎士が現れ始めた。一応軽く生きているか確認すると、ちゃんと生きているようだ。オーガのせいで他の魔物が来ないのが幸いしたな。
「ガァァァ!!!」
「このっ!」
そして、俺はオーガの元へ辿り着いた。しかし、すぐに混ざらず、まずは隠れて状況を確認することにした。
オーガの近くに居たのは騎士が4人と、あの勇者と神官のような服を着た聖女?と、そして5年前の面影を残して少し大きくなったシアとルイだった。彼女らの近くには騎士が何人も倒れている。
「やはり、ここは私達が…!」
「邪魔!」
勇者がわざわざ前の騎士を押し退けて、オーガへと迫る。それとほぼ同時にシアもオーガへと向かう。
「…は?」
そこからが衝撃だった。勇者とシアはわざわざジャンプして隙も無いのにいきなりオーガの首を同時に斬ろうとする。
「「きゃあっ!」」
そして、2人は羽虫のごとくオーガの左手で振り払われる。空中なので回避すらできなく、無様に地面に落ちる。
今の行動に何の作戦もなかったのかよ。無謀過ぎたから逆に作戦でもあるのかと思ったわ。無計画ならオーガに噛み殺されなかっただけでもラッキーだぞ。
「ガアッ!!」
「剣聖様!がっ…!!」
オーガが地面に落ちたシアに右手で持った根っこの付いた引き抜いたであろうデカい木を横から振る。さっき勇者に押し退けられた騎士は剣聖を後ろに押して庇う。その結果、木で殴られて勢いよく吹っ飛ぶ。
「アメシア様!かすり傷が!」
なんと、そこで聖女?は吹っ飛ばされた騎士でも周りで倒れている騎士でもなく、頬にかすり傷を負っただけのシアを回復したのだ。
「輝け!ライトランス!」
今度は急にルイが後方から光魔法の槍をゆっくり正確にオーガの頭へと放つ。もちろん、隙でもないし、ゆっくりだったのでオーガは簡単に避ける。
いや、ルイのステータスは前に見たが、お前が得意な魔法は奇才の火、水、風、土の属性だっただろ。光魔法は取得していなかったはずだ。新しく取得した魔法がレベル3だった4属性のスキルレベルに優っているとは思えない。別にオーガは得意属性や苦手属性は無いんだから得意な強い魔法を使えよ。
「ガアァァーー!!」
「賢者様っ!うっ…!」
オーガは魔法を放ってきたルイに拾った岩を投げ付ける。それを近くに居た護衛が身を呈して守る。既にボロボロだった騎士はそれで倒れてしまう。
「土埃が…ウォッシュ」
「ん」
次に聖女は傍で倒れた騎士ではなく、土埃で汚れた自分とルイの体を生活魔法で綺麗にした。
「………」
俺は戦闘とも呼べないこの光景を見て言葉を失ってしまう。
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