第77話 残り1週間
「この調子なら来週でDランクにランクアップするでしょう」
「お、早かったな」
オークを宿の食事出るようになってから3週間程しか経っていない。そのため、ギルド長との約束通り、2ヶ月以内の1ヶ月と少しでランクアップできる計算になるな。この3週間でレベルもさらに2上がり、レベルが20になった。
ちなみに、俺がDランクにランクアップするということは、俺がこの街に居るのも残り1週間ということになる。
「ただ、明日も含めて刹那の伊吹への特訓は後2回以上は行ってあげてください。ギルド長曰く、特訓を始めてからの伸びが凄いそうですから」
「分かった」
ちょうど明日に特訓があるので、正確に街を発つのが今日から1週間後では、明日が最後の特訓になってしまう。さすがに明日急にこれで最後というのは味気ないだろう。
話はこれで終わったので、討伐証明の4体分と昨日のオークの分の系大銀貨6枚と銀貨6枚を受け取ってギルドから出て宿に帰った。
「あと大体1週間でこの街を発つことになると思う」
「そうかっ…。そうなると、オークも出せるのももう少しか。寂しくなるが、仕方ないな」
店主に街を発つことを伝えると、店主が俯きながら悲しそうにするが、引き止めはしない。冒険者というのは根無し草だから引き止められないというのは宿屋を営むなら理解しているのだろう。それに、最近はオークを求めるの者による初日のような長蛇の列は無くなったので、タイミング的にはちょうどいいだろう。オークも普通よりは少し高価ということでずっと続けててもそのうち客足は遠のくだろう。
「あ…行っちゃうんですね…」
「ああ」
話していた内容が聞こえてきたのか、娘さんがパタパタと少し急いでやってきて俺にそう言う。この宿は他よりも少し高価なので、近い歳の者が俺しか泊まっていない。だからそんな俺が居なくなるのが少し寂しいのだろう。また、もしこの宿に俺のような若い者が宿泊してもいつかはより大きい街へと旅立つと思うしな。
「いつになるかは分からないが、死ぬ前にいつかはここに顔を出すことになると思う。その時にこの宿が潰れてないように店主の跡を継いで頑張ってくれ」
「…!は、はい!次に来た時に驚くくらい繁盛させます!」
「ああ!次に来た時も無料にしてやるぜ!」
両親に会いにいつかは帰るだろう。その時にはぜひこの宿を使わせて欲しい。
娘さんは俺の言葉を聞き、少し顔を下に向けたが、すぐに顔を上げて笑顔でそう言ってきた。
「ああ、期待している」
そこで娘さんとの会話は終わった。その日もいつものように夜ご飯のオークを楽しみ、ベッドで眠った。
「今日もよろしくお願いします!」
「「「「お願いします!」」」」
「よろしく」
そして、次の日の1週間に1度の特訓の時間となった。いつものように狩りに行く刹那の伊吹の後ろを着いていき、その戦いに評価をする。
「あ、次回で特訓は最後になると思う」
狩場に着く前に俺は大事なことを彼らに伝える。
「え!マジですか!それは悲しいです…!あっ!もし他の街で出会ったらまた教えてくれますか?!」
「俺で良かったら教えてやるぞ」
最初の出会いは最悪だったが、この1ヶ月彼らと1週間に1度会うと、彼らの良い人となりが見えてきた。もしかすると、今はこの街で1番信用しているのは刹那の息吹の面々かもしれないくらいだ。
「あと2回しかないんだから気合い入れるぞ!」
直剣男はそう言うと、飛び出しはせずに意気揚々と進んで行った。
「みんな、かなり強くなったな」
「兄貴!マジですか!」
「ああ」
お世辞でも何でもなく、彼らはかなり強くなっている。もちろん、それはステータス面もあるが、何よりもコンビネーションが上手くなった。今では言葉を交わすことなく、魔法のタイミングを察知して前衛が魔法を放ちやすいように動けている。
現に、彼らは俺と同じEランクにもうなっていて、少しの群れならビックウルフやビックボアをものともしない。そのため、彼らは俺の指名依頼の現場の林の手前で狩りをしている。鬱蒼としている林を抜けてはいないので、あんな大量の魔物は現れないが、それなりにDランクの魔物は現れる。
今の俺が彼らと魔法無しで戦ったら負けはしないつもりだが、苦戦することは間違いない。
「ただ…」
しかし、そうなると、今度は個人技で気になるところで出てくるので、そこを指摘する。パーティとして纏まったのなら、今度はそれぞれが強くならないといけない。
その後も同じように魔物を倒す彼らを俺は後ろで見ていた。
「ん?ちょっと待て」
そんな彼らのことを後ろで見て小言を言うだけで終わる予定だったのだが、少し不穏なものを見つけてしまった。
「どうかした?」
「これを見ろ」
探索担当である盗賊の子が疑問を浮かべているが、俺はそれを無視して少し遠くのある場所に指を差す。俺が指を差したところは鬱蒼とした林の少し奥で、そこでは木が不自然に倒れている。
周りを警戒しながら俺達はその木に近付いていく。その倒れた木には爪で引っ掻いたような跡もある。ただ、ほぼ木を切断するような深い跡なので、爪痕とは呼べず、魔物の仕業かどうか判定するには至らない。
「風かおっちょこちょいの魔物がぶつかったのでしょうか?」
「そうだといいが…」
この鬱蒼とした林から魔物が抜け出すことはそれなりにある。だからこそ、林の手前はDランクの魔物がそこそこ集まっているのだ。
しかし、どこか黒く変色して倒れているその木に疑問を覚えた。その変色部分は心做しかほんの少し焦げ臭い気もする。
だが、それ以外に痕跡は見つからないので、それからも警戒レベルは上げはしたが、普通に魔物を狩っていった。
「「「「「ありがとうございました!」」」」」
「ああ、おつかれ」
結局、その日も特に何も問題が起こることなく、特訓は終了し、街に帰ってきた。
あれ以降何も無かったので、俺が気にし過ぎなだけでただの取り越し苦労かと思った。
しかし、俺の意思とは裏腹に直感が正しかったということはすぐに分からされてしまう。
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