第117話 移動

「お前らも移動を始めろ!」


「やっとか…」


俺達の移動が開始されたのはCグラウンドの先行組が移動してから1時間ほど経ってからだった。

長く待たされてしまったが、その遅くなった理由はすぐに分かった。



「…おい、なんで馬車が何台もあるんだよ」


前にいる貴族達であろうグループには馬車が何台もあるのだ。しかも、その周りにいるのは騎士のような格好の者ばかりで、歩いている生徒は見えない。


「貴族様達は騎士に守られながら馬車で移動するんですよ」


「遠足かよ」


貴族は演習場所までは馬車で移動し、騎士達に守られて演習を行ったら馬車で帰るそうだ。馬車に乗り込んで移動する者しかいないからあんなに遅かったのか。



「普通は移動も演習だと思うけどな」


「…その通りですよね」


魔物が街に攻めてくる以外で移動もしないで特に魔物と戦うことは無い。まあ、馬車で移動するのはあるかもしれないが、あんな守られた中で乗らない。しかも、馬車は装飾が目立つ。あんな質の良さそうな馬車に乗ることは無いだろ。…いや、貴族ならそれらもあるのかもしれないか。魔物を狩りに行くのに装飾の入った目立つ馬車など冒険者からしたら有り得ないと思うけどな。


「1つくらい壊れて貴族共が歩いていく羽目になればいいのに」


「はははっ…」


俺の発言に青年は乾いた笑いをする。

移動が始まり、すぐに門から外に出て、森のそばの道を歩き出す。



「あ、魔物が現れたらどっちが守ってどっちが倒す?」


俺は突然青年にそう尋ねる。これは先に決めておいた方がいいだろう。どちらも攻めに行って女達を取り残すのは良くないだろ。女達は戦闘になれているとは思えないからな。


「それは俺がやります。ただ、ヌルヴィスさんが俺では倒すのが難しいと思う魔物が現れたら言ってください。交代します」


「了解。それなら守りは任せてくれ」


青年が魔物を撃退しに行くと言うなら俺は彼に任せて守ることに注力する。


「それと、俺が勝てるか分からない魔物が出たら俺が時間を稼ぐから2人を連れて逃げろよ」


「それは……はい…。分かりました」


何か意見を言おうとした青年だったが、俺の判断に従うと言ったからか、何も言わず大人しく従う。



「魔物が出たぞ!」


「っ!!」


後ろの方で魔物が現れたようだ。俺達はCグラウンドの後衛部隊の中では前にいるので気付かなかった。高ランクならさすがに気配が強いので気付くと思うから強くない魔物だろう。ただ、一応振り返って魔物の確認はしておく。


「ゴブリンだ。だからお前は行こうとするなよ」


「しかし……」


ゴブリン数体程度なら冒険者はもちろん、学生でも倒せるだろう。だから青年は槍を抜こうとしているところだが、わざわざ後ろまで行く必要は無い。


「どうしてお前がそんなに魔物を殺したいかは知らないし、聞かないが、あくまで本番は明日以降だ。今日は体力を使うな。何のために前に来たと思ってんだ」


「はい…」


青年は槍から手を離して前を向き直した。


「俺の事情とか聞かないんですね…」


「別に依頼とは関係無いからな。それに、俺はずっとこの国に居るつもりは無いし、興味もあまりない。聞いてほしくはないんだろ?」


「…はい」


「なら聞かないから安心しろ」


気にならなくはないが、青年達の関係を悪くしてまで聞きたくはない。


「今後の予定ではどうなってるんだ?」


「えっと…明日の昼頃に演習の本番が始まり、明後日の昼で演習の本番が終わり、点呼をして帰る予定となっています」


実際に狩りを行う時間は1日程か。しかし、夜間もあるとは大変だな。しかし、3泊4日になるのか。3泊だから最初3日間の予定になっていたのだろう。


「夜の見張りは先にお前達3人がやってくれ。後半は俺が1人でやる」


「それは…いえ、お言葉に甘えてそうさせてもらいます」


「おう」


青年達がそれぞれ1人で見張りをするのは不安だが、さすがに3人揃えば大丈夫だろう。

その後も演習のことなどについて話し、夜になったら青年達は女達が背負っていた鞄の中に入っていたテントで、俺はマジックポーチのテントで眠った。

そして、次の日の演習本番がやってきた。

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