第86話 大鎌の限界
「大鎌を研ぐのを頼みたい」
俺はギルドから出てそのまま研師の元へ向かった。今日は依頼を受ける気にはならないので、大鎌を解体師の元で研いでもらう日にするつもりだ。
俺は大鎌をカウンターに置くと、研師は大鎌の刃を目詰める。
「…お前…何を斬った?いや、何と戦ったんだ?」
「さすがだな」
大鎌の刃を見ただけで強大な敵と戦ったということがわかるのか。俺には今の刃を見ても何も分からない。さすがは熟練の研師だな。
「何を斬ればこんなに刃こぼれするんだ。今回は刃こぼれだけじゃなく、焼かれてもいる」
「全赤化したベアとな」
俺がそう言うと、研師はどこか納得した様子で刃を色々な角度で観察していた。
「…武器を大事に扱っているのを知っているが正直に言うぞ。今のお前の腕にこの大鎌は合っていない。お前に対して大鎌のレベルが低い」
「っ!」
「このままこれを使い続けてより強い魔物と戦ったら折られるぞ」
ここ最近は研師に依頼する回数も増えていたので、刃の消費が早いと思っていたが、俺の力量が大鎌の性能を越えてしまったのか。
「どんな思い入れがあろうと武器は武器、道具でしかない。もっと自分に合うのができたら交換するものだ」
「…その通りだな」
確かにこの大鎌は初めて貰った武器ということもあり、思い入れはかなり強い。だが、だからといってこの大鎌をそのまま使い続けても俺は成長することができない。それどころか魔物に殺されてしまうかもしれない。
「分かった。武器はできるだけ早く変えることにする。だから今回も研いでくれ」
「大鎌なんて色物は手に入れようと思ってもそう簡単に手に入らんからな。この街の武器屋には無いだろう。できるだけ大きい街の方が手に入る可能性はあるぞ。それこそこの国の王都とかな。
変えるにしてもそれまでの武器は必要だろうからな。今回も精一杯研いでやる」
「ありがとう」
俺は大鎌を渡して研師の元から去る。
「次の目的地が決まったな」
正直、もう少しゆっくり街を巡りながら王都には行くつもりだった。だが、武器が限界なら仕方がない。
「次の目的地は王都だ」
約束通りならルイ父さんが王都で俺の大鎌などの武器を取り揃えてくれているだろう。新しい武器を手に入れたいなら王都に行くべきだ。
「王都行きの依頼があるといいな」
王都行きの護衛依頼はそこそこある。ただ、それは数ヶ月の長旅ということでその分危険度も増すので、最低でもDランクからしか受けられない。今の俺なら受けることは可能だな。
「次は防具か」
赤ベアに防具は壊されたり溶かされたりした。正直、防具も俺のレベルに合っていなかった。
ただ、軽装の防具は大鎌のように珍しくないので適当な武器屋などにあるだろう。防具も王都の方が良いものはあるので、これも間に合わせに過ぎない。ならそこそこのものでいいだろう。
「まあ、こんなもんか」
俺は防具を買い終えた。防具は以前と変わらず、胸と腕と足に軽く金属が着いているだけのものだ。それだけでも大銀貨5枚だったので、高い買い物だろう。
「次はポーションか」
防具を買い終えたので、次は消費してしまったポーション類を買いに行く。
ただ、ポーションは高かったので、回復、魔力、闘力ポーションの中級を3本ずつ、またその3種の下級ポーションを10本ずつ買い揃えた。
それだけでも金貨3枚と大銀貨1枚もするのだから高い買い物だった。中級のポーションが1本で大銀貨2枚だから仕方がない。本気で回復魔法が使える仲間が欲しく感じる。
その後は宿に帰り大人しく過ごした。
そして、次の日には赤ベアの素材の料金を受け取りにギルドへ向かった。
「大金貨2枚と金貨5枚だ」
「それは凄いな」
俺のための数キロの肉と爪と毛皮の一部を抜いてもその値段だ。討伐報酬よりも高い。
これでは昨日の買い物達が安く感じてしまう。
「普通は大規模な討伐隊で殺すから肉や毛皮とかも傷だらけになるんだ。だが、今回は胸と片手以外に特に損傷はなかったからな」
「なるほどな」
ちゃんと高いのにも理由があるようだ。
俺は素材の残りとお金を受け取り、ギルドの依頼ボートを見に行く。
「あ、ちょうどいいのがあったな」
依頼ボートにはちょうどよく王都行きの護衛の依頼があった。Dランクからの依頼だが、今の俺には受けられる。そして、依頼の開始日は最後の刹那の伊吹の特訓から2日後なのも都合が良い。また、定員も10人と多いのも良い。
「これを受けたいのだが」
俺はいつもの受付のその依頼を剥がして持っていく。
「ついにこの街を出ていくのですね…。かしこまりました。少しお待ちください」
受付は依頼を受理する手続きを行う。
「普段の素行に問題もありませんので受理しました。集合は依頼日の2度目の鐘の音がなる9時になります。冒険者は遅刻をする者が多く、苦情がよく来ますが、ヌルヴィスさんなら大丈夫ですよね?」
「ああ」
依頼は普段の素行が悪いとギルド側が受理しないこともあるらしい。まあ、変な奴を護衛にさせてギルドの評判を落としたくないからだろうな。
また、普段は朝6時頃からギルドに来て狩りに向かっているのだから9時ならむしろ遅い方だ。
その日は大鎌を受け取りに行き、赤ベアのような魔物が居ないか鬱蒼とした林の中やその奥を調査した。特に何も見つけられなく、その日は終わった。
そして、次の日、最後の特訓の日となった。
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