第120話 野営

「…対人戦も慣れているようですね」


「冒険者になる前は父さんや母さんに特訓をしてもらったからな」


さっきの連中が見えなくなったくらいに青年がそう話しかけてきた。

また、俺の対人戦の基本は父さんと母さんの教えから来ているだろう。


「それに、俺のようなソロの冒険者は侮られるから対人戦の機会はそれなりにあるしな」


「そ、そうですか」


半黒ベアの時の冒険者や刹那の伊吹、暗殺者なんかがまさにそれだ。侮られた結果、喧嘩を売られたとしても問題が無いくらいには対人戦も得意としておいた方が良いだろう。


「さて、じゃあそろそろまた交代するか。女達もだぞ!」


「は、はい!」

「「わ、分かりました!」」


俺は周りの警戒をすることにし、向かって来る魔物の対処は青年に任せた。

さっきまでのできるだけ早く進むという方針を辞め、少し痕跡を消すようにしたので進むペースは遅くなった。それに伴って魔物と戦うペースも遅くなった。それにより、日が暮れ始めるまで青年が狩りを続けることができた。また、他の生徒と鉢合わせることは無かった。




「場所はここでいいか。ここで野営をするぞ」


「はい…」


今日の最後まで青年が戦ってくれたが、その分疲れは溜まっていそうだ。野営の準備は俺がパパっと行っておいた。


「何で周りに木の枝を置いているのですか?」


「これは魔物が近寄ってきた時に木の枝が折れる音でも気付けるようにだな」


木の枝を魔物が踏むことでペキっと音が鳴る。それによって魔物に気付けるかもしれないので、木の枝を撒いておく。ただ、魔物が勢いよく走って向かってきたら音で気付いた時にはもう遅いかもしれないので、あくまで保険的な役割だ。

一通りの準備が終わると、俺は石で竈を作って火をつける。


「冒険者も火は付けるんですね」


「真っ暗だったら魔物を見つけられないだろ。それに魔物が来た時に真っ暗だと戦いにくい」


もちろん、火をつけることによって魔物に気付かれる危険性も上がるが、それを補ってあまりあるメリットがある。


「じゃあ、飯を食うぞ」


俺達はカバンから取りだした干し肉とパンを齧る。これだけというのは味気ないので、料理をしたいところだが、さすがに森の中での料理は魔物を引き寄せてしまう。


「だって言うのに……」


薄らと肉を焼いたような香りと香辛料のような香りがしてくる。ここは風下なのに香ってきているので、その場でももっと香りが強いのだろう。


「こっちに迷惑がかからなければいいけど」


別に料理をして勝手に魔物に襲われるのは構わない。だが、こっちに迷惑はかけないで欲しい。



「じゃあ、予定通り先に見張りを頼むぞ」


「分かりました」

「「は、はい」」


まだ真っ暗にはなっていないが、俺は予定よりも早く休むことにした。早く休んで早く交代しようという考えだ。


「少しでもピンチになりそうと感じたら遠慮なく起こせよ」


「了解です」


まあ、そうなるくらい騒がしくなったら自ら起きると思うが、念の為だ。ただ、すぐに戦えるようにテントは閉めずにすぐに出れるようにし、大鎌も手元に置いておく。俺はテントに横になると、すぐに眠った



「ヌルヴィスさん、交代の時間です」


「そんなに魔物は来なかったようだな」


外には魔物の死体も3つしか転がっていない。ほとんど魔物は来なかったようだ。もしかすると、良い匂いのする方に向かったのかもな。


「朝になったら起こすから休んでくれ」


「ありがとうございます」


青年達は同じテントに入っていく。俺はそれを見送って見張りを始める。見張りの時間は青年達よりも長くなるが、それくらいは問題ないだろう。



「朝になったぞ」


「…見張りありがとうございました」


そして、日が出て朝になったので青年達を起こす。結局、俺が殺した魔物は6体で思っていたよりも少なかった。

それから朝食と後片付けをし、再び狩りへと向かった。今日で終わりなので、今日は森の奥へと向かわず、ぐるっと回りながら森の外へと向かう。


青年も狩りに慣れたのか、レベルが上がったのかは分からないが、魔物を狩るのにあまり苦労することが無くなった。そのおかげで交代は必要なく、今日の俺の仕事は無いかと思ったその時だった。



ドンッバキバキッ!!!!!!


「「「キィィャーーー!!」」」

「「ギャァァァーー!!」」


破壊音と誰かの悲鳴と叫びが遠くから聞こえてきた。

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