第63話 ランクアップ

「ヌルヴィスさん、こちらです」


「ああ」


次の日、ギルドに入り、とりあえず今日の依頼ボードを見ていると、30歳以上のように見えるベテランそうなギルド職員に呼ばれて受付に向かった。

まだ朝の早い6時過ぎという人が少ない時間だからあまり目立っていないが、これが人が多かったら悪目立ちは必須だな。



「ギルドカードを出してください」


「分かった」


俺はFランク、物理職、名前だけが書かれているギルドカードを受付に出した。

そのギルドカードを受付が持つと、受付は後ろを向く。受付の背中ではっきりとは見えないが、何かの機械にギルドカードを通しているようだ。


「これでヌルヴィスさんはEランクとなりました。おめでとうございます」


「ありがとう」


返ってきたギルドカードにはFランクのところがEランクと変わっていた。また、それだけではなく、全ての文字が紫色で書かれていた。前までは黒色の文字で書かれていて、カードの全体が薄黒っぽい色だったから文字は少し見にくかった。しかし、今は前よりもよく文字が見える。

これを受付に聞くと、ランクごとに文字の色は変わるそうだ。ランクが上がるごとにFランクから黒、紫、青、緑、黄、赤と代わり、1番上のSランクとなると白になるらしい。


「そして、これがDランクらが多くいる場所を示した地図になります」


次に受付が出てきたこの街周辺が描かれている地図には道から外れた場所から入る林の奥の方のDランクが多くいる場所、さらに、少し入り組んだ先にあるCランクがいる場所が分かりやすくマークしてあった。


「これはお渡しします」


「え?いいのか?」


地図に使われる厚紙は高いものでは無いが、安いものでもない。ただ、そこに詳しい地形の様子、つまり精巧な地図などが描かれれば付加価値で一気に高いものとなる。この地図1枚でも入手するには大銀貨以上のお金が必要になる。


「この地図はヌルヴィスさんにお渡しするようにギルド長から言われております。ただ、これを他者にお渡ししたり、売ったりなどはしないでください。もし不要となりましたらギルドに返してください。」


「ああ、分かった」


この地図は俺の狩りの手助けをするためにくれたものであり、俺の金策のためにくれたものでは無いということだな。

しかし、これをポンッとくれるのを考えるとギルド長からかなり期待されているのかもしれない。


「では、お気を付けて」


「色々とありがとうとギルド長に伝えてくれ」


もう要件は無くなったようで、話はこれで終わった。俺はギルド長に伝言を頼むと、ギルドから出た。



「さて、どっちに行くか」


Dランク大量発生とCランク出現の場所では真逆とはいかないものの、それなりに離れている。1日で行けるとしたらどちらか片方だろう。


「まあ、Dランク大量発生か」


どちらが難易度が低いかと言われればDランク大量発生だろう。魔物はもちろん、数が強さに繋がるが、それよりも個として強い方がより厄介となる。極端の話、強過ぎてこちらの攻撃が全く効かなかったり、あまりのスピードで姿が見えなかったりしたらどうしようもないのだから。



「なるほど、これは誰も入らんな」


木々が鬱蒼としており、その細い隙間を縫いながらでしか進めない。こんな狭く住みにくい場所には魔物すらいないし、ここを抜けて人を襲おうとすらしないだろう。

そして、こんな場所まで冒険者が来ないのも納得だ。ここを魔物を担ぎながら通るのはできなくはないが、かなりの重労働になる。そのため、魔物をマジックポーチがなければ持ち帰れないだろう。また、木々が多く、草も背丈ほど長いので周りが見えにくく、下手すれば仲間ともはぐれるだろう。



「抜けた…!」


俺は1時間以上をかけ、その鬱蒼としている場所から出ることに成功した。地図ではここからは長年放置されているため、魔物が大量にいると予想されているらしい。ただ、林の奥の方というだけで、奥地という訳では無いので、出てくる魔物はDランクらしい。


「あっ」


開けた場所に出たはいいが、目の前にビックウルフの10数体とビックボアの10数体が睨み合っている現場だった。そうだよな、人を襲えないのなら当然食料は別種の魔物を殺して手に入れるよな。これはちょうどその現場というわけだ。

それらの魔物の視線は突然現れた俺に集中している。


「身体強化、氷身体強化!」


「「「ワオーン!!」」」

「「「ボフヒィィ!!!」」」


俺という因子が追加されたことでただの睨み合いから、ビックウルフの群れ対ビックボアの群れ対俺の三つ巴の戦いが始まった。

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