第99話 新たな装備

「何と言うか…壮絶だったんだな」


「まあーね」


俺の話を聞いて全員が無言の中、シア父さんがそう言った。


「あの小さな村で半彩化に出会うだけでも珍しいのに、次の村では彩化に出会うなんて、そういう星の元に産まれてきたみたいに感じますね」


「その言い方はやめてよ。それだとこれから先もどんどん強力な魔物に出会うみたいじゃん。命がいくつあっても足りないよ」


そりゃあ慎重に冒険者として生きていても偶然自分よりも強い魔物に遭遇する機会はあるだろう。だが、ルイ母さんが言うようにそれが何度もしょっちゅうあったらそう遠くないうちに死んでしまうだろう。だからそれは嫌だな。


「でも、それだけの困難を乗り越えたのなら強くなってるのよね?」


「それはそうだね」


シア母さんが言うように、確かにそんな困難のおかげでより強くなったというのは自信を持って言える。まだ上には上がいるのは間違いないが、村を出た直後と比較するとかなり強くなっている。

だからってそんな頻繁に困難とは巡り会いたくと思えない。



「うむ。これならこの武器達を渡してもいいだろう」


ルイ父さんはそう言うと、腰に着けたマジックリングから大鎌と大刀を1本ずつと胸当てなどの俺がよくする軽装の防具を取り出す。


「こ、これは…?!」


俺は見た瞬間に目が奪われた。その2種の武器と防具は漆黒のような色でありながら、どこか半透明のようで透き通るような見たことの無い者だったからだ。


「これは魔物の鱗と牙と爪と黒鋼とミスリルを使った武器達だ」


「え!?ミスリル!?」


魔物の素材類は分かるし、黒鋼は今の大鎌に使われている黒鉄よりも硬い金属というのも分かる。

しかし、ミスリルというのは衝撃だった。ミスリルは水晶を少し濁らせたような色の金属でもちろん硬くもあるが、それは黒鉄以上、黒鋼以下のものだ。しかし、それでもミスリルは黒鋼の何倍、何十倍もの価格になる。

そんなミスリルの1番の特性は魔力を通し、増幅することができる点だ。この点が魔法使いに重宝され、杖の芯や先によくミスリルが使われている。


「普通はミスリルの武器や防具なんて宝の持ち腐れでしかない。だが、ヌルは違うだろ?」


「あっ!」


確かに普通の物理職が武器と使うには勿体ないと言わざるを得ない。だが、俺の場合は話が別だ。俺は魔法も使うので、ミスリルを使われているのはプラスになる。主に武器には付与魔法、防具には身体属性強化などだろうか。



「ミスリルを武器として使おうとするの何か貴族の飾りや式典用の武器くらいだから、ヌルが使うような実戦用のを作るのは大変だったぞ」


「…本当にありがとう」


俺のために数年も試行錯誤を繰り返して作ってくれたということに言葉では表しきれないほどの感謝の念を覚える。


「ただ、この武器を手に取る前に1つ約束してくれ」


「…ん?」


俺が武器に手を伸ばそうとするが、その前にルイ父さんがキツめの目でそう言ってきた。


「この先、ヌルはもっと強くなるだろう。そんな時にこの装備が壊れたり、この装備よりも自分に合う優れた装備に巡り会うだろう。その時は遠慮なくこの装備は処分するなり、予備にするなりしてくれ。俺はヌルの足を引っ張るために装備を作ったんじゃないからな」


「……わかった。約束する」


確かに俺は今の武器に愛着を持ち過ぎていたきらいがあり、多少性能が良い大鎌と出会っても交換しなかっただろう。だが、武器は文字通り冒険者にとっての生命線なのだ。妥協は許されないだろう。



「それでこの武器の値段は?」


これだけ良い物を作ってもらったのだからそれなりの対価は必要だろう。


「いや、この武器で値段は必要無い。金に関してはそこの3人と分割したからな」


「え!?」


俺は驚いてルイ母さん、シア両親を見た。すると、3人は何度か頷いていた。俺の装備のために4人がお金を出してくれたのか。


「ただ、お金の代わりにお願いを聞いてもらいたい。このお願いはあくまでお願いだから聞いてもらえなくても構わない。だが、頭の片隅程度には留めて欲しいお願いがあるんだ」


シア父さんがいつになく真面目な様子でそう言ってくる。その言葉を皮切りに全員が椅子から立ち上がる。


「「「「どうか、ルイ(シア)を気にかけてやってくれ。そして、シア(ルイ)がピンチの時は助けてやってほしい」」」」


「え!?」


4人は俺に向かって頭を深々下げてそう頼み込んできた。

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