第64話 大量発生の恐ろしさ

「斬れ!スラッシュ!」


俺は真っ先にビックウルフの方に無属性魔法の斬撃を放つ。それによって、1体が即死、もう1体が避け損ねて重傷を負った。

ちなみに、俺は制限を1段階解除した。つまり、魔力を消費する魔法以外は使うつもりだ。ただ、死体を売りたい関係上、ストックしている闇魔法は使わないつもりだ。


「ビックウルフのヘイトは俺になったか」


ヘイトというのは簡単に言うと、敵からの注目、優先して狙われて攻撃される対象のようなものだ。

それがさっきまではどちらかと言うとボアに向いていたが、ビックウルフの仲間を最初に殺したことで強いヘイトが俺に向いた。

このヘイトは主にパーティで活動する時に重要になるが、三つ巴のこの場においては俺にも重要になるな。


「守れ!シールド!」


さすがに10体程のビックウルフに囲まれたらさすがに余裕を持つのは無理だ。だから4枚のシールドで俺が囲みから抜けられる時間を稼いでもらう。


「はあっ!やあっ!」


向かってくるビックウルフをできるだけ囲まれないように動きながらどんどん斬り付けていく。もう首を狙う余裕は無いので、もうとりあえず近いビックウルフを片っ端から斬る。


「「「ブヒィィィ!!!」」」


「よっ!」


ビックウルフを6、7体斬ったところで十分な助走を取ったビックボアが一斉に突進してきた。俺は残っている2枚の盾の1枚を使って空中に高く飛ぶ。


「「「キャンッッ!!」」」


俺に集中していたため、ビックボアから意識がそれていたビックウルフは突進を避けられず、残っていたほぼ全てのビックウルフが突進の餌食になった。


「雷身体強化っ!」


俺は身体属性強化を変更し、最後の盾を蹴って突進が終わって止まったビックボアの中心に降り立つ。


「斬れ!スラッシュ!!」


そこで密集していたビックボアを2体殺す。それから間髪入れずにビックボアに斬りかかる。また、突進をしようとグッと体勢を低くして止まったビックボアは急所などは気にせず優先的に攻撃する。



「はあ…はあ…」


地面に降りてから5分経たずに立っている魔物は居なくなった。ただ、重傷で動けない魔物達は合計で10弱ほど居る。

それにしても、こんなに魔物相手で苦戦というか、焦りを覚えたのはあの半黒化ビックボア以来だ。

現に、俺の身体には軽い引っ掻き傷などはそれなりの数がある。ビックウルフの避けられる攻撃には盾を使わなかったのと、ビックボアの密集地で暴れた時に牙にやられたのが原因だろう。


「ふっ!」


数十秒休憩してから倒れて瀕死となっている魔物達にトドメを指して回った。



「さすがにこれがそのまま全部マジックポーチには……入ったな」


解体もせずに全ての死体がマジックポーチの中に入った。


「かなり容量多くない?」


父さん達が現役に使っていたというマジックポーチを甘く見ていた。魔物はランクが上になるほど大きくなるので、そんな魔物でも持って帰れるように大きいのだろう。



「おいおい…ちょっと待てよ」


血の匂いに誘われたのか、すぐにゴブリンとボブゴブリンが30体以上の現れた。ただ、その中にボブゴブリンが5体程度なのは助かった。


ぐられ!」


素材が売れないゴブリンらには遠慮なくストックしている広範囲の闇魔法を放った。すると、半分以上が一気に死体となった。


「はあっ!」


一瞬で半分以上が死んで混乱しているゴブリンらに俺は向かっていった。


「え!?ビックウルフ!?また?!」


ゴブリンを倒してからもほぼ途切れることなく魔物がじゃんじゃんやって来た。そのため、休憩無しで俺は戦うことになった。途中から魔物を狩るペースに魔物の追加ペースが負けてきて、魔物が多くなってきたので普通に魔法を使い始めた。



「はあ…はあ……」


俺は行きで通ってきた狭い道の中に入って木に寄りかかった。


結局2時間以下しかあの広場に居なかった気がする。だが、それだけでも魔力と闘力がほぼ空になった。途中の魔法を使い始めてからの魔物は手を付けずに置いてきた。

まだ魔物が止まる気配はなかったが、戦っているのに、さらに追加で2種の魔物がほぼ同時に現れたのを見て、俺は逃げるようにその広場を後にした。入った瞬間でこれとは、大量発生エリアを甘く見ていたな。


「休憩してから帰ろ…」


流石に今の魔力と闘力の少なさには不安が残る。だからせめて1/4くらいまで回復するまで休んで、それから家に帰ろう。

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