第114話 青年と女達の関係

「あ、後ろの女達とも戦った方がいいのか?」


「「っ!!」」


降参をした青年から大刀を離れさせながらそう言うと、後ろの女達はビクッと反応して後退る。


「いえ!戦うのは俺だけでいいです!」


「そうか」


青年が慌てたようにそう言って俺の提案を否定する。

何となくだが、青年と後ろの女達の関係性が見えてきた気がした。青年はその女達を守っていて、女達はその優しさに甘えている。青年は守る責任からちゃんと俺の指示を聞くのは正しいかを判断するために模擬戦をしたのか。

それにしても、女達は1度も声すら発さないな。


「…守るのは別にいいが、その強さのままじゃ厳しいぞ」


「……はい」


女達には聞こえないように青年の耳元で俺はそう言うと、青年から離れる。

青年の強さでは女達を完全に守りきることは難しいだろう。それはCランク程度の冒険者に手も足も出なかったことで、賢そうな青年なら分かっているとは思う。だから余計なお世話だったと思うが、つい助言してしまった。


「もう一度戦ったりするか?まだ全力を出し切れていないとかはないか?」


「…正直、全力をお見せすることができたとは思えませんが、もし全力でもヌルヴィスさんには勝てないと思いますし、大丈夫です」


青年は満足そうにそう言う。

確かに俺から見ても青年は実力を全て発揮できたとは思わない。2回目もまだどこか武器を振るのに躊躇しているのかもと思うような動きではあった。何日か特訓すればそれも改善できそうではあるが、青年が求めない以上、そこまで俺が干渉することはない。



「じゃあ、面会はこれで終わりでいいのか?」


「はい。依頼は13日後の9時にこの場所に来てください」


青年はそう言いながら集合場所などが詳しく書かれた皮紙を渡してきた。


「では、よろしくお願いします」


青年はそう言って頭を下げ、女達を引き連れて街の方へ帰って行った。



「変な関係性だな」


あの3人の関係性はかなり歪と言ってもいいと思う。青年は女達を守るのが当たり前のようにしているし、女達もそれが当たり前のように振る舞っている。

青年は自分の強さに自信があったからあんな条件の低い依頼にしたのではなく、人の手をできるだけ借りずに自分で女達を守るためにそうしたのだろう。


「まあ、深くは聞かないけど」


俺はただ依頼を受けただけの者だ。だから気になりはするが、あの3人の関係性について聞いたりするつもりは無い。俺は俺の仕事をきっちりするだけだ。


「…俺も奴隷を持つとあんな感じになるのかな」


奴隷は購入者の所有物ではあるが、魔物の身代わりにするなどの行為は禁止されている。もちろん、人気のない場所でやったところでバレる訳では無いが、そんなことが繰り返されると正規のところでは奴隷が買えなくなる。それに奴隷は安い買い物ではないからそもそも簡単に身代わりにはできない。

つまり、奴隷を買ったら俺は奴隷を守る必要が生まれる。


「でもあれを見ちゃうとなー」


苦労人だった青年を見てしまうと奴隷を買うのは更に否定的になってしまう。あの女達はまるで青年の愛玩奴隷のような立ち位置に見えた。まあ、俺が買うとしたら戦闘奴隷という戦える奴隷になると思うからあそこまで酷くはないと思うけど。


「まあ、後回しでいいよな」


別に俺は今すぐに奴隷が必要な訳では無い。まだ1人でも冒険者をやれている。奴隷はこの先行き詰まってからだ。



「集合場所は学校か」


皮紙に書かれた集合場所は学校のグラウンドとなっていた。そこから一斉に演習に出かけるようだ。まさか、俺が学校の敷地内に入る日が来るとはな。


「さて、そろそろ帰るか」


あの青年達と鉢合わせるのは気まずかったので、この場でぼんやりしていたが、そろそろ帰ってもいいだろう。俺は街へと足を進めた。


そして、それからもいつものように狩りをしていると、とうとう波乱となる演習の始まりである依頼の日がやってきた。

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