第87話 最後の特訓

「よし、今日の狩りはここまでにしよう」


「え?!まだ昼過ぎですよ?最後がこれで終わりじゃ物足りないですよ!」


最後の特訓で俺がまだ昼過ぎなのに狩りを終わりと言うと、カラゼスは反対する。


「正直、現時点での戦い方はもう教え尽くしたと思う。あとはパーティ内でどうすればもっと戦いやすいかを追い求める段階だ。次に新しく何か教える時は個々がもっと強くなった時だ」


俺がそう言うと、ナユとルフエットは自覚があったのか少し目をそらす。正直、俺の専門外な盗賊と回復魔法使いに関しては教えられることは特に少ない。個人技は教えられず、両親から聞いた立ち回りを話すくらいしかできない。現にその2人には今日は何も言えていない。曖昧で下手なアドバイスをして彼女らが弱くなったら大変だからな。


「でも…」


「話を最後まで聞けって。何も今すぐ帰るって訳じゃない」


まだ文句を言おうとしてきたカラゼスの言葉を遮る。俺の言葉でカラゼスが期待を込めた目を俺に向ける中、俺は背にある大鎌を抜く。そして、抜いた大鎌をカラゼス達に向ける。


「ちょうどここは広く、魔物も居ないし、人も来ない」


「?」


今はDランクが居るあの鬱蒼とした林の先の広場にいる。彼らなら魔物がDランクでも戦えると思ったので、今日はここに来ている。現に、彼らは複数のDランクの魔物でも問題なく戦えていた。

俺の時のような魔物の大量発生はしていないので、ここはかなり安全な地帯の方だろう。


「戦うには絶好の場所じゃないか?」


「はっ?!」


カラゼスは俺の言葉を聞き、慌てて剣を抜いて構える。それは刹那の伊吹の他の面々も一緒だった。


「最初に言っておく。俺は前と同じで魔力を使う気は無い」


「「……」」


俺のこの発言でエルミーとナユが少し苛立ったような顔をする。刹那の伊吹の中でも特にプライドが高い2人にはそんなあからさまな手加減宣言は気に食わないのだろう。


「お前らの勝利条件は俺を倒すか、俺に魔力を使わせることだ」


「分かりました」


俺の条件にカラゼスが代表して納得する言葉を言ったが、他の者も頷いている。


「最後にこれだけなのは少しつまらないな。ルールも前とほとんど変わってないしな。そうだな…よしっ!俺が負けたら金貨3枚以内かつ1日で済む願いならなんでも聞こう」


「え!?いいんですか!」


俺の提案に嬉しそうな声を上げたのはリリラだった。欲しい魔法杖でもあるのだろうか?

ちなみに、魔法杖とは魔法使いの武器のようなもので魔法の操作性と威力を増す効果がある。


「構わない。もちろん、だからって俺が勝ったとしても何も要求しないから安心してくれ」


これは彼らの成長を確かめるための模擬戦でもあるのに、俺が勝ったからって彼らから何かを要求するつもりはない。さっきの提案は少しでも彼らのやる気を増加させる狙いなのに、逆に士気を下げることをしたら意味が無い。


「それと、今から作戦会議をしてもいいぞ。準備ができたら声をかけてくれ。そうしたらこの石を投げる。投げた石が地面に落ちたら開始だ」


俺は近くに落ちている適当な石を拾い上げ、見せながらそう言う。俺がそう言った途端に5人は集まって俺には聞こえない声で作戦会議を始める。

俺は少し離れて座ってそれが終わるのを待った。彼からは午前中にそこそこ狩りをしているので、その疲労を考えたら作戦会議くらい好きにさせても公平性は保たれているだろう。



「準備が完了しました!」


「ああ」


作戦会議は1時間弱程かかっていた。俺の想像よりも長かったが、その分良い策が思い付いたのだろうか?ただ無駄に待たされただけならさすがに少しは怒るぞ。


「じゃあ、いくぞっと!」


俺は拾った石を空中に投げる。石はどんどん上へ行くが、すぐにそのスピードは落ちていく。そして、一瞬石は止まると、下に向かって勢いを増しながら落ちていく。


コンっ!


石が地面に当たる少し弱い音が鳴ると、模擬戦が始まった。

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