第116話 嫌味

「だからこの俺が…!」


(ふぁ〜〜)


壇上に立った教師と思われる偉そうな中年の男は長々と話しているが、俺はほとんど話を聞いていなかった。だって話している内容が学校内の身内ネタのようなものばかりで冒険者には関係の無いものだったからだ。


「本来貴族である俺が貴様らなんかを…」


身内ネタも貴族の引率に慣れなかったことへの不満を学生にぶつけているだけだ。さらに、自分がどれほど優れていて、ここにいる貴族ではない学生がどれほど劣っているかも熱弁している。何となくそうなのかと思ってはいたが、この場には貴族は1人も居ないらしい。


(よくじっと聞いてられるな)


俺は目線を左右に動かして冒険者の様子を確認する。こんなあからさまに馬鹿にするような発言を繰り返されているのに荒くれ者のはずの冒険者は大人しくしている。やはり、貴族というのはそれほど怖いのか?貴族なんている訳もない田舎の村出身の俺には未だに貴族というものを知識でしか知らないからふわふわとしたイメージしかできていない。



「…さっきから不服そうにしているが、何か質問でもあるのか?ジャルス・ミケーニョ?」


「っ!」


そんな中、急に教師は俺達の方を向いて何か質問をしてきた。その言葉に青年と女はビクッと反応する。確か、ジャルスとは青年の名前だったはずだ。依頼書にそう記されていた。だが、ミケーニョ?姓があるのか?


「おっと!俺としたことが間違えてしまった!もうただのジャルスだったな!」


「………!」


俺の横の青年は歯を食いしばり、拳を強く握って下を向く。また、青年の後ろの女達は落ち込むように下を向く。


「ふふっ…」

「ははっ」


そして、周りの学生の一部とその学生の近くの事情を知っているであろうさらに一部の冒険者はくすくすとそんな青年達を見て笑っている。


「ジャルスの依頼を受けてしまった不幸な冒険者よ。今なら俺がそんな安い依頼量の10倍を払ってやるから帰っていいぞ」


「……」


はあ…青年が下を向いたせいで今度は俺まで絡まれてしまった。全員の目線が俺の方を向いている。

さて、どうするか。まあ、やることは決まってるか。


「それはできませんよ」


「何?」


教師は断られると思っていなかったのか、不機嫌そうな顔をする。青年も教師の案に乗ると思ったのか、顔を上げて驚いたような表情で俺を見る。


「冒険者って信用が大事何ですよ。だから金に目がくらんで依頼を急にキャンセルしたら俺にもう信用がなくなり、まともな依頼が受けられないんですよ。それに、俺は田舎者だから、何があったかなんて全く知りませんよ」


「何だと…!」


この偉そうな中年の言うことなんて聞きたくないというのが本心だが、一応貴族相手なのでまともな理由を説明する。この説明には周りの冒険者の何人かは頷いている。こいつは金さえ払えば寝返るとか思われたら護衛依頼何かは特にできなくなる。


「こんな冒険者なんかに構っていますが、時間は大丈夫なんですか?」


「あっ!」


教師は慌てたように演習の説明をしていく。さっきから愚痴と自慢話でほとんど説明をしていなかったからな。そんなことがバレたらこいつの評価にも響くだろう。


「…ありがとうございます」


「何のことやら」


小声で話してきた青年に俺も小声で返す。青年を庇う気持ちもなくはなかったが、大部分があの教師が個人的にムカついたから行ったことだ。それにこの程度のことは感謝されることでも無い。


「まず、Bグラウンドの者とお前らの1部が進み、その後にAグラウンドのエリートが進み、最後が残りのお前らだ」


移動は一般学生、貴族学生、一般学生という順で進むようだ。

ちょうどそんな話をしている間に門の方から何人もの話し声が聞こえてくる。


「じゃあ、前に話していた先鋭の者は門へ向かってくれ」


教師がそう言うと、半分弱が門へと移動を始めた。


「いや、だったら最初からBグラウンドに居れば良かっただろ」


その様子を見て、俺はそう呟く。わざわざ別ける必要なんかなかっただろ。最初からBグラウンドに居れば移動も楽だったよな?


「いえ…優劣を付けることでCグラウンドの者に雑用を押し付けたいですよ」


「うわ…面倒くさ」


わざわざBグラウンドとCグラウンドで別けてから一緒にすることで、前からやってくる魔物なんかの対処や見張りなどの面倒事をCグラウンドの者に任せるつもりらしい。

だから、正しくはC、B、A、Cという並びのようだ。つまり、今ここに残っているのは1番面倒であろう後ろの警戒をしなければならないということか。どうせ、後ろから魔物が来て対処して俺達の足が止まろうと前の奴らは待たないんだろうな。


「良い性格してる学校だな」


立場の強い者はかなり優遇し、弱い者をこれでもかと冷遇する。これを教師が率先してやっているのだからある意味凄いな。

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