第68話 見本

「見本を見せるか…」


もうこうなったら見本を見せないと分からないだろう。今日は戦う気はなかったんだけどな。


「次に現れた魔物は俺が前衛2人の代わりに戦う。それを見てどうやっているかを前衛2人は観察してくれ。あ、盗賊の子は俺と一緒に前衛に混ざってくれ。君は少し余裕があるから俺の動きを見て俺と同じように動いてくれ。それから、俺のことは気にせず魔物に攻撃できそうなら好きに攻撃してくれ」


「…いいの?」


「ああ」


盗賊の子は常に魔物に攻撃し続けている訳では無いので、他の前衛2人よりは余裕があるから俺の動きを真似るくらいできるだろう。

そして、盗賊の子は前衛2人に遠慮してあまり攻撃ができていないことが多いからそれもついでに解消しよう。このくらいの魔物相手なら影を薄くしている盗賊の子を意識しながら戦うことくらいはできる。



「ちょうどよくウルフが居たな」


それからすぐにウルフの群れと遭遇した。数は5体で群れの規模もちょうど良い。


「じゃあ、魔法の詠唱を始めてくれ。じゃあ、行くよ」


「わかった」


俺は魔法の詠唱を頼み、盗賊の子とウルフ達へと駆け出す。


「よっ…」


俺はウルフを一撃で殺さないように手加減しながら大鎌を振る。俺が殺してしまったら特訓にならない。


(盗賊の子は動きがいいな)


自由に攻撃をしている盗賊の子は前衛2人と遜色がないくらいには攻撃できている。これなら俺はサポートに徹しよう。

盗賊の子に攻撃しようとしているウルフに攻撃したり、盗賊の子が攻撃しているウルフにチクッと攻撃することで弱らせる。


「詠唱が終わりました!」


その合図で俺はウルフの真正面から素早く横にズレる。魔力操作がそこまで得意ではなさそうだから大きめにズレた。それを見て、すこしおくれはしたものの、盗賊の子も横に移動する。


「ファイアボール!」


魔法を放ちたい真正面に誰も居なくなったので、魔法使いは魔法を放つ。

俺達はその間に横から回り込むように魔法使いとウルフを挟み込む形に移動する。


「「ギャンッ!」」


今の魔法で2体が大ダメージを受けて、盗賊の子によって瀕死だった2体にトドメをさした。

残りの1体と瀕死のトドメは盗賊の子がやった。



「さて、解体するぞ」


全てを殺し終えたので、俺と魔法使い達で解体をする。解体だけ前衛2人にやらせるのも悪いからな。


「ねえ」


「ん?」


解体を黙々とやっていき、3体目に突入すると、盗賊の子が話しかけてきた。



「あんなに動きやすかったのは初めてだった。私とパーティを組んでくれない?」


「おいおい…」


急に変な誘いをされてしまった。まあ、冒険者はパーティがころころと代わるのはよくあることだ。だが、特訓中にそんな話になるとは思わなかった。


「別に盗賊がサポートに徹する必要も無いか…。今日、動きやすかったんなら前衛の2人に自分が動きやすいように頼めばいい。別に俺とじゃなくても、それこそ特訓を重ねたらもっと動きやすくなる事はできる」


恐らく、今回動きやすかったのは俺がサポートに徹したからだ。盗賊という職業はどちらかと言うとサポート向きだが、性格的にはサポートではなく、メインをやりたい感じなのだろう。まあ、別に職業が盗賊でもメインの攻撃をやってもいいだろう。盗賊はサポートをしなければならないという決まりもないし、冒険者は自由が魅力なんだから自由にやればいい。


まあ、もし仮に俺と盗賊の子がパーティを組んだとしたら、その時は力関係的に俺がメインで盗賊の子がサポートになるだろう。そうすると、盗賊の子はなんか違うと思うはずだ。

自分に合う者を探してパーティを組むよりも、子供の時から一緒にいる仲間のパーティを自分に合うようにした方がいいと思う。まあ、火力的には前衛とほぼ変わらないから問題ないだろう。


「あ、そっか。さっきの言葉は取り消す」


「ああ」


俺が4体のウルフの解体が終わっても、魔法使い達が2人がかりで行っている解体が終わらなかったので少し待つ時間ができた。まあ、普段刃物を持たない者の解体初日だから仕方ない。



「とりあえず、これで何となく射線の開け方はわかっただろう。完全に俺の真似をする必要は無いが、魔法使いと魔物までの直線を素早く開けるようにしてくれ」


「はい!」

「はい」


前衛2人はそれからは頑張って射線を開けるような動きをしていた。まだかなりぎこちないが、それでもやろうとしているのでこれから上達もするだろう。



「街に着いた!今日は疲れたー!」


その日は前衛と盗賊の子の闘力と瀕死魔法使いの魔力と回復魔法使いの荷物の限界が来たので夕方前に狩りを終えて街に帰った。街に着くと、ひとまず安心したのか、剣士がそう声をあげる。



「あ、今日の報酬の何割を渡せばいいんでしょうか?」


ギルドに向かいながら街を歩いていると、回復魔法使いの子がそう話してきた。


「いや、いらないよ。俺が殺った魔物も居ないし、素材を持ってもないし」


一応攻撃はしたが、トドメは刺していない。また、重そうに持っている回復魔法使いの手伝いもしていない。それにお金に困っていないのにわざわざEランクの依頼の報酬を貰おうとは思わない。



「一応ギルドまでは一緒に行くけど、そこでもう解散だ。報酬は君達のやり方でいつも通り分けてくれ」


「ありがとうございます」


そんな会話をしていると、ギルドにすぐ到着した。



「じゃあ、今日はおつかれ。また1週間後に」


「「「「「ありがとうございました!」」」」」


ギルドまで送ると、宣言通りそこで解散となった。

最初はどうなるかと思ったが、何とか教えられただろうか?

しかし、最初反発していた槍士の子も素直に言うことを聞いてくれたから助かった。出会い方は良いとは言えないが、普通にいい人達だと思う。まだ完全に信用した訳では無いが、もし彼らに何かあったら助けてあげたいとは思える。

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