第70話 悪目立ち

「あ、血を落とさないと」


やっと林を抜けるというところで木と身体が擦れてベチャッという音が鳴った。そのおかげで前と同じように血だらけだということに気が付いた。


「あー…でもどうしようか…」


狩りを終えたのは夕方だったが、鬱蒼とした林を抜けている間にもう日が暮れた。確か、街の門が締まるのは21時の鐘の音で、今は体内時計だと18時過ぎだからまだ時間はある。しかし、早めに帰るに越したことはない。

それに、夜の小川で身体を洗うのは少し怖い。なぜなら、暗闇から突然魔物が襲ってきてもおかしくない中で、無防備にするのは危険だからだ。



「軽く拭くだけにするか」


古い布とかはマジックポーチの中に入っている。それで身体を吹けば血が滴ることは無いだろう。



「お、今日は遅かったな」


「ああ、ちょっと調子が良かったから長くやったんだ」


「そうか、おつかれ」


灯りのつく魔導具があるので、真っ暗では無いが、昼間ほど明るくは無い。そのため、門番に俺の返り血には気付かれなかった。それは街に歩いている者も一緒だったようで、この前のように避けられるようなことはなく、ギルドに着くことができた。



「ガハハハッ!!」


夜のギルドの中は依頼を終えて酒を飲んでいる人達で溢れているのか、外まで笑い声が聞こえてくるほどだ。そういえば、日がちゃんと落ちてからギルドに入ったのは初めてだな。



「うおおっ!?!」

「あ?うおっ!?」

「はびゃっ!?」


この喧騒なら多少血に汚れていても問題ないと思っていたが、最初に俺に気付いた者が大声を上げた。それに釣られて近くにいた者も俺を見て大声を上げる。それがどんどん連鎖して広がることでほぼ全員の注目を浴びてしまった。さっきまでの喧騒が嘘のように静まり返った。

静まり返った中からボソボソと何か話している声が聞こえるが、赤とか鬼とかの単語が少し聞こえるだけで言っているかまでは聞き取れない。


「あ、兄貴…なのか?」


「ん?あっ、居たんだな。依頼終わりの飯か?」


入口の近いところに刹那の息吹が集まって食事を取っていた。宿屋に食事が着くところの方が珍しいので、ここで夕食を食べているのだろう。


「そ、その血はどうしたんですか!怪我をしたんですか!?」


「これは全部返り血だから気にするな。あ、今日の分のご飯は奢るから魔法使いの2人はウォッシュで綺麗にしてくれない?」


「「は、はい!」」


怪我はしたが、それはもう回復ポーションで治っているから今は無傷だ。

また、俺の頼みで魔法使い2人は少しオドオドとしながらも何回か生活魔法を使うことで俺の血を全て綺麗にしてくれた。



「ありがとな」


「急に静かになったと思ったらまたヌルヴィスか」


俺が2人に礼を言うと、ちょうどタイミングよく後ろからギルド長がやってきた。

まあ、足音は聞こえていたし、何ならチラッと後ろを確認してたから誰がきているのかは知ってたけど。


「また血まみれだったってことは初日くらい大変だったのか?」


「似たような場所を見つけたから大変だったよ」


確かに初日以降は多少の返り血はあるが、ここまで真っ赤になることは無かったな。確かに今日は初日と同じくらいには大変だったな。


「ちょっと裏まで着いてこい」


「あ、話が終わったらお金を払い来るからそれまでは食べ終わってもここに居てね」


俺はちゃんと約束のお金を払うのを忘れないように約束してからギルド長に案内された。と言っても、案内されたのはいつも寄っている解体場だった。



「手ぶらで血だらけだったやつが1人で解体場に向かったら目立つだろ」


「あっ」


ギルド長からの気遣いがあったようだ。ギルド長がマジックポーチを使っていいと言ったので何も考えず使っていたが、とはいえあまり悪目立ちするのは駄目か。…いや、それも今更か。一人真っ赤でギルドに入った時点で悪目立ちはしていたか。


「今日の分はこれですね」


「…殺ったのはこれで全部じゃないんだから凄いな。新人が1人で狩る量じゃないぞ」


さすがに約100体の魔物を1度に出すとギルド長も呆れていたようだ。まあ、今回も半分は魔法による傷もあるから置いてきた。



「それで魔物の数はどうだ?」


「今日の終わりには追加が現れなくなったから今日でほとんど居なくなったかも」


もちろん、森の奥に行けばいるが、あの鬱蒼とした林に近い場所にはもう魔物がほぼ居ない気がする。


「なら明日で指名依頼は終わりになるかもな。これは良かったらでいいんだが、指名依頼が終わったとしても1、2週間に1度そこを見に行ってくれないか?」


「構わないよ」


別にそのくらいの頻度で様子を見に行くくらいなら構わない。特訓よりも遅いペースだし、気が向いた時に適当に行けばいいから楽だ。


「よろしく頼むな」


「ああ」


これでギルド長とは別れた。ギルド長はまだ仕事があるらしい。大変だね。

その後は刹那の息吹達の元へ行き、少し多めに銀貨数枚を渡したが、そこで一緒に食事を勧められた。少し悩み、宿の食事もあるが、久しぶりに誰かとご飯を食べるのも良いかと思ったので一緒に食べることにした。久しぶりに誰かと食べるご飯はいつもよりも美味しく感じた。

夕食後は刹那の息吹と別れ、1人で宿に戻った。その頃には宿の食事の時間は終わっていたので、大人しく部屋に戻って疲れを癒すためにすぐ寝た。


そして、次の日の狩りではやはり魔物の数は激減しており、13体しか魔物を狩れなかった。そのため、指名依頼はこれで終わりとなった。

そのため、次からはCランクを狩りに行こう。

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