第79話 苦戦
「彩化個体、しかも今回は全赤化…」
目の前の真っ赤なベアは恐らく、村で戦った半黒化ボアのように色に染まることでより強くなる突然変異の彩化をした魔物だ。
それも、今回は立っていることで見えている腹まで真っ赤なので全赤化だろう。つまり、この全赤化ベアは魔法を使う可能性が高いということだ。
「カラゼスは…私を庇って…」
「あ、兄貴…助かりました……」
どうやらカラゼスは突然現れた全赤化ベア、訳して赤ベアからエルミーを庇って重傷を負ったようだ。しかし、突然の事で完全には庇いきれず、エルミーは槍を折られ、脚に怪我をしたようだ。庇ってこれなのだから庇わず直撃していたらカラゼスのような金属の鎧を装備していない軽装なエルミーは死んでいた可能性が高い。
そして、カラゼスの傷を心配したが、意識があるようでとりあえずは良かった。
「カラゼス、良くやったな。あいつは俺が殺る。みんなはここで大人しく見ててくれ」
俺は後ろに居るカラゼス達に一瞬目線を移してそう言う。
「でも…」
「時間が無いからはっきり言うが、足でまといになる。だから目を付けられないようにただ大人しくしていてくれ」
赤ベアはこちらを観察していて動く様子は無いが、このまま立っていたらいづれは向かってくるだろう。だから話はできるだけ早く終わらせた方がいいだろう。
そのため、ナユにはオブラートに包まず失礼な言い方をしたが、刹那の伊吹で赤ベアとまともに戦えるものは居ないだろう。足を引っ張られるくらいなら戦いに参加しないでほしい。
また、本当ならこの場から逃げて欲しいのだが、怪我人が2人居る中でそれは無理だろう。仮に移動できても他の魔物に襲われる可能性がある。それなら赤ベアに恐れて魔物が来ないこの場にいてもらいたい。
「せめてバフだけでも…」
「カラゼスとエルミーの回復に専念してくれ。それに、バフを嫌ってそっちに攻撃するかもしれないから絶対にやめてくれ」
ここまで知能のいい魔物と戦うのは初めてだ。両親曰く、知能が高い魔物は何をしてくるかは分からないそうだ。それならできるだけ彼らが狙われる原因は作りたくない。
「闇付与」
俺は大鎌に闇魔法を付与する。正直、無属性魔法とどちらを付与するかはかなり悩んだ。いや、今も悩んでいる。ただ、俺がすぐに死なない限りは短期戦にはならないことは予想できるので、少しでも状態異常を引き起こせる闇魔法を付与した方が良いだろう。
「待たせたな…行くぜ!」
俺は身体強化と闇身体強化を全開にして赤ベアに向かっていく。赤ベアは待ってましたとばかりに四足歩行に体勢を変える。
「はあっ!」
俺がスピードをつけて振った大鎌は以外にも素早く横に移動した赤ベアに避けられる。四足歩行の体勢にしたのは素早さを上げるためか。
「グガァァ!!」
「うおっ…!」
避けた赤ベアは俺の振った大鎌が地面にぶつかりそうになったところで、ボアの突進のように勢いよく向かってきた。
「よっ…はあっ!」
「ガアァッ!!」
今度は俺が赤ベアの頭突きを横に避け、通り過ぎようとしている赤ベアに大鎌を振る。その大鎌は横から腕を伸ばした赤ベアの爪によって防がれる。
その後、赤ベアは突進を止めるとゆっくり振り返る。
「攻撃と防御は負け、敏捷はギリギリ勝ちっどころか」
今のやり取りで何となくではあるが、赤ベアのステータス的なものがわかった。
俺は全力で強化してもほとんどで負けているのな。普通なら勝ち目は薄いと言わざるを得ない。
(でも逃げられない)
これが1人で遭遇した時は逃げても問題は無い。しかし、ここで逃げたら俺は生き延びられるが、今は刹那の伊吹を守るために逃げられない。
俺はここで赤ベアを殺ると強く決意し、再び赤ベアに向かっていった。
「はあっ!!」
「ガアァッ!!」
俺の振る大鎌を赤ベアが爪で防ぎ、立ち上がっている赤ベアが振り下ろしてきた腕は大鎌の長い柄を使って上手く俺から逸らす。その隙に攻撃しようと1歩大きく踏み出すが、そこで赤ベアの前蹴りがやってきた。それを大鎌で防ぐと、勢いを殺しきれずに数m離される。
「はあ…はあ……」
このような攻防はもう何回も行っている。それでも、俺と赤ベアはまだお互いにかすり傷程度しかない軽傷だが、俺だけかなり消耗していた。
赤ベアは俺の攻撃を何回か食らっても余裕だろうが、防御力の低い俺は赤ベアの攻撃を食らったらそこで死ぬ可能性すらある。そのため、現時点では闇付与のおかげでかすり傷から数滴ずつ血を流している赤ベアよりも攻防中に精神をすり減らし続けている俺の方が不利だろう。
俺がこうも攻めきれないのには決定的な理由がある。
「轟け!サンダー…」
「ガアッ」
また近付いて攻防をしていた俺が詠唱を始めると、赤ベアは俺の攻撃が多少掠るのを気にせず離れる。
「…ボール!」
「ガアッ!」
途中で詠唱を中止できないので、詠唱しながら少しでも近付いて魔法を放つが、余裕を持って避けられる。
「そんなに魔法が嫌かよ」
赤ベアは必要以上に俺の魔法を警戒している。それは最初に左手に当たったダークランスが原因だと思う。赤ベアは俺が離れると、未だに血が流れている左手を時々気にする素振りをする。そんな傷を付けた魔法が頭の片隅にあるのだろう。
どうにかして高威力の魔法を当てるか、この警戒を逆手にとる手段を考えているのだが、なかなか思い浮かばない。
「ふっ!」
俺は魔法から逃げるために離れた赤ベアの横まで移動し、四足歩行の体勢の赤ベアに大鎌を振る。
「ガアグガアガアッッ!!!」
「なっ…!」
しかし、赤ベアは詠唱するように吠えてから俺の方を向き、口を大きく開ける。こんな行動は初めてなので警戒すると、赤ベアは口から炎のブレスを吐いてきた。
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