第78話 名前
「よし、ノルマ完了っと」
まだ正午を少し過ぎたくらいの時間だが、もう目標としているオーク2組、計4体を狩り終えた。ほぼ毎日狩ったせいでオークの数が少し減ったのか、最近は特にこんな早くノルマが終わることは無かった。
もちろん、この速度にはオークが早めに見つかったというのもあるが、オークを相手にするのはかなり慣れたというのもある。今なら魔法を使わずでもオーク2体なら安定して殺れる程だ。ただ、3体になるとそれは無理になるし、魔法のスキルレベルも上げたいから魔法は普通に使っている。
「今日はもう1組行くか?」
俺は昼ご飯を食べながらそう考える。この時間なら見つかるのが多少遅れようが、オークをもう1組狩るには十分な余裕がある。
「……」
しかし、そう考える俺の脳裏にちらっと、もう3日前になる特訓中に見たあのなぎ倒された木が浮かんでくる。
「何も無い、何も無いと思うけど…」
何も無いとは思っているのだが、どうしても気になってしまう。
そういえば、父さんには冒険者をするなら直感を大切にしろと言われていたな。父さんの経験上、そのようなスキルが無くても直感は働くことがあり、そのような時は大抵当たっていることが多いらしい。しかも、良い直感が当たることは比較的少ないが、悪い方の時だけは当たる確率が異様に高いそうだ。
「…見に行くか」
俺はその直感を信じて、オークを狩るのはもうやめ、鬱蒼とした林に行くことにした。午後を使って探し回っても何も無かったら、何も無いという確証が得られるから損ではないだろう。
だが、念の為魔力と闘力を回復させるポーションは飲んでおく。
「少し不自然なところはあるけど、何もいないな」
調査をすると、林の中で時々倒れている木は見つかるが、それらの木には引っ掻いたような跡もなく、焦げ臭くもない。倒れている木が多いことは気になるが、特に問題はなさそうだ。
「うん、何も無かったな」
体内時計で16時過ぎくらいになるまで探したが、何も見つからなかった。俺はその結果にある意味満足し、街へと足を進めた。
しかし、もうすぐ鬱蒼としてこの林を抜けるというところで異変が起こった。
ドンッ!!!
「何だ!?」
少し遠くで何か大きな音がした。音の方向的にはこの林を抜けた先のようだ。
ドドンッ!
「カラゼスーーー!!!!」
「っ!」
俺は聞いたことのある声の聞いたことがある名前の叫びが聞こえた瞬間に2種の強化を最大にして全力で駆け出した。
俺は刹那の伊吹のメンバーを名前で呼んだことは無かった。それは最初にあんな出会いをした彼らのことを急に名前で呼ぶのが小っ恥ずかしいと思っていた。しかし、ちゃんと名前で呼ばないといけないとは思っていたし、最初の特訓での自己紹介で名前も言われていたから名前は知っている。
カラゼス。その名は俺が直剣男と呼んでいた刹那の伊吹のメンバーで俺を兄貴と慕ってくれる男の名だ。
あまり遠くもなかったのか、俺は1分かからず声の場所に着くことができた。
「いや……」
「カラゼス死なないで!!」
「も、燃え燃え……」
「こ、この…!止まれ!」
俺の目に入ってきた光景は最悪1歩手前といったところだった。
カラゼスが鎧を砕かれ、胸に深い傷が付き、回復魔法使いこと、ルフエットがそんなカラゼスを必死に回復させている。
また、槍使いこと、エルミーはその近くで折れた槍を杖代わりに血で赤くなった足を支えて呆然と立ち、火魔法使いこと、リリラは焦りと恐怖からか詠唱が上手くできていない。また、盗賊こと、ナユは隠密も忘れて両手のナイフで必死に攻撃しているが、全く効いていない。
そして、ナユが攻撃している真っ赤に染まった普通よりも2、3回りも大きいベアが今まさに、カラゼスとカラゼスに回復魔法を使っているルフエットに大きな腕を振り下ろすところだった。
「闇れ!」
俺は真っ赤なベアが振り上げている腕にストックしていたダークランスを放つ。ダークランスはもう振り下ろし始めた腕に当たると、腕を押してカラゼスから逸れてすぐ横の地面に叩き付けられた。
ダークランスが当たったベアの腕からは血が流れ出ているが、そこまで深い傷にはなっていないように見える。
「轟け!サンダーボール!」
俺が真っ赤なベアの元に着くまでにはまだ時間がかかる。もう俺に顔を向けて注目してはいるが、まだカラゼス達に危険は大いにある。だからさらに俺に対する警戒度を上げさせるために雷魔法を詠唱して放つ。
「ガアッ」
しかし、その雷魔法は真っ赤なベアが刹那の伊吹から数mの距離を取ったことで完全に避けられる。
そんなベアの視線は俺だけに集中している。きっとダメージを与えた俺を警戒しているのだろう。痛みにただ怒らないで冷静に警戒しているのを見ると、このベアの知力はかなり高そうだ。
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