第56話 宿屋
「あるのは常設依頼と少しの通常依頼か」
昼過ぎという時間だからか、それともここが田舎寄りの都市だからかは分からないが、通常依頼の数はあまり多くはなかった。
常設依頼はいちいち依頼を受けなくてもその魔物の討伐証明の部位を持ってくればギルドが提示している金額が貰える。そして、通常依頼は依頼主がいる依頼で、このボードから剥がして受付に持って行って受理して貰わないといけない。この他にも指名依頼や緊急依頼があったりする。その2つは依頼のボードに貼られることは無いらしいけど。
ちなみに、俺が受けられるEランクまでの依頼で通常依頼は無かった。
「ゴブリンは大銅貨3枚で、ウルフ、ボアは大銅貨5枚か」
俺が今言った依頼は全てEランクの依頼で、それぞれ1体の討伐証明をギルドに渡せばそのお金が貰える。また、Fランクの依頼だと薬草などの採取や物の運搬なんかがある。
ちなみに、ウルフとボアはゴブリンと違って毛皮が使えたり、食べれたりするため死体を持ってくればその分も追加で売れてお金になる。
「ボブゴブリンは銀貨1枚、ビックウルフ、ビックボアは銀貨3枚か」
Dランクの依頼になると、やはり依頼料もかなり上がっている。俺がいつも狩っていたビックボアでさえも1体で銀貨3枚もするそうだ。
まあ、今の俺はDランクの常設依頼は受けられないので、もしビックボアを狩ってもただ素材を売るしかできない。
「今日は遅いから明日だな」
依頼は見たが、今日は1つも受けない。今からでもゴブリンくらいは殺って帰れるだろうが、そこまで急ぐ必要は無いだろう。
「いい宿屋は知ってるか?」
「お金に少し余裕があるのでしたら、ギルドを出て左に進んでいくと、心の拠り所という看板があります。その宿屋がいいですよ」
「ありがとう」
暇そうにしていたギルドの受付に良い宿屋を聞いて俺はギルドを出た。
「ここか」
ギルドの受付に言われた通り進むと、宿屋が見えてきた。
「いらっしゃい、食事?それとも宿泊?」
宿屋に入ると、俺とそう変わらないくらいの年齢の女の子がすぐに声をかけてきた。
宿屋の1回は食堂のようになっていて、椅子と机が置いてある。昼過ぎだからか今は誰も居ないが。
「泊まりだ」
「泊まりなら夕食と1日1回のクリーンの魔法付きで大銅貨5枚だよ!」
生活魔法が使えない俺にとって、身体を綺麗にしてくれるクリーンの魔法が1日1回使ってもらえるのはかなり助かるな。ただ、夕食付きとはいえ駆け出しの冒険者には1泊大銅貨5枚は少しきついかもしれないな。パーティとして考えるなら毎日ボアやウルフを何体も狩らないといけないからな。
「ならとりあえず10泊頼む」
「はーい!」
お金に余裕がある俺は即決でこの宿に泊まることを決め、一括で10泊分の銀貨5枚を払う。
「じゃあ、部屋に案内するよ。着いてきて」
食堂に人が居ないからか、その子がそのまま案内してくれた。
「お客さんも冒険者になるためにここに?」
「そうだな」
部屋に案内してくれている途中で女の子がそう話しかけてきた。
「…無茶して帰ってこない人を何人も見てますから、お客さんは無茶だけはしないでくださいね」
「ありがとう。払ったお金が無駄にならないように帰ってくるよ」
「ふふっ!そうしてください!お客さんの部屋はこの部屋ですよ」
ちょうどここで案内してくれた部屋に到着したので俺は部屋の中に入った。
「夕食は18時の鐘がなってから来てくださいね。あまり遅いと無くなりますからね」
「分かった」
それだけ言うと、女の子は居なくなった。
ちなみに、大体の都市では6時、9時、12時、15時、18時で鐘が1度鳴るらしい。その音で住民は時間を把握しているそうだ。
まあ、俺は父さんとの特訓である程度正確な体内時計で時間を把握することができるので鐘の音は無くても問題ない。そもそも俺の村では鐘なんてなかったしな。
「…この宿でも帰ってこなかった冒険者はかなり居るんだろうな」
さっきの女の子の言い方だと、この宿にお金を払ったのに帰ってこなかった冒険者は珍しくないのだろう。
「俺は絶対に死なない」
俺は自分に言い聞かせるようにそう呟く。やっと冒険者になるという夢が叶ったのに、そう簡単に死んでたまるか。
「…寝るか」
18時まで暇なので俺は寝ることにした。この部屋の広さは2畳位で、ベッドだけがあるシンプルな部屋だ。だから寝るくらいしかやることも無い。
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