第103話 尾行者

俺が尾行されているのに気が付いたのは本当に偶然だった。俺は普段、目的地に着くまでに見つけた魔物は殺さず、見つからないように避けている。その理由は単純にいちいち相手していたら面倒だからだ。もちろん、バッタリ遭遇したり、ランクの高い魔物だったり、珍しい魔物なら殺ることもあるが。


そして、今日もいつも通り魔物をスルーしたが、そのすぐ後に戦闘音がしたのだ。見逃したのはゴブリン数体で強くはなかったので、その戦闘音はすぐに消えたが、確かに戦っている音は聞こえたのだ。


そのため、今度はわざと遠くに見つけた魔物の近くを隠れて通ると、またすぐ後に戦闘音がしてきた。そこで俺は尾行されていると悟った。


「何のため…あっ」


俺を尾行する理由を考えたが、その瞬間に腰に着けているマジックポーチに目がいった。


「これか?いや…これもか」


腰を見た時に俺の少し半透明になっている黒い装備も目に入る。こんな珍しいのは少なからず目立つだろうな。そして、犯罪者は目を付ける。


「さて、どうするか」


尾行を撒くのはそこまで難しいことでは無い。さっきのように魔物と戦わせて、俺はその間に全力で走れば撒けるだろう。しかし、そうすればこの尾行はまだまだ続くだろう。

なら、戦って殺すか?いや、もし戦った時に俺の方が弱かったら俺は殺されてしまう可能性が高い。



「…何をするにもまずは尾行者を見るか」


選択肢を確定されるためにもまずは相手を知らなければならない。俺はさっきのように魔物を相手に押し付け、その間にダッシュでぐるっと尾行者の後ろに回り込んだ。


「おい!姿が見えなくなったぞ!」


「くそっ!何でこうも魔物に遭遇するんだよ」


「うるさい!いいから探すぞ。相手は1人のくせにマジックポーチだけでなく、良い装備まで持ってるんだぞ!依頼料以上に稼げるぞ」


小声で話されていたため、会話の内容までは聞こえなかったが、俺は尾行者5人の姿を見て驚いた。尾行者は全員軽装にナイフを持ち、薄黒く目立たない服装をしていたのだ。全員がそんな格好というのは冒険者にしては異様なものだった。



「……雇われたのか?」


非合法の暗殺ギルドなる、依頼を受けて暗殺を企てるギルドがあるらしいというのは両親から聞いていたが、彼らがその暗殺ギルドのメンバーか?いや、それとも単純に隠密性能特化の冒険者の集まりか?


「どっちにしても俺がすぐに気付かなかったのには納得だ」


俺がすぐ尾行者に気付けなかったのは尾行者が隠密を使っていたからだろう。だから戦闘音が聞こえるまで気配1つなかった。


「…殺るか」


俺はその姿を見て殺ることを決意した。俺が尾行者を撒いたと思ったけど、撒き切れていなかった時、俺は不意打ちを受けるだろう。こんな見た目の奴らは毒を使うかもしれないので、下手すると不意打ち1回で死んでしまう。

だが、今は俺が尾行者に気付き、尾行者は俺に気付いていない。殺るなら今がチャンスだろう。それに、1度見つけてから隠密をかけられても注視していれば見逃すことは無い。


そして、今は俺を探すために少しバラけて広がっていて、それを指示をしている一番偉いであろうリーダーもすぐに分かる。


「轟け…」


俺は小声で詠唱しながら茂みから静かに飛び出し、大鎌を持って指示を出しているリーダーの後ろから駆け出す。そして、大鎌をリーダーに振る。



「くっ!後ろに居たぞ!」


俺が振った大鎌をリーダーは振り返って防ぐ。しかし、こいつは俺を見つけてニヤけ、仲間を俺に向かわせた。


「サンダーアロー!」


俺は4本出した雷の矢を彼らの胴体に放った。完全に予想だにしていない攻撃を避けることすら出来ずに4人は食らって倒れる。


「お前!魔法使いか!」


「はっ!」


大きく目を見開いて驚くリーダーに俺は連続して大鎌を振る。それをリーダーは何とか受け切っている。まだ身体強化のみの全力強化なので余裕はあるが、それでも受け切るということはDランクの強さはあるだろう。


「さっきの魔法にその大鎌…お前は何なんだ!」


「闇れ」


相手の強さを分析できたらもう用はない。下手に毒とかを使われると危ないのでストックしていたダークランスを至近距離で放ち、胴体を消し飛ばす。


「うっうう…」


「……」


そして、次は雷の矢を受けてもまだ息があった半数くらいの者を殺して回った。

その後は首を斬り落とし、頭だけをマジックポーチに入れた。

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