第74話 オフの1日
「さて、オークをどう料理するか」
俺はオフとなった日の昼前、宿の部屋でそんなことを考えていた。
「どうせなら美味しく料理したい。でも、俺にそんな技術は無いし、何ならちゃんとした調理器具すらもない」
一応野宿用にフライパンみたいなのと、味付け用の香辛料はある。だが、俺は母さんと違って調理スキルを取得していないし、ちゃんとした設備もない。だから俺はただ焼いて香辛料をかける程度しかできない。オークの肉ならそれでも美味しいだろうが、できるならもっと美味しく食べたい。
コンコン!
「どうぞ」
「失礼しまーす」
なんて事を真剣に考えていると、部屋にノックをされた。返事をすると、扉からこの宿の看板娘である、店主の娘がやってきた。ほぼ毎日生活魔法をかけてくれるのもこの娘さんだ。年は俺よりも少し上くらいだ。とは言っても、まだ20歳にはなっていないだろう。
「今日もオフなんですね」
「うん、武器をメンテナンスに出しててね」
最近オフが多かったので、そんなことを言われる。まあ、普通の冒険者は週の半分ほどオフのくらいだから俺はそれでも働いているくらいだ。
「険しい表情をしていましたが、どうしたんですか?」
娘さんはそう質問してきた。この街に来てからずっとこの宿に泊まっているからそれなりに親しくなっている。とは言っても、普段から積極的に話すような間柄では無いけど。
「オークの肉を手に入れたけど、どうすれば美味しく食べられるかって考えてな」
「え!?オークの肉ですか!もしかして、自分達で殺って手に入れたんですか!?」
俺はそれに頷くとキラキラとした目で娘は見つめてくる。まあ、この街でオークを安定して狩れるパーティは多くない。だからオークが狩れるパーティはこの街ではかなり上の方の強さのパーティということだ。まあ、そもそもマジックポーチ無しにあんな巨体を持ち帰れる者がほぼ居ないだけかもしれないけど。
そのため、オークはこの街では流通していない。もっと都会になると、その程度のパーティはごろごろ居るだろう。
ちなみに、俺がソロで冒険者をしているとは話していない。わざわざ話す必要も無いだろう。
「もし、良かったらお父さんとお母さんに調理してもらいますか?料理の持ち込みで、その素材の1部を渡せば無料で調理してくれますよ」
「ほんとか!頼んでくる!」
俺は部屋の掃除をする娘さんを置いて、下の食堂に向かう。
「店主!肉を持ち込んで、その1部を渡せば調理してくれるってのは本当か?」
「ああ、本当だぜ」
娘さんに聞いたことを一応確認すると、確かに本当だそうだ。
「オークの肉を定期的にタダで大量に渡すから、数ヶ月間、俺の昼飯の弁当を作って、夜ご飯の肉もオーク肉にしてくれ」
「オークだと!?それも定期的にだと!?それが本当なら軽くでいいなら朝飯も付けてやる」
やはり、この辺だとオーク肉はそれなりの高級肉扱いなのだろう。店主は俺が提案した昼ご飯だけでなく、朝飯も付けてくれるそうだ。
実際にほぼ1体のオークを渡すと、店主は笑顔で朝飯まで付けてくれることになった。しかも、オークの中で一番美味い部位も俺に調理してくれるらしい。どこ部位が1番美味しいかは分からないが、楽しみだ。
オークの肉の美味しい調理法を探すためにオーク肉が出てくるのは明日の夜からになるそうだが、楽しみだ。それでも、明日からは朝飯と昼ご飯の弁当はくれるそうだ。
その後は部屋でのんびり過ごし、夕方になったので、大鎌を取りに研師の元へ向かった。
「何をどれだけ斬ったらこんなに刃を消耗するんだ」
「大量魔物と最近はオークを少々」
店に入り、俺の顔を見た瞬間に研師はそう愚痴を言う。それに俺は素直に答える。
「酷使はさせているが、武器を粗末に荒く使っては無いようだから研いでおいたぞ。ただ、次からはもっと早くに研がせてやれ。そうすればまだこの武器を使ってやれるぞ」
「あ、ありがとうございます」
そう言われながら渡された大鎌は持ち手まで黒光りして、美しい光沢を放っている。刃を見ると、その輝きは持ち手よりも更に増している。刃の部分も黒なのに、俺の顔が反射して写っているくらいだ。もしかすると、この武器をルイ父さんに貰った瞬間よりも輝いているかもしれない。
「さて、いくらだ?」
「大銀貨2枚だ」
昨日のオークの討伐報酬が全て出て行った。普通の店だったらこの値段に文句もできるかもしれないが、この出来栄えを見たあとだとそれでも安くすら感じる。
「…この街にいる間は2週間に1回は持ってこい。それくらいなら銀貨1枚でやれる範囲内だ」
「ああ、分かった。ありがとう」
俺はそう言って店を出た。次回からの値段的にも本当に今回はこの大鎌を研ぐのは大変だったようだな。確かに、解体用のナイフと比べてもそもそも大きさ自体違うもんな。
早速生まれ変わったこの大鎌を試したい気持ちはあるが、もう日が暮れるので今日は我慢だ。明日のオークで試すのを楽しみにしよう。
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