第121話 破壊音と悲鳴の元凶

「「「………」」」


チラッと3人を見ると、青年を含めて3人とも突然の音と悲鳴に頭が真っ白になっているのか音のした方を向いて固まっている。しかし、今はそんな暇は無い。


「おい!ぼーっとするな!周りを警戒しながら急がず慎重に森の外へ最短で向かう!その途中で逃げてきた者が居たら事情を聞くぞ!」


「「「は、はい!!」」」


3人は俺の指示で冷静さを取り戻してくれた。ここで混乱するようなら面倒になったので助かった。


「何が起こったのか分からないから慎重に行くからな」


俺は再度そう忠告をして3人を先導する。

まだ情報が無さすぎて何が起こっているか分からない。だからまずは人が集まるであろう演習後の集合地点がある森の外に向かう。そこなら人も多いだろうし、事情を知っている者も少なからずいるだろう。



「ん?」


歩き出してそんなに経たずに横からガサガサと音を出し、草を掻き分けて何かが向かって来る。俺は大鎌を抜いて構え、警戒する。それを見て俺の後ろに回った青年も槍を2本抜く。女達はさらにその青年の後ろに隠れる形で回る。


「た、たたた…助けてくれー!!!」


やって来たのは学生の1人のようだった。俺はまだ警戒をしながらも話しかける。


「他の仲間はどうした!?」


「バラバラでなってみんなで逃げたらバラバラでハグれた!そんなことより助けてくれ!」


学生は本気で混乱しているようで言葉めちゃくちゃだった。そのため、何を言っているかを理解するのに少し時間がかかった。きっとこの学生は慌てて逃げたら仲間とはぐれてバラバラになったと言いたいのだろう。


「早く助けてくれ!」


「助けてやるから何があったかを話せ」


助けると言うまで助けてくれとしか言わなそうなので、とりあえず助けると言っておく。それからその学生を連れて移動しながら学生が冷静になるのを待つ。2、3分してその学生は何があったかを話せるくらいには回復した。


「オ、オーガが出たんだ」


「オーガだと!?」


オーガというのは身長が3~5mほどある筋肉質の角の生えた大型の人型の魔物だ。また、そのオーガのランクはBランクからB+でその身体の大きさによってランクが少し変わる。そして、もちろん通常ならこんなところに居るような魔物では無い。


「そのオーガはひたすら暴れているのか?」


「い、いや、違う!勇者達が戦っていた」


「勇者!?」


あの勇者がオーガと戦っているのか。前に喧嘩を売られた時の力ではオーガ相手に勝てるとは思えない。まあ、勇者がどうなろうとあまり関係がない…いや、ちょっと待て。勇者…達?


「勇者以外にも戦っているのか?」


「そうだ!勇者の護衛はもちろん、剣聖と賢者と聖女もだ!」


聖女のことはよく分からないが、十中八九、剣聖と賢者とはシアとルイのことだろう。俺はそれを聞いて頭が真っ白になりそうだったが、その寸前で気持ちを立て直す。


「…護衛が着いているなら大丈夫だろう」


大貴族である勇者なんかに着く護衛は優秀な者、つまり強い者が多いだろう。そんな護衛が居るのならオーガくらい問題ないはずだ。


「い、いや!護衛は何人も倒れてた!」


「は!?」


「…そういえば、国の騎士の中には我儘な勇者達のおもりをすることになる護衛は人気が無いと噂がありましたね。何でも全てを護衛にやらせるから不眠不休が当たり前とか…。しかも自分で指示しておいて文句ばかりとも」


その噂が真実だとすると、理不尽と不眠不休で疲れ切っている騎士がオーガに叩きのめされたのは納得はできる。


「………」


俺は急いでオーガの…いやシアとルイの元へと行こうとした。しかし、足を踏み出そうとした瞬間に青年達のことが頭の片隅に浮かぶ。ここで彼らを置いていったらどうなるか…。



「…敵の正体と敵が単体なのは分かったし、誰かが注意を引き付けてるのも分かった。それなら多少音を出しても問題は無いから急いで森を出よう」


俺が行って状況が変わるか分からないが、シアやルイの元へ行って助けたい。だが、2人を助ける前に俺は今護衛の依頼を受けてここに居る。それこそ、私情でそれを疎かにしてはいけない。

俺は自分の気持ちを抑えながら3人とついでに1人を連れて森を出るべく移動をする。

時々聞こえるオーガによる轟音にビビってか魔物が全く出なかったからかなり早く森から出れた。

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