第80話 危険を冒してでも
「熱っ!」
今までに無い動きだから警戒して咄嗟に赤ベアから離れるように飛び退いてはいた。元々、魔法についてはかなり警戒をしていたからな。だが、こうも予備動作が少なく、唐突に放ってくるとは思わなかった。また、炎のブレスの範囲も赤ベアから扇状に広がり、炎は3、4mほど先まで届いている。
そのため、完全には避けられなかった。ただ、離れられたことで火力は落ち、ほぼ全身に軽い火傷をするだけ済んだ。
「グルガアッ!!」
「あっ…」
しかし、俺はそこで油断をしてしまった。まさか、赤ベアが炎のブレスの中から向かってくるとは思っていなかった。炎のブレスの中から俺に向かって飛び出した赤ベアはスピードそのままに俺にタックルしてきた。
「うぐっ…!」
何とか大鎌を盾替わりにすることで直撃は避けたが、俺は何mも吹っ飛ばされた。
「くっ…!守れ!…」
急いで体勢を立て直そうとする俺を赤ベアは追撃しようと追ってきている。しかし、体勢を整えるには時間が足りない。このままでは俺はボールのように吹っ飛ばされて転がるのをただ繰り返してしまう。
だから俺は詠唱を始める。魔法のように警戒されたくなかったからまだ無属性魔法は使っていなかったのだが、そんなことは言ってる場合ではない。
俺が赤ベアの方に手を向けて詠唱をすると、赤ベアは警戒してスピードを落とす。
「シールド!」
詠唱が完了すると、俺の背後に4枚の半透明の板が浮かぶ。それを見て赤ベアは俺に近付くのをやめる。俺はその間に立ち上がり、体勢を整え、マジックポーチに手を突っ込む。
「んぐっ…まず…」
マジックポーチから3つの瓶に入った液体を取り出す。それを乱暴に開けると、中の液体を飲み込む。その不味さに顔を顰めるが、火傷と今吹っ飛ばされて痛めた身体が治り、魔力と闘力も回復する。
「グルッ…」
俺のその様子を赤ベアは観察していて、低く唸る。その様子に俺はもしやと思い、もう1度マジックポーチに手を入れるような動きをする。
「ガアッ!」
「マジか!」
赤ベアは俺のその動きに反応して勢いよく向かってくる。今の1回見ただけで、何かを取り出して俺が回復したと分かったのかよ。これはよっぽどの隙がない限りもう回復はできない。まあ、そこまでの隙があったら攻撃するので、もう回復はできないと考えた方がいいな。
「くっ…うっ…!」
さっきまでとは違い、広範囲の魔法を見た事で接近戦の警戒事が増えた。それにより、ただの接近戦でも俺は押され気味になってしまった。
このままただ戦ってもいずれ負けてしまう。ならどこかで危険を冒さないとダメだろう。そして、そのどこかは今しかない。
「無属性付与っ!」
俺はその1歩として、闇付与を無属性付与に変更し、接近戦で赤ベアからのブレスのような広範囲の魔法を警戒するのをやめる。接近戦のキレがイマイチになるくらいならあんな魔法を警戒しない方がいい。もし、さっきのような魔法が放たれたらそれはその時に考えろ。
「轟け!…」
赤ベアは今まで通り、俺が魔法を準備すると、離れようとする。しかし、俺は離されないために大鎌での攻撃回数を減らしてでも追う。
俺はもう絶対に赤ベアから離れないと決めたのだ。
「サンダーランス!」
「グガアッ!!」
その結果、俺の魔法はダークランス以来初めて当たる。今のところ良い結果しかないが、そんな都合よくは無い。
「っ!」
俺の頬に赤ベアの爪が掠る。掠るだけでも頬の皮と肉が持っていかれる。
今の俺の戦い方は攻撃に特化するようなものだ。つまり、防御が手薄になっている。それでも掠る程度の攻撃しか食らわないのは赤ベアの攻撃を何度も見て、動きをそれなりに分かっているからだ。それでもギリギリなので、最初からやろうとしても成立はしないだろう。
俺はこれからは短期戦にするつもりなのだ。だから付与も無属性に変更した。
初めて俺が赤ベアを押し始めてすぐだった。
「ガアグガアグル…」
「っ!」
赤ベアが何か詠唱を始めた。それと同時に赤ベアからの攻撃が止まる。俺は離れるか防御の体勢を整えるかの2択を迫られた。しかし、そのどちらを選んでも魔法は使われてしまう。赤ベアがどのような魔法を使えるか分からないので、下手に使わせたくない。
「はあっ!!」
だから俺は逃げも防御もせずに大鎌を全力で2回赤ベアの腹にX型になるよう振る。本当は首や四肢を落としたいのだが、今の俺にこの少ない時間で骨を断ち斬る程の力は無い。
だが、それでも腹には大きな傷ができる。今回の魔法を止めることはできなかったが、下手に魔法を使うと攻撃されるとは分かったはずだ。問題はこれからどんな魔法がくるかだが、後ろにまだ浮いている4枚の盾で防げるといいが…。
「…グルガァァッ!!!」
「うっ…!」
魔法を発動した赤ベアから炎が上がり、それにより発せられる熱風に俺は顔を顰める。すぐに熱風が収まり、俺は赤ベアを見上げる。
「…そうくるか」
赤ベアはまるで俺の付与魔法を使っている時の武器のように全身に炎を纏っていた。
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