第59話 冒険者パーティ対ソロ冒険者
「逃げずに来たようだな!」
「いや…このタイミングで逃げるなら模擬戦を受けないだろ」
訓練所に入ってそうそうにいちゃもん男にかけられた言葉に思わずツッコミを入れてしまう。
「もう、いっそ楽しむか」
目の前のバカを見て、ギルド長に言われたようにこの状況を楽しむことにする。合法的に新人にしては早くにランクアップできそうな優秀な冒険者パーティと戦えるのだ。父さん達との戦いとはまた別な体験ができる。
まあ、これが口で言ってきた文句からこうなったからそう思えるだけで、いきなり剣で攻撃でもされていたら問答無用で相応のやり返しをしようとしていたけど。
「これより、冒険者パーティの刹那の息吹と、ソロ冒険者のヌルヴィスの模擬戦を始める!」
「「「うおおぉぉぉ!!」」」
審判役のギルド長が模擬戦を始めることを宣言すると、周りの野次馬達が盛り上がった。
「両者、構え」
そう言われて、俺達はそれぞれ武器を握る。
「始め!」
「「「「身体強化」」」」
ギルド長の始めの合図で俺と相手の3人は身体強化を行った。
「はあーーっ!!」
1番最初に俺に向かってきたのは長剣を持った男だった。その男が振った長剣を俺は大鎌で簡単に弾き返す。
「やあっ!」
長剣を弾き返すと、男の影から俺に文句を言ってきた女が槍を突き出してきた。俺はそれを足を振り上げて上に弾く。
どうやら、俺に文句を言うほど血気盛んなのは前衛組で、奥を見ると俺を止めていた2人は後方の魔法使いのようだ。
「ん?」
俺の視界には4人しかいない。あの無口な奴が居ない。慌てて視線を後ろに向けると、ナイフを持って無口が近付いていた。
「闇…違う!」
つい咄嗟にストックしていた闇魔法を使いそうになったが、前の2人を飛び越えることで無口から逃げてストックを使うことを回避する。
別にこれは命に関わることではないので、ピンチになっても魔法は使いたくない。また、過去の経験からストックしているのは強い闇魔法だ。下手に使うと相手に重症を負わせてしまうかもしれない。
「ファイアアロー!」
「ん!?」
前の2人を飛び越えたせいで、魔法使いからの障害物がなくなって魔法が飛んできた。
「ふっ!」
ただ、その魔法は母さんのようなスピードがある訳でもなく、また途中で魔法が曲がることがないので簡単に避けることができた。
「ちっ…」
しかし、その間に前衛2人は俺の傍に接近し、無口は影が薄くなってよく見ないと居場所が分からなくなっている。まだ何もしていない魔法使いの横にいる女は多分回復魔法を使うのだろう。
このパーティはまるで父さん達のパーティのようにバランスが取れている。
そして、個々としては俺なら負けることはないくらいの強さだが、パーティとしてはかなり強い。現に、俺が今苦戦している。無口と魔法を気にしながら同時に前衛2人の攻撃を防ぐのが地味に難しい。
(魔法を使いたい…)
正直、魔法を使えば一気に後方にいる2人を倒せて、後は物理職の3人だけになるから簡単になる。
しかし、何度も言うが、それをしてしまうと後々がより面倒になるからそれはできない。
「よし」
だから俺はそんな願望は捨て、今できることで相手を倒すことを決意する。まずは面倒な無口からだ。
「捕まえた」
「っ!」
血気盛んな2人からの攻撃をいなした時に近くに来ていた無口の二の腕を掴んだ。掴まれたのを解こうとする前に俺は力任せに持ち上げてから地面に叩き付けた。
「かはっ…」
「よっ!」
地面にぶつけられたことで息が漏れて初めてその無口の声を聞いた気がする。
その地面に叩き付けた無口を俺は槍使いの方に蹴る。
「よくも!」
「ふっ!」
すると、長剣の男が向かってので、長剣を弾き返し、大鎌の刃の無い反っている部分で腹を打ち付ける。
「ごほっ…!」
「ファイアボール!」
そのまま長剣を手放して男は吹っ飛んで行く。
俺の傍に自分の味方が居なくなったことで、魔法使いが魔法を放ってくる。俺はそれを避ける。
ちなみに、魔法を大鎌で切るように受けることはできはする。しかし、大鎌がぶつかったところで軽く爆発のような形で消える。そのため、爆発の余波を食らってしまうので、回避が絶対に無理という時しかやらない。
「やあっ!」
無口を回復魔法使いの元へ置いてきた槍使いが俺に槍を突き出す。俺はそれを横にずれて避けると、槍使いの懐に入り込む。
「ほっ!」
「かはっ…」
そして、大鎌を持っていない左手で腹を殴る。すると、槍使いは腹を押えて膝をつく。後は後方組だけだ。
「ファイア…」
「遅い」
「こほっ…」
魔力操作のスキルを取得していないか、上手く活用するのが苦手なのか、まだまだ魔法を発動するスピードが遅い魔法使いが魔法を使う前に槍使いのように腹を殴って戦闘不能にさせる。
そして、近くで無口の回復を行っていた最後の1人の首の横に大鎌を構える。
「参りました」
この状況から回復魔法使いが1人でどうにかできる訳もないので、素直に降参してくれた。
「模擬戦終了!勝者!ソロ冒険者のヌルヴィス!」
「嘘だろ!」
「しゃあ!俺の勝ち!」
周りの野次馬が一喜一憂している中、模擬戦は俺の勝ちで終わった。
最初は慣れないパーティとの戦闘に苦戦していたが、1人を削ってからは早かった。パーティと戦う時は戦略を封じるためにもまずは最初の1人を戦闘不能にすることが大事かもしれないな。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます