第119話 舐めてる

「凄い…」


「「……」」


俺と青年が役割を交代して1時間程が経ち、何体目かの魔物を大鎌で殺すと、後ろで青年の声が聞こえた。その声で後ろに目線を送ると、女達も青年と一緒で固まっていた。俺はとりあえず狩った魔物の討伐証明を自分で切り取る。

女達も青年程では無いが、普段しないことをしていて疲れていたのでその役割も貰っていた。

ちなみに、護衛の冒険者が狩った魔物もちゃんと評価に加わるそうだ。まあ、そもそも冒険者が取ったものか、生徒が取ったものかの区別の付けようがないからな。

とはいえ、強い護衛を連れた者の方が有利にはなってしまうとは思うけど。



「…どうしてそんなに戦い続けられるのですか?」


「慣れかな?」


俺は青年に許可を取った上でわざと魔物の居そうな方へ移動している。そのため、俺だけでもう30近くは狩っている。

青年が疑問に思ったのはそれだけ狩り続けても俺が疲れた素振りをしないことだろう。実際に全く疲れてはいないしな。

ただ、これは慣れとしか言いようがない。俺は13歳の頃から1人で魔物狩りを続けていた。だから魔物を狩ることにあまり疲れるとかは無い。もちろん強い魔物と戦った場合は違うけど。



「それより注意しろよ。そろそろ狡い奴がくるぞ」


「え?」


俺の忠告を青年はよく分かって居ないようだったが、それはすぐに分かることとなった。



「おい!ジャルス!お前が取った討伐証明を全て渡せ!そうすれば痛め付けることは勘弁してやる!」


俺達の後ろから別のグループがやってきた。隠れて襲わず、わざわざ声をかけて来たのを考えるに、相当俺達のことを舐めているな。



「俺達はBグラウンド組だぜ?それに護衛も4人居るんだ!大人しく言うことを聞いた方が身のためだと思うぞ〜?」


そのグループは生徒が4人、護衛が4人の計8人の集団だった。護衛の冒険者も生徒の行動を悪いとすら思っていないようで、ニヤニヤとしている。


「一応確認するぞ。殺さなければいいんだな」


「あ、生徒の欠損は避けてください」


俺は青年に確認をして大鎌を持ちながら歩き出す。


「おいおい!お前1人で俺達に勝てると思ってるのか?」


生徒の1人がそう言うと、1人を除いた7人がゲラゲラと笑い出す。笑っていない1人は全員の荷物持ちをしていてそれどころでは無い生徒だ。さすがに8人の持ち物を1人で持つのは無理だろ。しかも、その荷物持ちの生徒のカバンのいくつかからは血が滴っている。俺達が放置した魔物の1部でも入ってるんだろう。これは物理職でも大変だろうな。



「ふっ…!」


俺は急に身体強化を全力でかけ、一気に駆け出す。


「はあっ!」


「ごぼっ…」

「げばっ…」


そして、油断して武器すら抜いていない横並びの冒険者のうち、端の2人を大鎌の峰で殴って吹っ飛ばす。その時、べキッ!と何かが折れる感触が手に伝わる。俺は過剰だった身体強化を少し弱める。


「このっ…」

「てめぇ…」


「おっら!」


俺は大鎌を手放し、武器を取ろうとした残り2人の冒険者の髪の毛を左右の手で掴む。2人の頭を下に引っ張りながら軽くジャンプし、2人の顔面に膝蹴りを入れる。


「かはっ…」

「かっ…」


そして、その場に倒れそうになる2人のうち、1人を蹴飛ばし、1人は拾い直した大鎌で吹っ飛ばす。


「な、なな…」

「あ、あれ?」

「うぇ?」


生徒の方を見ると、状況を理解すらできていないのか、武器すら持たずに固まっていた。俺は身体強化をさらに弱めて生徒の元へ行き、3人を軽く殴って気絶させた。


「…魔物が寄ってこないうちに森を出て行った方がいいぞ」


「は、はいー…!」


「あ!ちょっと待て!」


俺の忠告で荷物持ちの生徒は荷物を捨て、急いで森を出ようとしたが、それを引き止めた。


「こいつらを木に結んで吊るしておいてくれ。そうすれば魔物に襲われることは無いだろ」


「分かりました!」


この辺で木に登る魔物は居ない。だから木の上に吊るされていたらとりあえずは気絶していても安心だ。まあ、ボブゴブリンとかは石を投げるかもしれないが、それくらいは耐えてくれ。


「先を行くぞ」


「は、はい」


「「……」」


俺達はそんな彼らを置いて先に行く。

今回は冒険者が動きや装備を見てDランクレベルだと分かったから対処した。しかし、もっと強い冒険者が来るかもしれないし、それこそ騎士がこの場に来るかもしれない。そうなって脅された時のために討伐証明は2つに分けて持ち歩いているが、奪われないに越したことはない。そのためにも、また誰か来る前に早く離れた方が良いだろう。


多少時間がかかったとしても、移動や狩りの痕跡は消した方が良かったかもしれない。いや、そうするともっと手前で痕跡を消している途中に出くわすだけか。ただ、スタート地点から離れてはいるのだから、これからは少しくらい痕跡を誤魔化すことはした方がいいかもな。

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