最初の街編

第55話 冒険者ギルド登録

「身分証はあるか?」


「無い」


イスブルクの門に行くと、剣と槍を装備している門番が2人立っていた。誰も並んでいなかったのでそのままそこに行くと声をかけられた。


「なら大銅貨1枚だ」


「分かった」


俺は素直にポケットから取り出した大銅貨1枚を門番に渡す。

ちなみに、冒険者資金として貯めていたお金は大銀貨数枚程度になる。だからこの程度の出費は問題ない。まあ、冒険者になると、ギルドカードで身分を証明できるらしいので街に入る度にお金を払う必要はなくなる。



「その格好を見るにお前も冒険者になるために来たのか?」


「ああ、そうだ」


ここは俺の居た村以外の田舎の村からも近く、俺のように15歳になって冒険者になるために来る者がいるようだ。


「冒険者ギルドはこのまま道を真っ直ぐ進んで一際でかい建物だ。頑張れよ!」


「ありがとな」


俺は背中を向けて腕を上げて感謝を伝えた。旅立って初めて会ったこの者達は悪人では無いようで嬉しいが、俺を殺そうとする者がどこにいるか分からないから油断はできない。



「人が多いな…!」


それはともかく、イスブルクに入ってまず驚いたのは人の数が多いことだ。道の周りに家や店が建っているため、道には人が大勢いる。今、視界に入っている人だけで俺の村の人口を超えているだろう。



「これでも都市としては小さめっていうんだからな」


俺が今いる、サラステン王国の首都パロメラに比べればかなり小さい都市なんだそうだ。

とりあえずは旅をしながら1年以内にシアやルイがいる首都を目指すので、首都はどれほど賑わっているか楽しみだ。



「串焼きを3本くれ」


「はいよ!銅貨3枚な!」


「ほい」


「毎度!」


冒険者ギルドに行く途中に香辛料のいい匂いがする串焼きが売っている屋台があったのでつい寄ってしまった。


「うん、上手い」


何らかの魔物の肉なのだろうが、かなり美味かった。というか、昨日は干し肉しか食べていないのでもしかすると何を食べても美味しく感じたかもしれない。



「着いたか」


串焼きを食べながら歩いていると、周りの建物よりも数回り大きい建物が見えた。看板に冒険者ギルドとでかでか書いてあるのでここが冒険者ギルドで間違いないだろう。


「よしっ」


俺は少し気合を入れて冒険者ギルドに入る。

冒険者ギルドは酒場も兼ねているようで、昼過ぎというのに数人酒を飲んでいる者がいた。



「冒険者に登録したいのだが」


「はい。かしこまりました!」


飲んでいる者を横目に俺は受付にやってきた。昼過ぎという時間だからか、受付に人がいる場所は1箇所だけだった。受付は20歳過ぎ程の女の人だった。



「まず、物理職、魔法職どちらですか?」


「物理職だ」


少しドキッとしたが、ノータイムでどもることも無く答えられた。


「では、闘力で冒険者登録をしますね。よいしょっと…」


受付の人はそう言うと、半透明の顔よりも少し大きいくらいの水晶を下から取りだした。水晶の台座には闘力用と大きく書いてある。


「ここに手を置いてください」


「ああ」


言われた通りにそこに手を置く。すると、ほんの少し闘力が手を通して流れ出る感覚がした。


「手を離して大丈夫ですよ。これで冒険者登録は完了です」


意外と呆気なく冒険者登録は完了した。



「では、冒険者の注意点をお話します」


そこから受付の人からの冒険者として活動していく上での注意点が話された。

大まかに話を纏めると、人に攻撃しない、人の獲物を取らないなどの当たり前の内容だ。

また、冒険者同士の個人的なトラブルにギルドは基本的に介入しないようだ。ただ、殺人などの重罪が加わる場合にはさすがに介入するらしい。そして、トラブルなどを起こしたり、犯罪行為に手を染めてしまうと、冒険者ランクが下がったり、最悪の場合は冒険者ギルドから除名や憲兵に捕まるなんてこともあるそうだ。


しかし、俺はその注意点の中で気になることがあった。



「ギルドはステータスの闘力か魔力のどちらかを使って登録しているので、1度除名された者がもう1度再登録することは不可能です。ですので、除名されないようにしてください」


このセリフが気になった。普通の人ならこの説明になんの疑問もないだろう。しかし、俺は闘力で登録したが、魔力も持っている。つまり、俺は魔力で別の人で登録することが可能ということになる。

もちろん、今すぐ試そうとは思わない。



「以上で注意を終わります。また、初心者のための教官による講習やパーティを組めるようにサポートを行う制度がありますが、ご利用なさいますか?」


「え?」


この制度は父さん達からも聞いたことがなかった。もしかすると、田舎から出てくる者が多いこの街特有の制度なのかもしれない。


「いや、いいや」


「え?よろしいのですか?」


受付の人が驚いているが、特訓なら父さんから散々されているし、当分はソロで活動する予定だ。だからその制度は必要ない。


「分かりました。やっぱり制度をご利用したいと思ったらいつでもご利用できますので、いつでもお声掛けください。

説明は以上で終わります。これがFランクのギルドカードです。依頼は自分のランクの1つ上まで受けられます。

これから頑張ってください」


「ありがとう」


説明はここで終わった。俺は早速、Fランクのギルドカードを受け取って依頼が貼られているボードを見に向かった。

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