第76話 オークの味

「お…おお??」


街に戻ってからはギルドに魔法を使わずに殺した2体のオークを売った。また、食用にはならないが、様々なポーションなどの調合の材料になり、割と高価な睾丸は解体したやつも含めて売った。睾丸には魔法を当ててないから大丈夫だろう。

ちなみに、この前のオーク1体で大銀貨2枚だった。依頼料よりも高いのは魔法による損傷がなく、ほぼ全てを食用としても使えるかららしい。


そして、その後はすぐに宿へ帰ったんだが、様子がいつもと違っていた。



「人がたむろってる?いや…並んでる?」


宿の前には人だかりができていた。しかし、よく見てみるとその人だかりは綺麗に整列している。それを横目に俺は宿へと歩く。


「おい、坊主!どこに行くんだ!ちゃんと並ばないとダメだろ?」


「ん?」


人の列の横を歩いて宿に向かうと、そんな声をかけられた。その声をかけたのはそれなりに熟練そうな冒険者っぽい装備の男でいちゃもんをつけたというよりも、注意したように感じる。


「あっ!待ってましたよ!皆さん、この方は元からこの宿に泊まっている方です!」


俺が口を開く前に列整備?をしていた娘さんがその男にそう言う。


「なんだ!そうだったんか!それは良かったな!もう宿は全部埋まったのに、幸運だったな!」


「あ、うん?」



俺はその男の言っている意味がよく分からず、首を傾げたが、とりあえず頷いておいた。


「待ってたよ!早く来て!」


「なんだなんだ?」


俺は娘さんに手を引かれて宿に足早に案内される。


「お父さん!来たよ!」


「おっ!来たか!待ってたぞ!」


「え?」


厨房では娘さんの両親が慌ただしく動いていた。娘さんの言葉にも目線を向けずに返事をしているから本当に忙しいのだろう。


「帰ってきてそうそうで悪いが、今日もオークは狩ってきたか?」


「解体済みのやつが2体分あるぞ」


「す、凄いな!オーク1体を大銀貨1枚、今回は2体分で大銀貨2枚で売ってくれ!あ、この前の3食の約束は果たすし、この街にいる限り宿代は無料でいいが、その代わり次からも狩れたら同じ値段で売ってくれ!」


「……」


ここで俺は少し考えた。魔物をギルドに売らなければいけないというルールはないから売るのは問題ないが、ギルドに売った方が高くはなる。とはいえ、魔法の損傷があるのはギルドに売りたくはない。


そして、宿屋に半額に近い大銀貨1枚で売ると、3食オークのご飯がつき、宿代もかからない。それと、睾丸はギルドに売ることになる。睾丸1つで銀貨数枚分になるらしい。だから金額的に損をするのは1体当たり銀貨数枚だ。



「分かった。いいぞ。オークはどこに持っていけばいい?」


「こっちだよ!着いてきな!」


俺が了承する結論を出すと、早速奥さんに案内されて貯蔵室のような場所に連れられた。そこで2体分のオークを言われるがままに置いていく。


「これが約束の大銀貨2枚だ」


「確かに」


こんなにぽんと大銀貨2枚が出てくるのを見るに、この宿はそれなりには儲かっているようだ。

これで用事は済んだので、食事の時間の18時まで待つために部屋に戻ろうとしたが、引き止められてカウンターに座らされた。


「へい、お待ち!オーク定食だ!」


「え!俺だけもういいのか!?」


出てきたのはオークの肉の分厚いステーキとオークの肉が大量に入ったスープと黒パンだった。


「並んでいるのを見たから分かると思うが、18時からは忙しくなるから先に食べていいぜ。狩ってきた者を待たせる訳にはいかないからな!」


この食堂部分は一般開放をしている。それが開店の18時から押し推せるから16時過ぎでまだ早くはあるが、先に提供してくれるらしい。

ちなみに、この宿に泊まっている人は好きな時間に食堂へ来ても席を用意して座らせてくれるらしい。ただ、混み具合で料理の提供が遅れる場合もあるそうだ。

また、並んでいた者はオークを食べるために並んでいるらしい。強者だと、オークを食べるために急いで宿をここに変えた者もいるそうだ。だから宿の部屋が全て埋まったのか。


他の街のことは詳しく知らないが、この街ではオークは討伐数が少ないので、売られる数も少ない。わざわざ、安くなってまで料理人に直接売るものはほぼ居ないので、本来はギルドに売られ、ギルドから高級料理屋や領主の元へ売られるため、一般ではほとんど食べれないらしい。そのため、大行列になっているそうだ。


「いただきます!」


俺だけ先に食べるのもほんの少し悪い気がするが、俺が狩ったのだからいいだろう。俺のように先に食べたいならそいつらが狩ってくればいいだけだ。



はぐっ!


俺は分厚いステーキにフォークを突き刺し、口を大きく開いてかぶりついた。


「やはらか!」


俺はステーキを噛んでびっくりした。思いっきり噛んで噛み切るつもりだったのだが、思っていたよりも柔らかくてすっと簡単に噛み切れたのだ。また柔らかいとは言っても、しっかりと噛んで食感を味わえる位の柔らかさだ。

さらに、噛めば噛むほどに肉汁が溢れ出てくる。その肉汁からはより強い肉の美味しい味がする。



ずずずっーー…


「うまっ!」


次にスープを飲んだが、スープにもオークの肉の旨味が溶けている。スープに入っている肉はごろごろとしていて大きいが、ステーキとは部位が違うのか、ステーキよりも柔らかい。それが形の残っている野菜とよく合う。さらに、そのスープに硬い黒パンをつけるとパンにスープの濃い味が染み込んで美味い。


「おかわりも好きなだけいいぞ」


「ありがとう!」


結局、俺はステーキ2枚とスープを1杯、黒パンを2個おかわりした。

それから部屋に戻ってゆっくりしていたが、18時を過ぎると下が騒がしくなった。また、時々美味い!などの叫び声も耳に入ってきた。

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