第62話 メリットとお願い

「メリットは複数あるけど、まず君に恩を売るためだ。この先君はもっと強く、高ランクになるだろう。その時に少しでも恩を売っておけばこの街にも俺にもいいことがあるかもしれない」


魔法職を隠しているのに、俺をそこまで評価してくれるのか。まあ、よく考えると、優良株のパーティを1人でボコったからその評価にもなるか。


「次に君をそこら辺のゴミに潰されたくないからだね」


そういうギルド長の目はとても冷ややかなものになっていた。


「優秀な若い者がくだらない大人の嫉妬によって潰されるのを俺は何度も見ている。まだ君は強くはない。そういった脅威を防げるとは思えない。それを防げる力を俺が守ることができる街で少しでも付けてほしい」


今度は真剣な目でギルド長はそう言ってきた。ギルド長の年齢は父さん達よりも少し上くらいにしか見えないが、それでも父さん達と同じかそれ以上の壮絶な人生経験をしているのだろう。


「そして、最後にこの街にいる間でいいから1週間に1回、半日程度でもいいからこの刹那の伊吹の先生として戦い方を教えてあげてほしい」


「え?」


メリットの話から唐突にギルド長からお願いが出てきた。


「さっき言った2つのことはこの子達にも当てはまる。女の子が多い分、危険度は君よりも大きいかもしれない。だからこの子達にも力をつけてあげてくれないか?」


確かに男の俺なら殺されて身ぐるみを剥がされるくらいだろう。だが、女の子なら殺されずに身ぐるみを剥がされて性奴隷よりもぞんざいで酷いような扱いを受けるだろう。さすがにそれを知らん振りできるほど俺はまだ冷たくない。


「ギルド長が教えた方が早いし、正確じゃない?」


だが、それを教えるのは俺でなくてもいいだろう。というか、冒険者歴が1週間の俺よりも相応しい人はかなりいるだろう。


「いや、意外と俺は忙しいんだ。それに、歳の近い人から言われた方がこの子達も理解を示してくれると思う」


チラッと刹那の伊吹を見ると、長剣男が勢いよく何度も頷いていて、魔法使いと回復魔法使いは数回頷いている。また、槍女は頬を少し膨らませて不満げにしながらも頷き、無口の子も小さく頷いている。

まあ、確かに年上から難しい見本を見せられてやってみろ言われるとしても、歳の近い俺からの方がより出来ると思えるか?



「でも教えるって言ってもどう教えればいいんだ?人に教えた経験はないぞ?」


「なに、一緒に依頼を受けて後ろから戦い方を見て、それの評価をその都度していればいいよ」


なるほど、その程度でいいなら俺でも教えられるな。


「もし、俺が今のくらいのペースでDランクなどの依頼を受けたらDランクになるのはいつになる?」


「1ヶ月、遅くても2ヶ月以内にはなれるよ」


2ヶ月以内なら悪くないな。できれば1年以内には王都に着きたいと思っている。もし仮に2ヶ月が経っても1年以内には王都に着けるだろう。


「わかった。Dランクになるまではこの街にいよう。長く留まってもらいたいからってランクアップを先延ばしにはしないでくれよ」


「それはもちろん、厳正に贔屓して評価するから安心してくれていい」


厳正に贔屓という訳の分からない言葉が出てきたが、ちゃんと評価してくれるなら問題は無い。


「それで、一緒に依頼を受けるのは今日から1週間後でいい?」


「はい!それで大丈夫です!」


俺が刹那の伊吹に聞くと、長剣男が元気よくそう答えた。俺はできるだけ後にするために1週間後といったのだが、それでいいなら良かった。


「なら1週間後の朝6時少し過ぎにギルドに集合ね。もし、7時とかになっても来なかったからもう一生何かを教えることは無いから」


「分かりました!」

「「はい!」」

「「うん」」


それぞれやる気に差はありそうだが、全員が返事をしたので良しとしよう。心の片隅で遅刻することを願っておこう。そうすれば合法的に俺はもう指導しなくてよくなる。


「じゃあ、また1週間後に」


俺はそう言って、訓練所から出る。そして、絡まれる前にギルドからも出る。ランクアップは手続きとかもあるから明日受付に来てほしいらしい。



「あー!疲れた」


変なトラブルにあったせいで無駄に疲れてしまったが、結果的には良い感じで終われた気がする。明日からはDランクの魔物が大量にいる場所を教えて貰ってそこで狩りをしよう。

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