第84話 ギルドで
「お、おい!そのボロボロの装備はどうしたんだ!」
「あ…ちょっと色々あって」
今の俺の装備は無いに等しい上半身はほぼ裸に近く、所々皮の装備が溶け残っている。下半身にしても股間は守れているが、ズボンには穴が何ヶ所も空いている。言われるまでそんな格好とは気が付かなかった。
マジックポーチからローブを取り出してとりあえず羽織っておいた。もう19時過ぎで完全にさすがに街中を半裸で歩くのは良くないだろう。
「もしかして、急いで門を閉めた方がいいか?!」
「いや、原因の魔物は殺ったから安心して門番してくれていいよ」
確かに赤ベアのような魔物が街近くをウロウロしているとなれば門を閉めて街の人の安全を確保する必要があるだろう。まあ、もうその必要は全く無いんだけどな。
俺達は門を抜け、ギルドへと向かう。
「あ、ギルド長」
「ん?ヌルヴィスか、それに刹那の伊吹も」
ギルドの中に入ると、珍しくギルド長が受付近くにいた。いつもは奥にいることが多いのに。
よくよく周りを見ると、酒を飲んでいる者が少なく、なんか少し緊張感が漂っている。
「ギルド長がここに居るの珍しいな」
「ああ、依頼から帰ってこない者が少し居てな。なんか胸騒ぎもするからここに居たんだ。お前達は無事でよかっ…」
ギルド長はそこまで言うと、俺の頭から足先まで何度も目線が上下と移動する。
「何だそのローブは?」
「ああ、ちょっと格好が街中ではまずいなって思ってだな」
俺はそう言いながらローブを脱ぐ。
「なっ!」
「「「え?!」」」
俺のボロボロの装備を見てギルド長だけでなく、俺とギルド長の会話を聞きながら俺達を見ていた全員が驚く。
「何があったんだ!」
「全赤化したベアと戦った」
「何だと!?」
俺の一言でギルド内が騒然となった。
「よく生きて帰ってきたな」
「ああ、かなり苦戦したぞ」
ギルド長は俺の肩に手を置いてそう言ってきた。
「討伐隊を組むぞ!」
「おお!」
「街を守るぞ!」
「いや、もう殺したぞ」
「報酬は…え?」
「「「え?」」」
ギルドで待機していた人達までやる気満々だったところ悪いが、もう赤ベアは俺が殺している。
「死体は持って帰ってきているな?」
「ああ」
ちゃんと死体は持ち帰ってきた。こんな質問されるなら隠蔽せずに持ってきてよかったな。
「なら解体場で出してくれ」
「ああ」
俺はギルド長の後を着いていき、解体場へと向かった。俺達の後を追って刹那の伊吹だけでなく、他の冒険者まで着いてきている。大勢の前でマジックポーチを使うことは嫌だが、どうせもう1週間もこの街には居ないから別にいいか。
「本当に殺ったと思うか?」
「優秀だとしても所詮まだEランクだろ?絶対無理だろ。どうせ半赤化ベアだろ」
「いや、俺は半赤化すらしてないとみた」
後ろの冒険者達はそんなことを話しているのが俺の耳にも聞こえてくる。別に認めてもらいたいという気持ちはあまりないが、舐められているようなこの言い方にはイラッとくる。ただ、そんなこと言ってるのは低ランクのごく1部なので無視しておこう。
「ギルド長、こんな大勢連れてどうしたんだ?」
「ヌルヴィスが珍しいものを持ってきたらしくてな。ヌルヴィス、出してくれ」
「ああ」
俺は言われた通り、解体場にどんっ!と赤ベアを仰向けで出す。
「ほう…」
「これはベアの全赤化か!初めて見たぞ!」
「「「………」」」
赤ベアの死体を見てギルド長は感心し、解体師は初めて見る赤化に喜んでいる。また、後ろの冒険者達は絶句している様子だ。…それと、カラゼスは腕を組んで胸を張ってドヤ顔をしている。
というか、赤ベアは死体でも存在感を放っており、見ただけで強い部類の魔物に入るとわかるな。
「こいつは魔法を使ってきたか?」
「ああ、その炎のせいで装備が溶けてぼろぼろだ」
ギルド長は俺の溶けかけの皮の装備を見てなるほどと頷いている。
「この胸の穴はどうやって開けたんだ?」
「秘密だ」
冒険者たるもの、1つ、2つの秘密は抱えているものだ。手の内を全て晒す者は少ない。どうしても言わないといけない場合は打ち合わせ通り魔導具というつもりだ。
「秘密なら仕方ないな。それでこれは売るのか?」
「これなら売れば金貨…いや、大金貨になるぞ」
「爪と毛皮は一部欲しい。それと肉も少し欲しい」
爪と毛皮は装備の素材として使えるだろう。すぐに使えるとは思えないが、彩化した魔物は珍しいので取っておきたい。また、肉は純粋に味が気になる。
「了解した。解体しておくから明後日辺りにギルドに来てくれ」
「分かった」
さすがにいつもよりも巨大かつ、珍しいものなので解体にも時間がかかるのだろう。
「ヌルヴィス、詳しい話を聞きたいのだが、今日と明日どちらがいい?」
「明日」
俺はその質問に明日と即答する。正直、今は早く休むことばかりが頭に浮かんでくる。もうヘトヘトだから宿に帰りたい。そのことをなんとなくギルド長も気付いてくれているからそんな質問をしてくれたのだろう。
「分かった。なら明日にギルドに来てくれ。今日はもう帰っていいぞ」
「ああ」
俺は刹那の伊吹に別れを告げて宿へと向かった。宿では遅かったことを心配され、夕食を作るか聞いてくれた。だが、夕食を待つ気力も食べる元気も無いので、俺はそのまま部屋に戻って気絶するかのように眠った。
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