第65話 指名依頼

バシャバシャバシャッ!


「うーん…こんなもんか?」


魔力と闘力が回復してから鬱蒼とした木々を抜けた俺は小川で身体と装備に水をかけて軽く洗っていた。ただ、魔物も水を飲むため、水辺には魔物が集まりやすい。だから本当に短時間で最低限しか血を落としていない。宿に帰れば生活魔法で身体は綺麗にしてもらえるからな。


「これで少しはマシになったよね?」


途中から魔物の数によって余裕がなくなった俺は返り血を避けることをしなくなった。すると、俺の全身は血がぽたぽたと垂れるほど血まみれになっていた。それに気が付いたのは木の隙間を通った時に木にベッタリと血がついた時だ。

ちなみに、その血は返り血だけでなく、比率的にはかなり少ないが、俺の血も混ざっている。さすがにかなりの数がいたので何発かはいい攻撃を貰っている。その怪我は既にポーションで綺麗に治している。

一応魔力ポーション、闘力ポーション、回復ポーションなどは一通り持っている。まあ、これらは元からマジックポーチに入っていた父さん達からのお下がりのようなものだけど。


「お、やっと街か」


まだ昼を過ぎた程度の時間だが、今日の狩りが忙しく過ぎたため、もうヘトヘトだ。だからか、街が見えると、少し気が休まった。


「お、おい!大丈夫か!何かあったのか!?」


「え?」


いつものようにギルドカードを出して街に入ろうとしたが、門番に止められた。と言うよりも、心配された?


「あ、これは全部返り血なので気にしないでください」


「あ、そう…なのか…?」


門番は少し困惑していたが、俺を街に通してくれた。



「…もっと洗えばよかったかも」


街に居る人が俺を見ると距離を取って避けている。まあ、大鎌を持って血まみれの奴がいたら避けたくもなるよな。

ただ、地面に血が滴ることは無いので許してほしい。

俺は少し居心地の悪い思いをしながら冒険者ギルドに一直線で向かい、目線から逃げるようにギルドの中に入る。


「キャアッ!」


「……」


ギルドに入ると、真っ先に若い受付の女の人の悲鳴を受けた。その悲鳴で昼間から飲んでた者も武器を手に取って入口を見る。


(どうしようか…)


別に普通に受付に言って事情を説明すればいいのだが、今下手に行動をすると、警戒している酔っ払いに攻撃されてしまうかもしれない。さすがに今の俺が攻撃されて、100%相手が悪いとやり返せる精神は持ち合わせていない。


「おい、どうした」


ちょうど、その時受付の悲鳴を聞いてか、ギルド長がやってきた。そして、全員の視線の先にいる俺の方を向いた。



「…ヌルヴィスか?」


「ああ…」


ギルド長も俺を見て一瞬武器を手に取って警戒しようとする素振りを見せたが、すぐに俺だと気付いてくれた。

後から聞いたが、この時の俺の顔は乾いた血が固まって肌が赤く見えていたらしい。


「何でそんなに血まみれなんだ?」


「……返り血を避ける余裕がなかった」


「ははははっ!!」


俺が言いづらそうにそう言うと、ギルド長は大声で笑った。


「さすがのヌルヴィスも余裕がなかったか!特に怪我は無いんだな?」


「ああ」


「なら、解体場に案内してやる。着いてこい」


ギルド長は俺に地図をくれた受付の人を1人連れて俺の前を歩いていく。俺はそれに着いていくが、その間もかなりの人の注目を浴びた。



「ウォッシュ、ウォッシュ」


俺は歩きながら受付の人から生活魔法をしてもらい、身体を綺麗にした。ただ、あまりに血が付きすぎていたのか、2回もしてもらった。


「ここが解体場だ」


「おお!」


解体場の大きさは訓練所とほぼ変わらないくらいで、大きな魔物を持ち込まれても大丈夫なように普通の建物何軒分の広さがある。


「ここに今日狩った魔物を出してくれ」


「わかった」


俺は今日、最初の方の回収できた魔物を全て出した。最初の方のため魔法による傷などは無い。


「……なるほど、この数ならヌルヴィスの強さでも返り血を浴びるな」


俺が出した魔物は合計で40体弱ほどになっていた。


「まさか、あの場所にこんなに魔物が潜んでいるとは思ってなかったな。」


「ん?いや、持って帰れたのは1部だけだ」


「…何?」


ギルド長が詳しく話せとの事だったので、はい出てすぐ魔物がいて、それからひっきりなしに魔物がやってきたこと。そして、そのペースが早かったから狩った魔物を置いて帰ってきたことを話した。

最終的に魔物の数ならば100体以上を倒し、レベルも1上がった。


「そんなに居るとは思っていなかった…」


狭い場所に魔物が沢山いるのが問題で、もっと増え続ければ最終的に縄張り争いに負けた魔物があの鬱蒼とした林を抜けることが多くなるらしい。そうすると、道を通る人や馬車が襲われてしまう。



「明日に正式な指名依頼として出すが、魔物の数が減るのが確認できるまであの場所で狩りを続けてほしい」


「分かった」


ぶっちゃけ、俺よりも強いパーティは何個もある。だが、あの狭い場所を身軽に抜けられる者だけのパーティはほぼ居ないらしい。また、パーティでもしピンチに陥った時に全員で逃げきるのは難しい。だから、1度でかなりの数を狩って帰ってきた実績のある俺に頼むらしい。まあ、これ以上の問題が発覚した場合にはそんなこと言わずに多数のパーティに依頼を出すそうだ。



「しばらくはその上の魔物を狩りにいけないが、許してくれ」


「元から当分はそこで狩りをするつもりだったから問題ない」


ギルド長の言いたいのはCランクを殺りに行けないことだろうが、それは無用な心配だ。

今日で俺の問題点が明らかになった。それはスタミナが少ないことだ。今日は2時間も戦っていないのに限界になった。もっと魔力と闘力と体力を上手く効率よく使えるようにならないとダメだ。それを磨く点ではあの魔物ラッシュは良い機会だ。



「今日の報酬と依頼については明日にしてもいいか?」


「問題ない」


さすがに魔物の数が多く、解体もしていないので今すぐには査定できないらしい。だから明日になるそうだ。

俺はお金に困っている訳でもないし、ぶっちゃけ今日は疲れているので明日の方が助かる。

俺はそこでギルド長と別れてギルドから出た。出る時にはさっき俺を見ていた人達に再び注目された。もう綺麗になったはずだよな?


今日、この日イスブルクの冒険者ギルドには「大量の返り血を浴びた大鎌を背負う赤鬼」が出るという噂が生まれたが、それを俺は知る由もなかった。

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