第61話 ギルド長の妄想

「いや、普通は誰の動きが良かった、誰の動きが悪かったとかその程度の言葉をかけるところを具体的に俺からしても正確と思える助言をしてたから驚いたんだよ」


「あ、その程度でよかったんか」


どうやら、俺が驚かれた原因は助言をし過ぎたからだそうだ。いらない余計なことまで言ってしまったのか。


「しかし、魔法に関しても最適に近い助言ができていたのには本当に驚いたよ」


「母さんが魔法使いでその辺の知識も与えられたからね」


ギルド長からの質問で一瞬心の中で冷や汗が流れたが、問題なく返答ができた。


「なるほどね。それなら納得だよ…」


「?」


そう言ったギルド長の声のイントネーションが少し下がり気味だったのが気になった。


それもそのはずで、母親がわざわざ魔法職の特徴を物理職の子供に深く教えるということは元冒険者でも普通は無い。もしあるとしても、それは仲間になった魔法職に対して最適な助言をできるようにするためである。まあ、そこまで考える者はかなり少ないが、それならまだ分かる。

しかし、ヌルはパーティを組む気はないように思える。なら何のために教えたかと言うと、魔法職をよく知ることで魔法職の敵を殺りやすくするためという答えが1番に出る。ギルド長は母親が人を殺るという前提で息子を教育していたことになる。

もちろん、盗賊などの依頼もあるので冒険者も人とも戦うこともある。ただ、基本は魔物との戦闘である。だから人に助言ができるほど深くまで教える必要は無いと言える。

また、ヌルヴィスの動きは対人をかなりやった事のあるような慣れた動きだった。これは日常から人と戦っていないとできない動きだ。ヌルの親は息子をどうする予定でどのように育てたかに少し恐怖を抱いた。

そして、この考えをするなら、ヌルが1人を好み、誰とも関わりすらしないその態度にも説得力が出てきてしまう。


まあ、これらはギルド長の勘違いである。ヌルが魔法に詳しいのは自分も魔法を使うからである。そして、対人戦に慣れているのも父親と戦いながら特訓していたからだ。ただ、いずれ来るであろう物理職と魔法職を兼ね備えたステータスを持つからこそのトラブルに対応できるようにスパルタ気味に育てられただけだ。

また、人と余り関わらないのは襲ってきた冒険者が頭の片隅にトラウマに近いようにあるせいで、襲われない自己防衛のために関わろうとしていないのである。それにプラスして、5年近く両親と幼なじみの親としか深く関わりを持っていないので無自覚の人見知りのようになっているだけである。


ただ、そんなことをギルド長は知る由もない。




「さっきの生意気な態度は失礼しました!」


「おっ?!」


ギルド長の変化を気にしていると、長剣男が座ったまま地面におでこをぶつけるように頭を下げた。


「俺達は5人を相手に余裕に対処し、それだけでなく個々に対して詳しく適切な助言までしてくれるなんて…そんな人をあんな風に言っていたなんて過去の自分を殴り飛ばしたいです!」


「あ…そう…」


俺は急に人が変わったようにキラキラとした目で見詰めてくる長剣男が気味悪く感じてきた。


「これからは兄貴って呼ばせてください!そして、これからも助言をしてください!」


「いや、俺はもうこの街から出る予定だし」


ただだめと断っても食い下がってきそうな勢いなので、理由をつけて断った。


「もうこの街を去るのかい?」


「ああ、元からEランクになったら去ろうと考えてからな」


さっきの模擬戦に勝ったらEランクにしてくれると言っていた。つまり、これで俺のこの街での目標は達成されたわけだ。


「私からも融通するからDランクになるまでこの街に居ないかい?」


「は?何で?」


「そもそもEランクはそれなりの数がいるし、まだ脱初心者とも言えない。護衛依頼でもEランクだと雑用を任されてしまうくらいだ。Eランクで次の街に行っても雑魚が来たとしか思われないよ。ソロの雑魚…トラブルの予感がしない?」


「……」


次の街からは普通にマジックポーチを使おうと考えていたが、Eランクではそれは無理そうだな。

また、雑魚と思われるのは構わないが、護衛依頼で雑用を押し付けられたり、無用なトラブルに巻き込まれるのは嫌だ。


「しかし、冒険者登録したこの街ならそんなトラブルはおきないよ。むしろ、1週間でランクアップした超優秀ということになる。また、ギルド長と懇意な関係ということで少し珍しい魔導具を使っても盗んだり、襲おうと考える者は居ないと思うよ」


「…融通って何をしてくれるんだ?」


ギルド長からの今の話は俺からしたら魅力的に感じてしまう。特に魔導具、つまりマジックポーチを使えるという点だ。これが使えたら狩りの効率がかなり上がる。


「ビックやボブなどのDランクが大量にいる場所を教えたり…」


ギルド長はそこまで言うと、俺の耳に近付いて小声で話す。


「Cランクの魔物がいる場所も教えられるよ」


「っ!!」


俺は本気かという気持ちを込めてギルド長を見た。すると、ギルド長は堂々と頷く。

普通はまだランクが足りないCランクの魔物がいる場所は教えてくれないだろうし、そもそも教えてはダメだろう。それをも教えてくれるのか。



「見返りは何だ?それによってギルド長はどんな得がある?」


これが俺がこの街に常駐する代わりの措置ならまだ納得はできる。しかし、この約束をしても俺はDランクになったらこの街を去る。そんな短期間の約束をしてギルド長ひいてはギルドにどんなメリットがあるのか分からない。


「それはね」


ギルド長は俺をこの街に留めるメリットについて話し始めた。

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