第113話 真面目な青年

「それで、ルールはどうする?」


俺は移動しながら後ろにいる青年に話しかけた。


「ルールと言うと?」


青年は俺の問いをそのまま聞き返してきた。確かに学生と冒険者では戦いの内容も変わってくるかもな。


「木の武器で戦うか、武器は本物でも刃や槍先を無くす鞘を入れて戦うか、それとも魔物と戦う時と同じように戦うか」


「「っ……」」


俺の知っている物理職同士で戦うといったらこの3択に落ち着くだろう。俺の応えに女の2人の足が一瞬止まり、息を飲む。


「…普段冒険者同士ではどのように戦うのですか?」


「魔物と戦う時と同じようにいつもの武器を使うな。まあ、もちろん相手に大怪我はさせないように気を使うけどな」


そもそも冒険者が木の武器をわざわざ持っている人は少ないだろう。現に俺も木刀はルイ父さんから貰ったのが、木の大鎌は持っていない。


「では、本物の武器でやりましょう」


「いいんだな?」


俺は顔だけを後ろに向けて確認をする。リアクションを見た感じでは青年達は人同士のそういう戦いになれていないように感じる。槍を振るのを恐れて何も出来なかったら意味が無い。

しかし、青年は拳を強く握り、大きく頷いた。青年が大丈夫と言うならよいだろう。



「さて、じゃあやろうか」


「はい!」


ちょうど話が終わったタイミングで人気のない場所に着いた。青年は背の長槍を抜くのを見て、俺も大鎌を抜こうと柄を握るが、すぐに手を離す。柄から離れた手はそのままマジックポーチに向かう。


「その大鎌は使わないのですか?」


「うん。最近はこっちばかり使ってるしね」


俺がマジックポーチから取り出して手に持った武器は大刀だった。その大きさ的に大鎌と一緒に装備するのは難しいのでマジックポーチの中に入れているが、最近の狩りではこれを主に使っている。


「あ、大鎌を使わなかったから負けたとか言い訳はしないから安心してくれ」


正直、大刀を使って負けるくらいなら指示に従うのは別に問題ないと思っている。それぐらいに大刀も扱えるようにはなった。

まあ、それはそれだけの実力があればの話だけどね。俺の勘的には大刀でも十分大丈夫だと言っている。


「さて、やるか。一応気絶するか、ギブアップするまでな」


「分かりました」


俺が大刀の鞘を抜き、両手で持ち、構えながらそう言うと、青年も長槍を構える。


「いつでもどうぞ」


「はあ……!」


俺が先手を譲ると、青年は俺に勢いよく向かい、長槍を突き出してくる。


「…ナメてんの?」


「っ!?」


その突き出された長槍を俺は手で掴んで止める。手で簡単に掴めるくらいにその攻撃は弱かった。


「こんな勢いの無い槍なんか避ける意味すらないぞ。人に武器を触れないなら最初から武器でやるなんて言うな」


「………」


俺は武器を強制した訳では無い。その理由も青年の本当の実力が見たかったからだ。それなのに勝手に背伸びした結果がこれなら落胆もしてしまうだろう。


「すみませんでした。もう一度仕切り直させてください」


「次はないぞ」


俺が長槍から手を離すと、青年はもう一度距離を取り直す。もう一度チャンスを与えたのは青年がここまで礼儀正しく、バカにしたような態度をとっていなかったからだ。まあ、そもそもそんな態度をとってたらさっきの一撃にカウンターで殴り飛ばしていたと思う。


「行きます!」


青年はそう言うと、もう一度向かってきて、さっきと同じように長槍を突き出す。ただ、そのスピードとキレはさっきとは段違いだ。


「よっ」


その長槍を大刀で受け流し、青年の懐に潜る。青年は急いで長槍を引き戻そうとするが、青年の手ごと長槍を抑えてその動きを止める。


「対人戦で長槍を使うなら懐に入られた時のことは1番に考えておくべきだぞ」


「こほっ…」


俺は大刀の持ち手の先で青年の腹を殴りながらそんなアドバイスを送る。そして、俺はわざと距離を取る。


「温存するのは勝手だが、早く本気を出さないと後悔するぞ」


「はあーっ!」


俺の言葉を聞いてか青年は身体強化を行った。その強化はレベル2程だったので、俺もそれと同じくらいの身体強化をする。


「はっ…ふっ!やっ!」


青年はまた同じように長槍を振るように見せかけ、俺と距離保ったまま何度も槍を連続で突き出してくる。確かにこうされると距離を詰めるのは難しくなるな。


「らあっ!」


ただ、連続して突き出している分、1発1発のパワーは少なくなっている。俺は青年の腕が伸び切ったタイミングで長槍を大刀で叩いて刃先の向きを変え、青年に向かう。青年もさっきのアドバイスを聞いてか、急いで長槍を横に振り直す。しかし、それをしゃがんで避け、一気に距離を詰める。

そして、青年の首元に大刀を沿うように置く。


「これで俺の勝ちでいいな?」


「参りました」


こうして、この勝負は俺の勝ちで終わった。

この青年は真面目そうだったので、俺が両親やシア父さんにされたように戦いながら足りないことを教えようとしたのだが、上手く教えられなかった。

まだ人に教えられるほど俺は経験があるわけでも強いわけでもないようだな。

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