第85話 討伐報酬
「さて、何があったか詳しく聞かせてくれるか?」
「ああ」
翌日、ギルドに訪問した俺はギルド長室で話を聞かれていた。
俺は聞き覚えのある者を呼ぶ悲鳴が聞こえて駆け付けると、全赤化したベアが居た。そして、刹那の伊吹を助けるために通称赤ベアと戦い、殺したと説明する。
「…なるほど。刹那の伊吹の説明と同じだな」
「昨日のうちに聞いておいたのか」
俺が帰ったあとに刹那の伊吹からも何となくの話は聞いていたようだ。まあ、緊急性が高い事柄だからしょうがないだろう。もしかすると、彼らが同じ現場に居たから俺は昨日何も聞かれずにすぐに帰ることができたのかもしれない。
「ただ、あの胸の穴は大鎌で空けたとは思えない。穴を空けた方法については刹那の伊吹は何も言わなかった。口止めをされているかのようにな」
「口止めしたからな」
刹那の伊吹は約束を守り、何も言わなかったようだ。もちろん、信じていたが、実際に守ってくれると嬉しく感じる。
「堂々と口止めのことを言うのか」
「隠すところと隠さないところの選別はしてるからな」
下手に全てを隠すと、相手は何の情報も得られないので、強引にも知りたがる。だからこそ、自分の絶対言えない情報をだけを隠し、他の情報は教える。そうすれば相手は確信を知らなくても他の人よりは詳しく知った気になれるのだ。
今回で言うと、絶対に教えない情報は胸に穴を空けた方法と腕などに付いているであろう魔法の傷跡の事だ。それ以外は隠しているという事実であろうと教えるつもりだ。
ちなみに、隠してバレないかという問題だが、過去物理職と魔法職を兼ね備えた者は居ないとされているのでバレようがない。
「ならどうやってあの穴を空けたんだ」
「使い捨ての魔導具を使ったってことにしてくれ」
俺はあえて絶対に嘘だと分かるような言い方で嘘を言う。
「なるほど…そうしておく。一応聞いておくが、その使い捨ての魔導具の在庫はもう無いのか?」
「今は無いな。もし、似たようなピンチになったら補充するかもしれないけどな」
「くくくっ…分かった」
ギルド長は個人的にも組織的にも赤ベアをも貫く魔導具があれば知りたいと思うだろう。だから在庫は無く、調べることはできないとした。
また、ピンチになったら補充するというのは、日常的には魔導具と嘘をついている攻撃手段は使わないが、ピンチになったら使うかもしれないということだ。
「今回は被害を最小限に抑えてくれたことを加味してそれで納得する」
「ありがとう」
確かに俺が赤ベアをやらなければもっと被害者は増えていただろう。それこそ、刹那の伊吹は全滅していた。
「だが、冒険者を続けるならいつまでも隠し通せるものではないぞ」
「分かっている」
冒険者として魔物を殺して生きて行くなら今回のように必要に駆られて使う場面は必ずある。その時にこうやってギルド長が嘘で納得してくれるとは限らない。
「ならいつまで隠すつもりだ?」
「最強になるまで」
だが、最強になればどうだろうか?俺の秘密を知ったとしても、俺が最強なら誰も手を出せない。
実際問題、最強になるのは難しいが、冒険者の中でトップクラスの強さを持つまでは隠し通したい。
「その覚悟があるなら了承した。次はギルドカードを出してくれ」
「分かった」
俺は言われた通りギルドカードを取り出してギルド長に渡す。ギルド長はギルドカードを持って部屋から出ていく。
しかし、その間はほんの数分ですぐに戻ってくる。
「ほれ。今日からDランクだ」
「おお…!」
帰ってきたギルドカードは紫から青色に変わっていて、ランクもDランクと書いてある。
「今回の功績だけならCランクでも妥当だが、穴を開けた攻撃が使い捨ての魔導具だったのと、冒険者歴が浅過ぎるのと、常設依頼しか受けてないからここまでしかあげられない」
「それは仕方がない」
ギルド長はその攻撃手段を明かせばそこまで時間が掛からずCランクにも上がれると言ってるようだが、魔法を使えることを明かしてまでランクを上げようとは思えない。
「次はこれっ……と!」
「ん?」
ギルド長は腰に付けている自前のマジックポーチから袋を取り出す。
「中を確認してくれ」
「ああ」
俺はその袋を開いて中を確認する。
「大金貨2枚?」
「それは全彩化のDランクの魔物を倒した金だ」
「こんなに!?」
俺はそのお金の額に驚く。これには素材料金は含まれていなく、討伐報酬だけでこの値段だ。大金貨2枚ならそこらの家を土地ごと買い取ることが可能な位のお金だ。また、パンで計算したら10万個買える。
「本来、全彩化は集団で討伐する魔物だからな。報酬も高くなる」
ちなみに、全彩化の魔物の討伐報酬はギルドでは固定で決まっているらしい。Eランクの全彩化が大金貨1枚で、そこから報酬が倍ずつ増えていくそうだ。つまり、Aランクの魔物の彩化の討伐報酬は黒貨1枚と大金貨6枚となる。
「確かに渡したからな」
「ああ」
話はこれで終わり、報酬も貰った俺はギルドから出た。その時に俺の通り道を作るかのように人が俺から避けてくれたので、朝の依頼を受けるために人に賑わっていたギルドでもスムーズに出れた。
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